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情報筒抜けか。河井案里氏ウグイス嬢の報酬疑惑がバレた裏事情

先日掲載の「雲隠れ3議員にボーナス数百万。憲法より先に議員報酬を改正せよ」等でもお伝えしている通り、公職選挙法違反疑惑が報じられるや夫妻で姿を消した、河井克行・案里両議員。ウグイス嬢に対して案里氏陣営が法定上限を超える報酬を支払った疑惑が持たれているのですが、それがもし真実ならば、なぜ明らかな違法行為に走ってしまったのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんが自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、その真相に迫っています。

高給ウグイス嬢を独占して墓穴を掘った河井克行、案里夫妻

選挙期間に入ると、うっとうしくてならないのは、選挙カーから流れる連呼である。世界中を調べて回ったわけではないが、ものの本によると、そんな選挙運動をする国はほかにないそうだ。

たとえば、議会制民主主義のお手本、英国。宣伝カーはあっても拡声器で声を張り上げたりはしない。もちろん候補者名の連呼などありえない。先進国で一般的な戸別訪問が日本では禁止されており、その分、選挙カー頼みになるというが、だからといって騒音をむやみにばらまいていいというものではないだろう。

公職選挙法には「何人も、選挙運動のため、連呼行為をすることができない」と書かれている。これだけでいいのに、なぜか以下のように「但し書き」が加わっている。

ただし、演説会場及び街頭演説(演説を含む。)の場所並びに午前8時から午後8時までの間に限り、選挙運動のために使用される自動車の上においてはすることができる。(第140条の2第1項)

連呼はできないと言いながら、できるようにしているのがこの定めだ。「ただし」以降、すなわち例外規定を削除すれば、日本の選挙は変わる。街頭演説や集会、討論会、あるいはインターネットなどでまめに政策を訴えていく選挙運動のスタイルに変えていかざるを得ないからだ。

今の選挙運動、連呼をするウグイス嬢の力量にいかに頼っているかが浮き彫りになったのが、公職選挙法違反の疑いで広島地検から家宅捜索を受けた自民党・河井案里参院議員のケースである。

河井案里氏の夫は、総理補佐官をつとめたこともある河井克行前法務大臣だ。菅官房長官にくっついていたら、いつの間にか政権中枢の仲間入りし、安倍首相のお気に入りの一人にもなっていたというのが、克行氏の大ざっぱな歩みだ。総理外交の事前交渉に辣腕をふるったかのごとき評価は、いささか買いかぶりすぎだろう。

河井案里氏は昨年夏の参院選で初当選した。その選挙運動で、ウグイス嬢と呼ばれる車上運動員たちに法定1万5,000円の2倍、つまり3万円を支払っていた疑いがかけられている。選挙事務所を取り仕切っていたのは克行氏だ。世話になっている安倍首相と菅官房長官の期待を担った妻の出馬に、よほど燃えるものがあったのだろう。

法がどうであれ、高いパフォーマンスができるウグイス嬢を確保したい。他陣営にさらわれたら、浮沈にかかわる。そんな強迫観念に駆られるほど、参院広島選挙区(改選数2)は、かつてない激戦だった。

自民党岸田派の重鎮、溝手顕正氏の金城湯池とされてきたところに、同じ自民党公認で河井案里氏が乗り込んできたのである。党本部は表向き、参院広島選挙区の議席を自民党が独占するためと大風呂敷を広げたが、どだい、そこには無理があった。

前回の2013年参院選で当選したのは溝手氏と民主党の森本真治氏だ。溝手氏は得票率46.28%で2位の森本氏に圧倒的な差をつけはした。だからといって、自民党公認候補が二人も出たら、まさに党組織のまとまりを砕く分裂選挙。溝手氏を支持する地元の県連が猛反対したのは当然のことだ。

ところが、今の自民党には官邸の意向に逆らうエネギーが枯れてしまっている。溝手氏の派閥領袖である岸田文雄政調会長に、せめて、あくどいほどの迫力があれば、安倍首相や菅官房長官が手をつけられない選挙区であっただろう。

とにかく官邸は参院広島選挙区の議席を、齢77歳の溝手氏よりも、河井克行という忠臣の妻に与えたほうが、なにかと都合がいいと考えたのだろう。誰から持ち出した話なのかはわからないが、幸か不幸か、広島県議だった河井案里氏は、党参院議員会長までつとめた老練議員に国政選挙で挑むことになった。

ウグイス嬢争奪戦が熾烈だったことは想像に難くない。溝手、河井陣営ともに長い選挙歴があり、選挙サポート会社などに頼らなくとも、かき集める力はあるだろう。ただ、同じ自民党だけに、来てほしいウグイス嬢も共通していたのではないかと推察される。

