このような中で『統一日報』(2020年3月11日号)「ノースコリアンナイト──ある脱北者の物語──26」に「伝染病が発生しても誰にも頼れず、どこにも救いのない国」という記事があった。
「私が知る限り北朝鮮当局は国内でも情報共有をしなかったし、感染症に対処する能力も意思もなかった。衛生環境と栄養状態が悪い北朝鮮では、1995年以降の経済難に陥ってからいろいろな伝染病が以前より蔓延していた。伝染病が発生しても病原菌を分析するシステムがないので、病院に行くと医者が問診したり熱を測ったりして、病名を告げられて終わりだ。不安になって他の病院に行くとまた違う病名を言われるので、最初から病院に頼らないでアヘンを使って治療するのが普通になっている。
北朝鮮でアヘンは家庭の常備薬であり万能薬だ(これについては宮塚も脱北者の聞き取り調査で同じようなことを聞いている)。病院に薬はないので、医者に書いてもらった処方箋を手に個人の闇薬局に行くのだが、お金のない人は薬を買えないし、買えても中国から入った不法製造の薬で効果があるか分からない。
病院にある薬は国際支援で入った薬が多く、幹部用とお金持ち用で、目の前で死んでいく患者がいてもその『所蔵薬』は対象者以外には絶対使わない。…伝染病が発生した初期には衛生防疫所と軍隊が派遣され、発生地域を封鎖して消毒剤を撒いたりする。しかし、拘束時間が長くなると派遣された人たちの食料が調達できず、また派遣された人たちは防疫服などないため、病気がうつるのが怖くて逃げてしまって、封鎖地域の人は食べ物などを手に入れるためにあっちこっち行くからどんどん広がるのだ。一番ひどい状況は、伝染病で死んだ人の死体処理だが、その中でもひどいのは軍隊と教化所(刑務所)での死体処理だ…」
全文を紹介したいが長くなるのでこの部分までの紹介で終えるが、北朝鮮のコロナ感染者ゼロ説を唱えるアメリカの北朝鮮問題の専門家が、「北朝鮮が新型コロナが国境を越えるのを阻止するのに成功した可能性はあると思う」と述べたというが、果たして1500キロメートルにおよぶ国境線を完全に封鎖することはできたのだろうか。私はこの専門家にぜひ会って聞き出したいものである。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)
image by: Alexander Khitrov / Shutterstock.com