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「俺はSEXが上手いんだ」という男ほど女性に嫌われる科学的な理由

変化の激しい現代において、既存の価値観や過去の成功体験に固執ばかりしていては成長を望むことができません。環境の変化に適応しながら自らを変えることこそ、今求められる姿といえるでしょう。『アンラーニング』と呼ばれるこの考え方が、男女間のセックスにおいても重要だというのは、心理学者でメルマガ『富田隆のお気楽心理学』の著者である富田隆さん。富田さんは古い考え方を捨てるだけではなく、新たな変化に対応するための柔軟性も必要だと説きます。

性的楽天論。 アンラーニング 

週刊誌の記者の方から、セックスに関する質問がありました。中高年のセックスについて調べていて、次のような問題が出て来たのだそうです。

それは、「セックスが上手いと自認している男性の方がパートナーから嫌われ易い」という女性たちからの意見です。

最初これを聞いた時は、「テクニックの上手い男性の方が女性を喜ばせることができるはずなのに…」と疑問に思ったのですが、よく考えてみると、「なるほど」と納得できる心理学的なトラップに気づきました。

そのキーワードは、ビジネスの世界でもその必要性が指摘されている「アンラーニング(unlearning)」です。

「アンラーニング」は「学習棄却」などとも訳されます。環境の変化に応じて、過去に学習した知識、習慣、先入観などを捨て去るということ意味する言葉です。

変化の激しい現代社会では、かつて有効だった経営戦略などが通用しなくなることがよくあります。今日では、どのような業界でも、いわゆる「ヒット商品」の寿命は短く、次々に新しい商品を開発しなければなりません。

そんな時に、過去の栄光が忘れられず、過去の成功体験に固執して、新たな発想ができないのは致命的です。そこで、意識的に、これまで身に付けてきた思考パターンや思い込みなどを敢えて捨て去り、新たに学び直すことが必要になるのです。

セックスのベテラン 

これは、私たちのセックスにも当てはまることです。

私たち人間は「本能が壊れてしまった動物」なので、セックスにおいても、本能にまかせてさえいれば自動的に上手くできるというものではありません。

人間のセックスには「学習」が必要なのです。

ですから、自分も相手も満足するような互恵的なセックスができるようになるためには、経験から多くのことを学ぶ必要があります。そして、そうした経験を重ねることでその人らしいセックスのスタイルが形成されるわけです。

ですから、セックスについてほぼ白紙状態の少年少女には、何らかの「性教育」が必要となります。基本的な知識の欠如や誤った情報の学習が、彼らの性行動を歪んだものにする危険については、今更指摘するまでもないでしょう。

しかし、公教育における性教育が貧弱なものであったとしても、書籍やネットなどを通じて得られる性情報や、良質なポルノグラフィ、そして、家庭や友人から得る情報などは、貴重な「性的学習」の機会を彼らに提供しています。

そして、ほとんどの若者たちは、そこそこ正確な情報を手掛かりに、実地にパートナーとのボディートークを重ね、試行錯誤の中から効果的な性的技能を獲得してゆきます。

実技研修?においては、オルガズムが得られるか否かというような快感のバロメーターが、様々な試行へのフィードバックとなり、経験を重ねるにつれ、個人の性的技能は豊かな発達を遂げるわけです。

しかし、結婚などにより、同一のパートナーとの性的体験が長年にわたり持続すると、二人がそれぞれベテランであるが故の問題というものが生じます。

第一は、よく言われる「マンネリ」です。

いくら美味しいご馳走でも、毎日同じものばかり食べていれば嫌気がさしてしまいます。気心の知れたベテランどうしの秘め事は、どうしても得意技?(あるいは無難なパターン)の繰り返しになりがちです。これが食傷気味のマンネリ感を引き起こします。

第二の問題は、二人が成熟し老いるという、避けることのできない「変化」が生じることです。

こうした変化は、セックスをめぐる心理にも及びます。簡単に言えば、私たちの性的欲求は、加齢と共に衰えるのではなく、欲求の質が変化するのです。

若い頃とは一味違った性的体験、性的満足を求めるようになるわけです。年齢を重ねると、食べ物の好みも変わります。あれと同じことです。

過剰適応が不適応を生む 

ビジネスの世界でも、経験豊かな成功者ほど、過去の栄光が忘れられず、過去の成功体験を踏襲したがるものです。

経済環境や市場のあり方が昔のままなら、旧来のやり方も通用するでしょう。しかし、環境が大きく変化した状況の下では、従来のやり方は通用しないどころか、甚だしい「不適応」を引き起こしかねません。

