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マジで?みんな大好き「Slack」がMicrosoftに敗色濃厚、その理由とは

仕事に使えるチャットツールとして日本でも人気のSlack(スラック)。リモートワークへの移行を機に使い始めた人も多いのでは?そんなSlackが今、窮地に立たされています。人気メルマガ『決算が読めるようになるノート』の著者で元スタンフォード大学客員研究員のシバタナオキさんと、弁護士の東海千尋さんが、対談形式でその背景を詳しく解説します。

SlackによるMicrosoft提訴の背景とは?

東海千尋(以下、東海) 今日は、ビジネス向けチャットアプリを提供するSlackが欧州委員会に対して、競争法違反を理由にMicrosoftの調査を要請したニュースについて、シバタさんに解説していただきたいと思います。

早速ですが、ニュースの概要としては、SlackはMicrosoftが市場における支配的地位を濫用していなかったかを調査するように、欧州委員会に求めているということです。Slackが問題視しているのは、Slackの競合となっているMicrosoftのTeamsです。

Slackの主張としては、MicrosoftのOfficeにTeamsを違法に結びつけて、多くの顧客に強制的にインストールさせたりアンインストールが難しくなっている、といったところを問題として指摘しています。

今回の話を聞くと90年代以降のNetscapeをMicrosoftのInternet Explorerが駆逐した時の話や、WindowsとMedia Playerの抱き合わせの話などを思い出しますが、シバタさんは過去からずっと見てきていると思いますが、今回の件をどのように見ていらっしゃいますか?

シバタナオキ(以下、シバタ) まずSlackがなぜこのようなことしているかという話ですが、今Slackのデイリーアクティブユーザーが1,200万人です。一方で、MicrosoftのTeamsは7,500万人を超えたということで、Slackがボロ負けしてしまっています。

もともとSlackがこの分野のパイオニアと言われる存在で、自分たちが築き上げて上場まで行ったと思っていた中、実はMicrosoftが横から出てきて、いつの間にか自分たちの6倍以上のサイズになってしまったということで、「さすがにそれは独占禁止法違反じゃないですか」ということで、今ヨーロッパでこのようなことをしているわけです。

まず、これはよくあるパターンで、Microsoftは競争においてすごく強いなという印象です。

僕の理解だと、独占禁止法というのは、ある特定の分野で自分が競争に勝って独占するのはOKですが、ただ一旦築き上げた独占的な地位を利用して、他の分野において、別のある分野における独占的な地位を利用して競争を仕掛けるのがダメだということですね。

今回の場合は、MicrosoftはOfficeで独占をしています。皆さん使っていると思いますが、WordやExcelやPowerPointの分野を独占している中、その独占的な地位を利用して、強制的にバンドルして「メッセンジャー」の領域に入ったのが、良くないのではないかということです。

東海 そうですね。競争すること自体はもちろん良いので、まさにそれを歪めるような形で今回だとそのメッセージングアプリに入ってきたことが問題という話ですね。

シバタ そうですよね。 Microsoftは昔からそれこそ先ほど仰って頂いたように、Netscapeの話やMedia Playerの話など様々な話があり、パソコンにおけるOSとOffice製品という領域で圧倒的に独占をしているため、隣の分野に行こうと思うと、全て独占という話になってしまいます。そのため、「歴史は繰り返す」というのが正直な印象です。

東海 Microsoftとしては、これまでの経緯もあるため、今回もこのような競争法関連の指摘を受けたり訴訟に発展したりといったリスクがあることは分かっていたはずですが、そのリスクを負ってでもパワープレーで押し切るべき、というビジネス的判断をしているということなのでしょうか?

シバタ 当然ですが、Microsoft側としては「違法ではない」というロジックは中で立てているはずです。ただ、先ほど申し上げている通り、WindowsもOfficeももう十分独占と言えるほどのマーケットシェアがあるので、近くで何かをやると必ずこの問題が起こるわけです。

競合会社から「あいつら独禁法が!」と必ず言われるので、そういう意味では Microsoftの法務部はおそらく想定していると思います。ただし彼らの中のロジックとしては「独禁法違反ではない」となっているはずです。

結局はMicrosoftのTeamsが圧勝する

東海 この争いは、1週間や10日で決着が付くわけでもないので、それよりも先にTeamsのユーザーは増加し、Slackとの差が開くというように、ビジネスの環境はどんどん変わっていきます。そのような中で、Slackが訴えるという戦略を取ったことが、果たして良かったのかよく分かりません。むしろ機能改善やマーケティングなど、他の領域でやりようはなかったのかなと思ってしまうのですが、いかがでしょうか?

シバタ そういう意味では、仰るとおりでSlackはおそらく他に打てる手がほぼなかったため、これをやっていると思います。あとは、これをやることにコストがほとんどかからないので、とりあえず牽制のジャブみたいな感じで打っていると思います。

仰るように、一方、実際問題として多分この訴訟を仮にやったとしても、数年はかかると思います。そんな事をしている間にビジネスの世界では決着がついてしまって、おそらくTeamsが圧勝することになると思います。

そのため、Microsoftからすると、実態的には別にほとんど何の影響もないと思います。ただ、一応これをやられたことによって、多少の牽制はあるかもしれません。

例えば、Teamsにさらに何か独占的な地位を利用したと言われるような機能を追加するのが、ちょっとやりにくくなったりといったことです。

Zoomのようなビデオ会議の機能をもっとTeamsに入れることや、Slackにない機能を入れていくといったことは、Microsoft社内の気持ち的に多少やりにくくなるはずです

そのぐらいの影響で、Teams vs Slackに関しては、この訴訟やこの法廷問題とは関係なく、ビジネスの世界で決着がついてしまうと思います。

Microsoftは訴訟に強い

東海 そうですよね。そうすると、Microsoftは今までも色んな所で訴訟や紛争的なものを乗り越えて今は業績絶好調となっているわけですが、このようにできている源泉のようなものは何かあるのでしょうか?

