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都構想と基地移設。大阪で尊重され沖縄で無視された「民意」格差の正体

僅差ではありながら、2度目の住民投票でも否定された大阪都構想。大阪維新の会は「民意をしっかり受け止める」としましたが、この国には無視され続けている「民意」も存在しています。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、住民投票でも反対が賛成を大きく上回り、知事選や国政選挙で何度も反対の意思を示し続けてきた基地移設に対する沖縄県民の民意が、長きに渡り無視され続けている現状を厳しく批判。その実行犯が新総理である菅義偉氏だとした上で、スローガン通りに「国民のために働く」のであれば辺野古の工事を中止するのが筋だと記しています。

尊重される民意と無視される民意

11月1日(日)に投開票が行なわれた大阪都構想の是非を問う大阪市の住民投票は、開票前の出口調査の時点から「賛否きっ抗」と報じられ、開票後も「賛否きっ抗」と報じられ、集計が終盤になっても「賛否きっ抗」と報じられました。そのため、あたしとしては、まるで自分の名前が連呼されているような気分でした。

結果は、賛成が67万5,829票、反対が69万2,996票、約1万7,000票の僅差で反対多数となり、大阪市の存続が決まりました。今回の投票率は前回を4.48ポイント下回る62.35%でしたが、それでも6割以上の有権者が投票したのですから、これは立派な民意です。前回2015年の住民投票でも、賛成が69万4,844票、反対が70万5,585票と反対多数だったので、二度続けて民意が明確になった形です。

この結果を受けて、大阪市長の松井一郎は、自分の敗北を認めた上で「これは間違いなく民意です。しっかり受け止めます」と述べました。大阪府知事の吉村洋文も、敗北を認めた上で「大阪市民の判断を尊重したい」と述べ「僕が都構想に挑戦することはありません」と三度目の住民投票を行なう考えがないと明言しました。1票でも多ければ勝ちになるのが住民投票ですから、これは当然でしょう。しかし、あたしが唖然としてしまったのが、松井一郎が笑みを浮かべながら述べた次の発言です。

「皆さん、賛成反対、頭を悩ませていただいた。これほどの問題を提起できたことは、政治家冥利(みょうり)に尽きます」

はぁ?この人、何言ってんの?新型コロナで多くの市民が苦しい生活を強いられている時に、肝心の新型コロナ対策は雨ガッパだイソジンだとトンチンカンな大騒ぎを繰り返した挙句、すでに5年前に民意が示されている問題をまた引っ張り出して再燃させておいて、何が「政治家冥利」ですか?

毎日新聞によると、「大阪維新の会」は大阪都構想のために、これまでに100億円を超える公金を使って来たそうです。大阪都構想の制度設計を行なう大阪府と大阪市の共同部署は、橋下徹時代に「大都市局」、その後の松井・吉村時代に「副首都推進局」が設置されましたが、この部署には毎年100人もの職員が投入され、これまでの人件費の累計だけでも68億円を超えるそうです。

100億円を超える税金を無駄遣いしておいて「政治家冥利に尽きます」だなんて、開いた口が塞がりません。その上、松井一郎は「政治生命を懸ける」「負けたら政治家を引退する」と言っていたのに、辞めることは辞めますが、2年半後の2023年の春までは任期があるので市長を続けるとのこと。本日二度目の、はぁ?これで責任を取ることになるのでしょうか?男らしくないと言うか、往生際が悪いと言うか、最後の最後まで大阪市民の税金を吸い続けるなんて、まるで寄生虫です。

しかし、松井一郎率いる「大阪維新の会」の大罪は、これだけではありません。今回の強引な住民投票によって大阪市民にもたらされた最大の被害、それは「市民の分断」です。以下、大阪都構想に反対して、ずっとスタンディングなどの反対行動を続けて来た大阪市の女性の投票後のツイートです。

反対と書いた時、涙がにじんだ。なぜこんな闘いを何度もさせられねばならないのか。その後、投票所前スタンディング、今で3時間。3度怖い思いをした。本当に暴言と脅しがすごい。身の危険を感じる投票って、ここはいったいどこで、私たちはどんな相手と闘わされているのか。諦めない。#大阪市廃止反対

「賛成か反対か」「イエスかノーか」「白か黒か」という二択の住民投票の場合、僅差での決着は大きな遺恨を残します。100人のうち51人が賛成で49人が反対なら「賛成多数」となりますが、勝って喜ぶ賛成派と同じくらいの人々が負けて悔しがるのですから、開票が終わって決着がついた後も、市民の間で対立や分断が続いてしまう恐れがあるのです。

日本は民主主義国ですから、多数派の意見を尊重するのは当然ですが、LGBTなどの少数派の声にも耳を傾け、多数派と同様に手を差し伸べるのが政治の仕事です。100人のうち51人以上が賛成であれば、残りの人たちを切り捨てて良いとする考えは、本当の民主主義ではありません。

特に今回の住民投票は、勝った反対派と同じくらい賛成派がいたのですから、「大阪市を存続させればそれで良い」ということではなく、大阪市を存続させた上で、行政上の無駄を省く政策を行ない、負けた賛成派の人たちにも納得してもらうのが政治の仕事だと思います。