セックスにおいても似たようなことが起るわけです。

「セックスが上手いと自認している男」は、自分が従来から得意としている性的技能に依存し、執着し、それを押し通そうとしがちです。

しかし、歳を重ねる内に、彼のセックスをめぐる状況は大きく変わっているのです。彼のマンネリ化した「得意技」に、彼女の方はいい加減うんざりしているかもしれません。

あるいは、加齢により、彼自身の肉体が「得意技」についていくことができないかもしれません。そうなると、心身のアンバランスがパフォーマンスの質を低下させます。

そして彼女は、年齢に応じた、もっと穏やかでスローな性戯に魅力を感じているかもしれません。もちろん、人によっては逆にこれまで経験したことのない過激でドラマチック?な性戯を試してみたいと思っているかもしれません。

いずれにしても、彼女は新たな可能性を求めているのです。しかし、自分自身のこれまでの性的パフォーマンスに自信が強い人ほど、こうした「変化」に対応する能力に欠ける危険があるわけです。

「過剰適応」は「不適応」につながる。これは生物学の大原則です。

可能性はリミットレス

そこで、こうした危機を自覚した人は「アンラーニング」を試みるわけですが、これが口で言うほど簡単ではありません。

そもそも、「アンラーニング」とは言うものの、何でもかんでも捨てれば良いというわけではありません。これまで学習したものの全てを否定するのは、「お湯と一緒に赤ん坊を流す」ようなものです。

「何を捨て」「何を残すのか」? それが問題です。

それと同時に、何らかの「新しい試み」がそこに加わらなければ、新たな変化に適応することはできません。そもそも、何のためのアンラーニングかと言えば、それは新たな状況に再適応するために古くなり使えなくなったものを捨てようということなのですから、捨てただけで満足していてはいけません。

具体的には、まず、「変化」を認識する必要があります。

マーケティングよろしく、彼女の正直な気持ちを訊きましょう。同世代でライフスタイルを共有している女性たちの意見も参考になると思います。

そうした事前の調査?がなくとも、現場で、臨機応変に、彼女の求めに素直に応じることが、新たな可能性につながるかもしれません。アドリブは創造の宝庫です。

相手だけではなく、自分自身が何となく感じていることに対しても、もっと自覚的になる必要があります。自分がどこかで「無理」をしていると感じるなら、そのやり方は捨てた方が良いのです。

また、長年密かに隠し持ってきた自身の願望を上手に現実化する能力もベテランにはあるはずです。人生の折り返しを過ぎたら、妙な遠慮は無用です。

新たな変化に対応するために必要とされるのは「柔軟性」です。

誰しも「セックスとはこういうもの」という自分なりのぼんやりしたイメージを持っているものですが、そうした自動的に頭に浮かんでくるイメージが、その人の自由を奪っている可能性があります。

なぜなら、そうしたイメージが性的行動のシナリオを描き、私たちは無意識の内にそれに従って行動してしまうからです。

たとえば、キスで始まり射精で終わるといったセックスのイメージに固執すると、変化に応じた臨機応変な対応というものができにくくなってしまいます。

いわゆる性の「常識」を捨てることは、問題解決の第一歩かもしれません。人類における、性行為のあり方は、実に多様です。

また、カップルの状況に応じた創意工夫は、素晴らしいものです。

身体の障害や体力などの限界を越えて、相手に性の悦びを与える工夫が柔軟にできるのは、もちろん、そこに愛があるからですが、仮に、愛とよべるものが無かったとしても、純粋な性的動機さえあれば、私たちは自然に創意工夫をせずにはいられません。

なぜなら、人間にとっての性行為は身体を使った「コミュニケーション」であり、私たちは自己表現をするためなら、あるいは相手の心を理解するためなら、あらゆる努力を厭(いと)わない不思議な生き物だからです。

パートナーへの愛、あるいは純粋な性欲、少なくともそのどちらかがあれば、加齢や肉体的な障害を乗り越える創意工夫は可能です。私たち人間のセックスは本能に依存しないが故に自由であり、可能性はリミットレスなのです。

image by: Shutterstock.com

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