香港の今日は、台湾の明日。この時期に強権発動する習近平の魂胆

 

貿易戦争、南シナ海・東シナ海を舞台とした武力的な緊張、COVID-19を巡る情報戦など、多正面でアメリカと衝突する中、なぜ習近平国家主席はこのような賭け、もしくは暴挙に出たのでしょうか。

理由の一つは、「香港民主化デモを巡る問題に決着をつけたい」というポイントです。2018年以降、ことごとく習近平指導部の香港でも対応は失敗し、デモがどんどんエスカレートしていく中、暴徒化したデモ隊にではなく、国際社会は習近平政権に対して非難を浴びせ、そして昨年11月の区議会選挙では民主化の勝利を許してしまった(注:富裕層が暮らす複数区では親中派が勝利した点には注意)ことで、中国共産党内での習近平国家主席の指導力に疑問符が付けられた可能性が囁かれ、このままでは自らの権勢に傷がつくとの恐れでしょう。

今年秋には香港立法府の選挙があり、そこで再び民主化が過半数を取るようなことがあれば、習近平氏にとっては致命的なエラーになるかもしれないと言われるため、COVID-19感染拡大を警戒してデモが制限される今のうちに叩いてしまおうと考えたのではないかと推測できます。

不気味なのは人民解放軍の幹部が挙って香港国家安全法に賛意を示していることです。先の民主化デモの際には、人民解放軍は対岸までやってきたものの、実際のデモ対応は香港の警察に任せましたが、今回については「国家分裂を目論む勢力に対しては、領土の安全と国家主権を守るために、人民解放軍がコントロールする」という発言が相次ぎ、もしかしたら今後は直接的な弾圧に人民解放軍が乗り出すのではないかとの憶測も生んでおり、習近平国家主席の人民解放軍掌握の事実と香港暴動鎮圧への覚悟が見て取れ、党内での自らの権威基盤固めへの意欲の表れと考えられます。

他の理由としては【国際世論からのCOVID-19非難と責任追及への目眩ませ】とも見ることが出来ます。今回の新型コロナウイルス感染拡大の世界的パンデミックにより、中国責任論が、アメリカのみならずオーストラリア、インド、トルコなどでも広がり、中国共産党への損害賠償を求めて国際法廷に訴える動きが増えてきています。

尖閣問題や南シナ海の問題などでは、国際的な裁判に提訴されれば無視し、裁判には出席しないという手でやり過ごす手を取ってきた中国ですが、もし今回、トランプ大統領のアメリカをはじめ、その他の国々が挙って提訴したとしたら、欠席裁判の結果、必ず負けることになり、それは米国他における中国共産党の資産の差し押さえ、特に中国が購入している米国債の債権の差し押さえにつながるでしょう。今秋の大統領選挙で勝たなければならないトランプ大統領にとっては、ゆえに対中訴追と資産差し押さえは“絶対にやらなくてはならないこと”になるでしょう。

そこで習近平氏としては、国際社会の関心を新型コロナウイルス感染拡大による訴追問題からそらす必要があり、それが香港なのではないかという点です。香港国家安全法の制定については、9月の香港立法議会での決定待ちになるようですが、5月28日に全人代で可決しておくことで、香港でデモが再燃し、それを動乱発生として人民解放軍に武力鎮圧を行わせ、国際金融都市香港を混乱させることで、コロナ賠償どころではないとの雰囲気を国際社会、特にアメリカに対して発生させ、武力鎮圧と混乱激化を思いとどまる代わりに「賠償責任追及を諦めろ」と交渉を持ち掛けることができるかもしれないというシナリオです。

print
いま読まれてます

  • 香港の今日は、台湾の明日。この時期に強権発動する習近平の魂胆
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け