ニューヨークで財布を拾ってもらうとどうなる?日本人社長の実話

 

それだけで終わらないのがNY

その日の夕方、編集部に電話がかかってきます。「社長あてですよ」と言われ代わると、その彼からでした。え?どうして、会社の電話番号を知ってるの?と一瞬、不思議に思いましたが、財布の中には予備の名刺も数枚入っているので、特に不思議のないこと。僕に電話する前に、会社に電話しようとしてくれたのかもしれません。僕は恩人に、さっきはありがとう、とまたお礼を言いました。

彼はにこやかな空気で「さっきのお礼なんだけど、財布の中には400ドル以上入ってたよね。20ドルだと安すぎないかな」と言ってきます。ほんの一瞬だけ、驚いたけれど、確かに5%は少ないかもしれない。僕もじっくり考えたわけでなく、自分の財布の中の所有金額もあやふやだったのと、ドタバタの流れの中の一瞬の出来事だったので、深くは考えず、20ドル札1枚だけを渡してしまった。確かにその際財布に入っていた金額が400ドルというのが確かなら、最低でももう20ドルは渡すべきでした。でも…わざわざ会社に電話してくるか…。

「ごめん!ごめん!いくら入っていたか覚えてなかったから、とっさに20ドルだけ渡しちゃった。もしよかったら、もっと渡すから、どこかに振り込もうか?」そう言う僕に、「いや、実はもう、おまえのオフィスの下まで来ている」と彼は当たり前のように言います。会社の電話番号がわかるなら、そりゃあ会社の所在地も把握している。

慌てて、ロビーまで降りた僕は、ロビーで一人待ってた彼に、プラスもう40ドルを渡しました。ごめんね、わざわざ来させて。じゃあ、これ、お礼…そう渡すと彼は20ドル札2枚を見て、ニヤリと笑い…「これだけ?」と聞いてきました。

これだけ? あ、いや、もちろん、拾ってもらって連絡くれて、すごく助かったけど、落とした額の15%は相場以上だと思うけれど。オッケー。助かったしね、じゃあもうプラス20ドル、と合計80ドルを渡しました。総額の20%。彼は、納得したのか、していないのか、微妙な顔をして帰っていきました。ただ、帰る前に、「このビルで働いてるんだぁ。また来るよ」と一言残して。また来るよ??

翌日、今度は僕のケータイに電話がかかってきます。「いろいろ考えたんだけど、お前の財布はBALLYだよな。本革だ。少なく見積もっても●●ドルくらいはするはずだ。それにクレジットカードも2枚入ってた。他にもカフェだのマッサージ店だのスタンプカードも。大切な子供たち…ツインズか?かわいいなぁ、彼らの写真も入っていた。その写真だって、おまえの元に戻ってきた。つまり、そのすべての総額で考えてもらわないと…80ドルだと少なすぎないか?」と。

さすがに、少しだけ怖くなってきました。いや、もちろん、彼は恩人。大切な財布を拾って届けてくれた人。でも、会社と自宅と個人の電話番号もメモって、会社にまで来て、謝礼の額が少ないと催促して、今度は、ケータイにまで電話してきて、子供の写真も確認したと言って、さら催促してくる…。なにか得体の知れない恐怖まで覚え、「財布を拾ってもらって感謝しているけど、80ドルは少なすぎるとは思わない。これ以上は払う気はない」ときっぱりと言いました。ちょっとした気味悪さも手伝い、自分でも驚くほど、はっきりと言い放ってました。

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