従来なら、溝手氏は参院選、河井克行氏は衆院選、案里氏は広島県議選と、すみわけができていたが、昨年の参院選はそうはいかない。河井陣営は法で定められた上限1万5,000円の倍額を提示することによって、意中のウグイス嬢を確保できたということではないか。

だが、カネにまつわる裏工作は、敵陣営に筒抜けになりやすい。ウグイス嬢たちの横のつながりがあるからだ。

ウグイス嬢は年齢も職歴もさまざまで、ウグイス嬢派遣などを業とする会社に登録して全国的に活動するプロもいれば、バスガイドや司会者がアルバイトしたり、声に覚えのある主婦やフリーターが活躍しているケースもある。そういった人たちが選挙によって味方になったり敵になったりしながら、ウグイス嬢という立場を共有して、情報交換しているであろう。

今回の一件は、週刊文春19年11月7日号のスクープで火が付いた。同号の発売日である10月31日朝、河井克行氏が、参院選後に念願かなって就任したばかりの法務大臣を泣く泣く辞任した。

文春は「ウグイス嬢や河井氏の後援会関係者、広島県連関係者などを取材」して情報をつかんだと書いているが、ふつうに考えれば、ネタ元は、落選の溝手陣営についた自民党広島県連の関係者ではないだろうか。その情報を得て、ウグイス嬢や後援会に取材を広げたということだろう。

文春をはじめとするこれまでの報道によれば、河井陣営は13人のウグイス嬢に1日あたり3万円を支払っていたが、法定通りを装うための工作をしていた。

たとえば文春が入手した7月21日付の領収書を見ると、1日1万5,000円で8日分の合計額12万円がウグイス嬢の手で書き込まれているが、それとは別に、公示前7月1日付の同一筆跡の領収書もあって、そこには「人件費として」の但し書きで12万円が記載されている。まるで選挙前になにがしかの仕事があったかのようだが、文春の取材ではそうした事実はないという。

ともあれ、参院選で案里氏が勝利し、河井夫妻は喜びの頂点に達した。克行氏のフェイスブック(19年8月1日)には、河井夫妻と菅官房長官を含む9人が宴席で一つの写真におさまった姿が公開され、以下のコメントが記されている。

私が主宰する自民党若手・中堅議員の会「向日葵(ひまわり)会」は、今夜、菅義偉内閣官房長官を招き、参議院議員選挙の慰労会を行いました。妻を含めた2名の新会員を加え16名になった「向日葵会」。互いに学び合いながら、これからも安倍総理大臣を支えて行きます。

ところで筆者は、激戦になったがゆえに、法定の2倍の報酬を支払ってでもデキるウグイス嬢を確保しようとしたと書いたが、実際のところは、克行氏のこれまでの選挙でも同じようなことが行われてきた可能性があることも指摘しておかねばならない。

プロを自任するウグイス嬢や、派遣する会社のなかには、プライドにかけて1万5,000円では引き受けないところも多いと聞く。ウグイス嬢への二重報酬の違法行為は選挙における「商慣行」として一部で定着し、政界や選挙コンサル業界では「暗黙の了解」になっているとネットで暴露する事情通もいる。

なにしろ、選挙になるとわかったら候補者が何より先に手配し、確保しておかなければならないのはウグイス嬢だと言われるほどである。それだけウグイス嬢の力量はピンからキリまである。

だとすれば資金力の豊富な陣営は先んじて、カネに糸目をつけずハイレベルのウグイス陣容を整えようとするだろう。これまで国政選挙でウグイス嬢の報酬が問題になったケースはほぼなかったこともあり、河井夫妻は何のためらいもなく、違反行為に走ったのではないだろうか。

永田町、霞が関を席巻する“アベ本位主義”のもと、首相に近い政治家たちの“傲慢指数”はうなぎのぼりだ。河井克行氏も例外ではない。法務大臣ともあろうものが、地元のイベントに間に合わせるため、警護の警察車両か後続していても平気で、80キロ制限の高速道路を140キロで秘書に走行させるなど、まったくもって言語道断。法軽視、特権意識の丸出しだ。恥を知れ、と言わねばならない。

こういう政治家のことだから、ウグイス嬢の一件も、「何が悪いんだ、みんなやっているではないか」と、むしろ自分たちだけが血祭りにあげられているような被害者意識を抱いて2か月余りも雲隠れしていたのではないだろうか。

「適応障害」だの、「捜査に支障があるから話せない」だのと、甘利明氏ばりの分かりやすいウソをついてまで、説明責任を免れようとする。モリ・カケ・サクラを官僚への圧力で隠し通そうとする権力私物化の親方に倣っていたら、ロクなことはない。

image by: 河井克行 - Home | Facebook

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