【書評】完璧な演出。光秀が信長を討ち、秀吉に首を取らせた理由

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本能寺の変から400年以上を経た今となっても、「天下の謀反人」として受け止められることが多い明智光秀。しかしながらその実像は、未だ謎に包まれたままです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、そんな光秀を「ダブルエージェント」という斬新な切り口で捉えた書籍。信長の下で異例の出世を果たした訳や、本能寺で主君を討った理由など大胆な仮説が記された、数多ある光秀本の中でも「異端の書」とも言うべき一冊です。

偏屈BOOK案内:波多野聖『ダブルエージェント明智光秀』

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波多野聖 著/幻冬舎

ダブルエージェントとは、光秀が将軍足利義昭の側用人として上洛したが、信長にも仕える身でもあったということ。武家最上位の将軍、もう片方は将軍を奉じた絶大な力を持つ武将。現代に置き換えると、財閥系企業の総務部長でありながら、破竹の勢いで一部上場を果たした新興企業の平取締役としても働く、二重職籍を持つ存在だ。光秀も横文字で表されるとは思ってもなかっただろう。

十兵衛は堺衆のインテリから鉄砲や玉薬の知識、医学や薬術、天文学、航海術、占星術、南蛮の政や戦について学んだ。なかでもマキャベリの「第一の者(君主論)」は十兵衛に大きな影響を与えた。それは信長の「天下布武」と重なる。持つべきものは良き法と良き軍備である。深謀遠慮の信長は、幕府の組織を法の形をとって意のままに動かすと同時に、将軍義昭の力を制約した。

戦国の世を終わらせ、天下統一を成し遂げる巨大プロジェクト。その成功にはどのようなキャラクター(人材)、ファクター(要素)、プロセス(過程)が必要であったか。天下統一プロジェクト遂行が、誰によって・何が・どのようにして行われていったのか。信長はヒト・モノ・カネが複雑に絡む土地問題を部下に取り組ませることで、複雑なマネージメントを学ばせた、と著者は説く。

50歳前後に財閥企業に中途採用され、課長待遇で入社、3年後に筆頭取締役に昇進した光秀。実力主義の信長家臣団の中でも、その早さは図抜けている。だが表立ってはその理由が分かっていない。合理主義者の信長が理由もなく光秀を厚遇したとは考えられない。表に出せない重要な役を光秀が請け負っていたのではないか、という仮説が成立する。光秀は信長にも義昭にも仕えている。

二人の主人を持ちながら最終的に信長につき義昭を見限る、という結論から逆算すると、早くから義昭の情報を信長に伝えていたと考えられる。信長は油断のならない義昭を、光秀を使って諜報・監視していて、信長暗殺を未遂に終わらせたのだ。報告・連絡・相談、三つの違いを意識すると意思疎通の重要性が理解できるし、どのタイミングでどう行えばよいか、光秀は分っていたはずだ。

信長は光秀に囁く。「天下布武が終わった後、朝廷を滅する。儂は天子になり織田家は皇族となる。儂が太閤となり信忠を将軍にすることや、儂を大御所という立場にすることも悪くない。信長があらゆる権威の頂点に立つ。そしてそれを未来永劫持続する」。光秀は信長を滅することを決意する。そして、下剋上を行った者はあっけなく惨めな最期を遂げれば、この連鎖は断てると考える。

だが、誰に俺を討たせる?人たらしの秀吉に決めた。光秀は万感の思いを込めて「時は今天が下しる五月かな」を残す。光秀は、信長の朝廷を滅する企てを阻止するため、という真実は誰にも語らず、「主君信長を殺し、愚かにも天下取りを狙った明智光秀」を演じた。そして、秀吉との一戦で惨めに負ける。そこまで完璧に演出した。その意識を武士に刷り込めば下剋上の抑止力になる。

本能寺の変から8年後、天下は羽柴秀吉による統一で定まろうとしていた。小田原城を囲み兵糧攻めの長期戦。そこへ伊達政宗が遅参する。秀吉は怒って謁を許さない。政宗を助け、秀吉との間を取りなしたのが千利休だった。茶室の秀吉、政宗、そして利休。二人とも陶然とさせられる利休の点前。ここまで来ると、そうきたかと思う。なるほど、納得のいくエンディングである。

編集長 柴田忠男

image by: beeboys / Shutterstock.com

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