離れていても心がぐっと近くなる「遠隔講義」の新しい可能性

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人気講師の授業を全国どこでも受けることができるなど、テレビ会議のシステムを利用した「遠隔講義」が教育の現場で広がっています。特別支援学校卒業後も学び続ける人にとっては、教育の幅を広げ質を高めるための重要なツールになっているようです。昨年4月から名古屋と新潟を結んだ「遠隔講義」に取り組んでいるシャローム大学校の引地達也さんが、その手応えを自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で綴り、遠くても近くにいるような嬉しい感覚が確かにあると伝えています。

「遠隔講義」でも心がぐっと近くなるということ

昨年4月から始まった埼玉県和光市のシャローム大学校を起点に、名古屋市の見晴台学園大学、新潟市のKINGOカレッジとをインターネットのテレビ会議システムで結んでの「遠隔講義」は2019年度後期も終盤となり、2020年初めの講義は私が新潟のKINGOカレッジを訪問し実施した。

この講義は私が講師ではあるがそれぞれの学校からの発表や各校どうしのやりとりもある双方向性のプログラムで、前期後期のそれぞれ1回は名古屋と新潟から講義をする約束をしており、前回の新潟での講義は前期開始早々の昨年4月だった。

その時は、KINGOカレッジも開学して間もなく、教員も学生も緊張した面持ちで、得体のしれない「遠隔講義」に聞き入っていたが、今回の訪問では、通常は画面の中にいる私に「見せたかった」と大事にしていたものを持ってくる学生がいたりして、講義を積み重ねて「遠隔」であっても心の距離を少し縮められたのではないかと思う。

遠隔講義のテーマは「メディア・コミュニケーション」で後期はアニメ番組、時代劇、刑事ドラマ、ホームドラマ、学園ドラマなどのそれぞれのドラマジャンルの歴史や社会背景、その含まれたメッセージなどを明示していきながら、クイズの出題にチームで考えてもらうコーナーもある。好きなドラマなど各個人からの発表もあり、年末年始には自分の周囲の「クリスマスの風景」「お正月の風景」を写真付きで報告してもらった。

スマホ時代にカメラは身近なアイテムで学生の目線がそれぞれの写真に現れるから面白い。発表に対して私も無邪気に反応し質問してしまい、その場で答えられなかったり、私の質問の意味が分からなくても、その後に各校の先生に聞いて、後日答えてくれたりするのは、対話の中で学びが存在することを実感する瞬間でもある。

私が新潟で講義をするのに合わせて学生が持ってきてくれたのは宝物の仮面ライダーカードの束であり、ほかの学生は日本テレビの「24時間テレビ愛は地球を救う」のメーン会場である日本武道館を訪れた際に配られた特別の新聞だった。

仮面ライダーに関しては講義の中でも仮面ライダーを取り上げたこともあり、24時間テレビも講義の内容に刺激されてその学生の中で、私に「見せる」という発想につながったのだろう。

学生はカバンからその新聞を取り出し「これをずっと見せたいと思ってきたんです」と話し、新潟から母親と2人で上京し日本武道館に行った興奮をそのまま伝えてくれた。その学生の、思い出の結晶が新聞である。

私はその新聞をじっくり眺めて、そこで何が起こったのかを聞き、学生が答える。そのやりとりも、新潟と東京で頻繁に会えない分、大事なやりとりだと思うと、言葉にも力が入る。これが大事に会話をすることなんだとあらためて思う。

昨年末に行った名古屋の見晴台学園大学でもそうだったが、遠隔講義でつながった学生との生のやりとりは新鮮で楽しい。絶対的な「距離」をインターネットのテレビ会議システムで埋めようとして行っている講義であるが、その距離があるから、会った時の時間を大事にしようと思う気持ちが芽生えてくる。この遠くても近くにいるような嬉しい感覚をどのように伝えられるだろうか。

そして、デバイスの発展によりコミュニケーション行為が無機質になりそうな錯覚を、そのデバイスを利用してより人と人とのつながりが温かみのある、そしてそのコミュニケーションを通じて「生きる」ことに前向きになれるものになりはしないだろうか。そんなことを考えながら、この遠隔講義から生じる新しい可能性を考えていきたい。

image by: Shutterstock

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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