これと同じように、直接選挙制であれ間接選挙制であれ、民主主義国の首長に選ばれた政治家は、全国民のために働く義務と責任があります。しかし、7年8カ月も政権の座に居座り続けて来た安倍晋三は、自分を支持する者だけが真の愛国者で、自分を批判する者は「左翼」だ「反日」だという印象操作を行なうことで、国民を分断し、自分の支持固めをして来ました。

TPP法案に反対するデモの参加者を「恥ずかしい大人の代表」「左翼の皆さん」だと自身のフェイスブックで揶揄し、街頭演説の車上から自分を批判する聴衆を指さして「こんな人たちに負けるわけには行きません!」と言い放ちました。こうした幼稚な言動の数々が示すように、安倍晋三は自分の政策に批判的なリベラル層に「左翼」「反日」とレッテル貼りをすることで、自分の支持層に向けて愛国アピールを続けて来たのです。

その結果、「保守とリベラル」ではなく、「右翼と左翼」「愛国と反日」という架空の対立軸が作り出され、国民の分断が加速して行ったのです。そして、これを象徴するのが、安倍政権下での沖縄の辺野古の基地問題なのです。長くなってしまうので、ここでは詳しい解説は割愛しますが、20年以上前の橋本龍太郎政権時代から連綿と続いて来た辺野古の基地問題は、この9月までの7年8カ月に及ぶ第2次安倍政権下で大きく変わりました。安倍政権は、基地に反対する人たちに「左翼」「反日」というレッテルを貼ることで、沖縄の民意を無視しても構わないという空気を作り出し、工事を強行したのです。

辺野古の基地反対を公約に掲げて当選した当時の沖縄県知事の仲井間弘多は、第2次安倍政権の発足直後、あっさりと有権者を裏切って安倍政権の辺野古沿岸部の埋め立て案を承認しました。そして、ずっと止まっていた基地計画が動き出したのです。しかし、このえげつない仲井間の裏切りに激怒した沖縄県民は、2014年の知事選で基地反対を公約に掲げた翁長雄志を知事に選び、裏切り者の仲井間を引きずり降ろしました。これは沖縄の民意ですよね。

残念ながら翁長知事は4年後の2018年8月に急逝しましたが、沖縄県民は、翁長知事の意志を継いだ基地反対派の玉城デニーを次の知事に選びました。これも沖縄の民意ですよね。そして、玉城知事は、翌2019年2月24日、「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票」を実施しました。当初は「賛成か反対か」の二択で行なおうとしましたが、一部の自民党系の市長らが難色を示したため「賛成」「反対」「どちらでもない」の三択となりました。

その結果は、埋立て工事に「賛成」が11万4,933票(19.10%)、「反対」が43万4,273票(72.15%)、「どちらでもない」が5万2,682票(8.75%)、「反対」が「賛成」の4倍近い圧倒的な民意が示されました。しかし、これほどの結果が出たのにも関わらず、安倍晋三は「結果を真摯に受け止め、基地負担軽減に全力で取り組む」と、毎度のすり替え話法を炸裂させたのす。さらには、玉城知事との対話から逃げ続けて来た癖に「これまでも長年にわたって県民と対話を重ねてきたが、これからもご理解をいただけるよう全力で県民との対話を続けていきたい」などと抜かしました。

今回の大阪都構想の住民投票の結果は、賛成が67万5,829票、反対が69万2,996票で反対多数となりましたが、この票数を比率で見ると、賛成が49.37%、反対が50.63%です。「ほぼ同率」と言っても良いほどの僅差でしたが、それでも多数派が「民意」として尊重され、大阪市の存続が決まりました。

一方、沖縄の県民投票では、賛成が19.10%、反対が72.15%という明確な「民意」が示されたのにも関わらず、この県民投票に法的拘束力がないことをいいことに、安倍晋三は沖縄の民意を踏みにじったのです。そして、その後の衆院補選でも基地反対派が勝ち、夏の参院選でも基地反対派が勝ちましたが、安倍晋三はその都度「基地問題だけが争点ではない」などと詭弁を弄して、これらの民意をすべて無視して来ました。

第2次安倍政権の間だけでも、二度の知事選、県民投票、衆院補選、参院選と、沖縄県民は5回連続で「辺野古に基地はいらない」という民意を示して来ましたが、それをことごとく踏みにじり、埋立て工事を強行して来たのが安倍晋三なのです。そして、その実務を担って来たのが、官房長官の菅義偉でした。つまり、第2次安倍政権で7年8カ月にわたって沖縄の民意を踏みにじり続けて来た実行犯が、今、首相の座に就いたということなのです。

しかし、その菅義偉も、首相の座に就いたとたんに「国民のために働く内閣」などという看板を掲げたのですから、それならば、まずは沖縄の民意を誠実に受け止め、今すぐに辺野古の工事を中止するのが筋でしょう。そして、安倍晋三と同様に民意を無視してこのまま工事を強行し続けるのであれば、この「国民のために働く内閣」という嘘八百の看板など、トットと下ろしてほしいと思います。

(『きっこのメルマガ』2020年11月4日号より一部抜粋・文中敬称略)

image by: 大阪維新の会 - Home | Facebook

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