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読売が報じた「尖閣諸島は開戦4日で中国の手に落ちる」は本当か?

陸上自衛隊が35年ぶりとなる大規模な軍事演習を計画しているようです。読売新聞は10月30日、31日と連日中国の軍事的な脅威について具体的に言及し、対峙する日米同盟との戦力比較をし課題を上げています。中には、中国軍が易々と尖閣諸島を攻略するシナリオも提示されていますが、どこまで真実に迫っているのでしょうか。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、読売新聞の軍事報道のレベルが上っていることを認めた上で、あと少し踏み込む必要があると指摘しています。

読売の軍事報道は進化したが…

いよいよ米国大統領選挙の投票日となりますが、日本にとって重大な関心事である中国の軍事的動向と日米同盟について、10月30日付の読売新聞朝刊は1面トップに次の大見出しを掲げました。 南西諸島 14万人演習…陸自「台湾有事」波及を警戒
読売新聞が取り組んできた年間企画[安保60年]の第4部で、同盟のこれから<1>、と謳われています。

「還暦を迎えた日米同盟は今、中国の軍事的な挑戦を受け、真価を試されている。同盟のこれからの課題を考える。(中略)

 

陸上自衛隊は来年、日本の本格的な有事に備える約35年ぶりの大規模演習を行うことを検討している。ほぼ全隊員にあたる約14万人が参加し、実際に車両なども移動・展開し、課題を探る予定だ。

 

同規模の演習は、過去に1度しかない。前回は冷戦まっただ中の1985年、旧ソ連による侵攻を想定して北海道などで行われた。今回は南西諸島での危機を想定したもので、中国による侵攻が念頭にあることは間違いない。

 

中国が尖閣諸島で領海侵入などの挑発行為を繰り返していることが理由の一つだが、政府が今、警戒しているのはむしろ、台湾有事だ。(中略)

 

『中国は30年以上にわたり、地上発射型の中距離ミサイルを自由に開発、配備し、今では13種類、2000発近くも保有している。米国は同様のミサイルを持っていない』

 

国務省のビリングスリー軍縮担当大統領特使は日本を訪問した直後の今月1日、オンラインでの記者会見で中国への警戒感をこうあらわにした。

 

米国は、昨年8月に失効するまで米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約により、地上発射型中距離ミサイルの保有を禁止されてきた。これに対し中国は、『空母キラー』と呼ばれる対艦弾道ミサイル『東風(DF)21D』に代表されるように、米軍などの介入を阻む『接近阻止・領域拒否(A2AD)』を目的とした兵器を大量に保有している。

 

中国は、現在のミサイル防衛では迎撃できない極超音速滑空兵器(HGV)も開発している。(後略)」

10月31日付の朝刊にも、中国の海軍力「脅威」に、と第2弾が大きく掲載されました。

「(前略)『開戦から4日も経たないうちに、尖閣諸島は中国軍の手に落ちる』

 

米戦略予算評価センター(CSBA)のトシ・ヨシハラ主任研究員による日中海軍力に関する報告書(日本語版『中国海軍VS海上自衛隊』がビジネス社から出版)は、中国軍事誌に掲載された尖閣諸島侵攻のシナリオを紹介している。

 

シナリオでは、海上保安庁巡視船が中国公船に発砲したことを機に、中国軍部隊が尖閣を占拠する。中国海軍は、海自の護衛艦より長射程の対艦ミサイルで、海自艦を沈没させる。

 

米国はオバマ前政権以降、尖閣諸島への侵攻は、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条の適用対象となることを明確にしている。にもかかわらず、シナリオでは、米国は、米軍への攻撃がないことを理由に参戦しない。

 

このシナリオは、中国側の願望を表しているだけとも言える。だが、『日米の分断が可能だ』と中国に期待を抱かせる要因がないわけではない。(中略)CSBA報告書の日本語版には、『すでに(日中の)海軍力は逆転している』という副題が付けられている。(後略)」

まだ日米の専門家の話を伝えるレベルの読売記事

ここ2年ほどの読売新聞の軍事問題の記事は、それまでと比べて飛躍的に充実してきた印象があります。記者も順調に育っているようです。数年前、老川祥一会長に「読売には軍事がわかる記者が一人もいない。なんとかしなければならないのではないか」と言ったことがありますが、老川さんの号令がかかったのでしょうか、読売は一気に能力を高めている印象です。

しかし、それでもまだ日米の専門家の話を伝えるレベルにとどまっていることは指摘しなければなりません。上記の記事で言えば、中国がどんなにハイテク兵器を開発し、実戦配備しようとしても、その兵器が高度化し、種類と量が増大するほどに、それを支える軍事インフラの立ち後れが、いかんともしがたい問題として立ち塞がってくるのです。

例えば、「空母キラー」のミサイルの目標を発見して追跡するための偵察衛星。ミサイルが届く範囲の西太平洋を常に監視するためには、北極・南極の上空付近を回る三つの軌道に、数十基ずつ衛星を配置する必要があります。中国は軍事衛星を増やしていますが、この体制には程遠いのです。

読売の記事では、中国の海軍力が米国を凌駕したとの記述がありますが、これについては9月10日号で西恭之氏(静岡県立大学特任准教授)が「米報告書『世界最大の中国海軍』は誇張」として、自分たちが戦闘艦艇に数えていない小型の中国艦艇まで含めている事実を指摘し、米国側公表資料の牽強付会ぶりが明らかになっています。米国は、国内の予算獲得と同盟国の危機感を煽る目的で、そのようなデータの出し方をすることがあるのです。

記事に出てくる専門家で、そこまで理解している人はいません。読売新聞には、以上のような点まで踏み込んだ記事を期待したいと思います。(小川和久)

image by: JHVEPhoto / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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