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なぜ日本は尖閣領海に侵入する中国公船を取り締れないのか?

尖閣諸島周辺で不穏な動きを続ける中国。今月16日の休漁期間明けには、漁船と公船が領海に大挙侵入する恐れがあると産経新聞が報じていますが、日本に対抗手段はないのでしょうか。軍事アナリストの小川和久さんは、主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、マスコミが伝えない中国漁船の活動根拠を解説。さらに公船取り締まりのための法律がないことも指摘し、中国の国内法と同等の「領海法」制定の必要性を説いています。

日本も領海法を制定しよう

ただでさえ鬱陶しいコロナの夏だというのに、尖閣諸島周辺に中国漁船が大挙してやってくるとの報道がありました。

「中国政府が日本政府に対し、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での多数の漁船による領海侵入を予告するような主張とともに、日本側に航行制止を『要求する資格はない』と伝えてきていたことが2日、分かった。16日に尖閣周辺で中国が設定する休漁期間が終わり、漁船と公船が領海に大挙して侵入する恐れがある。日本の実効支配の切り崩しに向け、挑発をエスカレートさせる可能性もあるとみて日本政府内では危機感が高まっている。(半沢尚久)」(8月2日付産経新聞)

この情報については、政府関係者にも否定する向きがありますが、本当なら日本国内は大騒ぎになるでしょう。このような事態に対して、どのように向き合えばよいのでしょうか。マスコミが取り上げないのですが、中国側には尖閣諸島周辺で操業するうえで一定の根拠があるのです。まず、そのことを押さえておく必要があります。

1997年11月に署名された日中漁業協定(2000年6月発効)は「EEZ(排他的経済水域)漁業法適用特例対象海域では、相手国の漁船に対して自国の漁業関係法令は適用されず、」として、北緯27度以南の日本の排他的経済水域について決着を棚上げしているからです。

地図の赤い部分がEEZ漁業法適用特例対象海域で、尖閣諸島の領海部分は対象外として水色になっている(海上保安レポート2020)

従って、この海域では日中両国の漁船は自国の法律に従って行動することができますし、政府の船も自国の漁船を取り締まる名目で行動することができるのです。ただし、主権に関わるということもあって、尖閣諸島と領海は適用から除外されており、それを取り囲むように「棚上げ海域」が広がっているのです。中国の公船が日本漁船を追い回したのは、尖閣諸島寄りの「棚上げ」から外れた海域で、中国側は自国の領海だと主張していたことになります。

漁業だけでなく、日本政府が領海やEEZを決めている根拠の国連海洋法条約は、「国が所有または運航する船舶で政府の非商業的役務にのみ使用されるもの」に軍艦なみの治外法権を与えています。この種の「公船」が領海内の無害通航に関する規則に違反しても、沿岸国は退去を要求し、損害があったとき船の所属国に賠償を求めることしかできません。

日本が領海警備の根拠法としている「領海等における外国船舶の航行に関する法律」(2008年)も国連海洋法条約に準拠し、「公船」を適用除外としています。そんな日本と比べると、中国は国連海洋法条約を批准したうえに、「領海および接続水域法」(1992年、以下、領海法)を制定し、国の安全と海洋権益を守る姿勢を明確にしています。許可なく中国領海を侵犯した外国船に対して強制措置を講じる場合の根拠法でもあります。

しかし、疑問が残ります。中国側はなぜ、領海法を根拠として海上保安庁の巡視船を取り締まろうとしないのでしょう。漁船を追い回したのなら、それを阻止するために割って入った日本の巡視船にも同様な姿勢を示すべきではないでしょうか。

実を言えば、中国側にはできないのです。尖閣諸島の領有権について根拠が弱いことを自覚しており、日本側と衝突でもしたら国際的なイメージが悪化するばかりでなく、下手をすると国際資本が中国から逃げ出した天安門事件の二の舞になりかねないからです。そうした中国の本音の部分を知り、必要な動きをするのが外交というものです。

日本が中国に対抗するには、同じ名前、同じ文言で国内法を制定することが第一歩です。領海法の制定によって初めて、日本は中国と対等の条件で外交交渉に臨むことができます。国内法の制定は、国際司法裁判所への提訴にも必要な準備です。

中国は領海法を制定するとき、日本への忖度などしませんでした。防空識別圏の設定も、当然の顔をしてやったのです。日本も同じようにやればよいだけです。政策的な評価は分かれますが、日本は尖閣諸島を国有化したではないですか。そのときと同様、中国は吠え立てるでしょうが、そこまでです。それくらいで動じてはいけません。さあ、コロナ対処に手一杯の日本に、できるかな。(小川和久)

image by:Igor Grochev / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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