シバタ これは皆さん色んな意見があると思いますが、僕が色々とMicrosoftなどの歴史を勉強した上での個人的な見解としては、「やはりビル・ゲイツがいかにすごかったか」という話だと思います。

Microsoftの80年代90年代の躍進のスピード感や戦い方を見ると、やはり今までのソフトウェア産業の歴史の中で、恐らく一番競争に勝つということに関して強いのはビル・ゲイツだと思います。

今回の話も言ってみたら、Officeというのはビル・ゲイツの遺産で戦っているわけです。そういう意味では、競争に勝つという、経営者としての競争戦略論という観点で、やはり彼ほど強い人はいないのではないかと思います。

逆に強すぎたことによって、今回のような問題が起こるわけですが、起こりつつもこうやって勝ってきているのがMicrosoftです。

当時、ビル・ゲイツが現役だった頃に、今回のような話がヨーロッパやアメリカで起こりました。当時、ビル・ゲイツが政府や裁判所などの渉外を担当し、スティーブ・バルマーがCEOになるという体制に変えたわけですが、Microsoftの業績が苦しくなったのはその後です。

これは、ビル・ゲイツという才能のアテンションがきちんとビジネスに向いている事が、いかに貴重だったかということを証明しています。そのくらいビル・ゲイツはすごいなと。もう引退しているのに、「まだここでこれだけ影響力があるのか!」というのが僕の正直な印象ですね。

改めて思うビル・ゲイツの凄さ

東海 シバタさん視点で、ビル・ゲイツが他の経営者と違うところはどのような点だと思いますか?

シバタ やはり競争に勝つということに関して、すごく最適化した行動をとる人という印象です。Officeの中でも、例えば ExcelとPowerPointは、元々M&Aで買っている製品です。そういうところの賭け方や買った後の敵の潰し方などは、悪い言い方をすると冷徹な、良い言い方をするとすごくロジカルな判断をしているという印象です。

本で読んだ世界なので、中で一緒に仕事をしていた人はまた違う見方をされるかもしれないですが、やはりその変の勝負に負けない戦い方をしているのが、すごいなと思います。

東海 Slackは本当に訴訟を起こすしかなかったということかもしれませんが、これで今の状況に大きな変動がないままこの件が終わるとすると、Microsoftの強さを証明しただけになってしまった、ということで片付けられてしまうかもしれない、ということでしょうか?

シバタ ただ、Slackも色々と手を打とうとしており、例えばAmazonと連携しようとしています。また、プロダクトを磨く余地はまだ十分あると思っています。たとえば、音声やビデオ周りは、もちろんやっているのは知っていますが、Slackを使っているにも関わらず、みんなZoomを使っているわけです。これは本来Slackで出来て良いことだと思います。

これらも含めて、他にもパートナーシップなども色々とやり方はあると思うので、完全にSlackがダメになってしまったかというと全然そんなことはなくて、Slackという会社も素晴らしい会社だと思います。

ただ、Microsoftという会社が敵になりそこと比較をすると、残念ながらMicrosoftに軍配が上がってしまいます。

スタートアップが大手に勝つ“信長の戦法”

東海 このように、スタートアップが良い製品を作っても、それに隣接する分野の大きな会社が途中から参入して、一気にユーザーを持っていってしまうというパターンはよくあることだと思います。このような時に、小さな会社はどのように戦っていけば良いと思いますか?

シバタ これは基本的に歴史が好きな方は分かると思いますが、織田信長の局地戦で勝つという戦略しかないと思います。

スタートアップが、例えば社員が100人しかおらず、ある一個のプロジェクトに集中しているとして、大企業は社員が1万人いますが、リソースが分散しており直接競合するプロダクトには実は担当者が合計で50人しかいなかったとします。

そうすると、50人でやってるところと100人でやっているところだと、100人の方が勝てたりします。

このような局所戦で勝つしかないですね。手を広げないで自分達が得意なことでひたすら戦い続けるしかない、というのが基本的な考え方です。

ただ、Microsoftと当たるとさすがに部が悪すぎるという世界が今回の話だったかなと思います。「相手が悪かった」ということです。Slackが何かミスをしたというわけでは決してないと思います

東海 難しいですね…本当にMicrosoftと隣接してしまったことやコロナにより一気にユーザーが増えるなど、色んな状況が重なってこのようなことになったと思いますが。

シバタ そうですね、あとはやはりMicrosoftの経営者が変わった後の俊敏性もあると思います。先ほど申し上げたように、社員が1万人いるけれど50人しか投下できてないという状況ではなく、おそらく仮にSlackの戦力が100だとしたら、Microsoftは500くらい戦力を投下しているはずです。

この意思決定が出来ている会社はやはり強いなと思います。普通はそれができなくて、50対100で戦って負けてしまいます。「うちの方が大きいのになんで勝てないんだ」という議論になりがちです。

全体では1万人いて大きいのですが、実は戦力は50しか入っていないといった世界が起こるので、そこを局所戦を仕掛けられたMicrosoftが局所戦でやり返したという話です。

東海 Microsoftの方が1枚も2枚も上手で進んでいるという感じですね。

シバタ それはそうだと思いますね。既存のユーザー等も含めると、やはり機能的にどうこうというよりも、ビジネスの組み方としては、やはりOfficeというビル・ゲイツの遺産が強いというのが僕の印象ですね。

image by : shutterstock

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