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国益ゼロ。それでも「トランプ応援団」が日本で増加した意味不明

16日になっても「選挙に勝った」とツイートするなど、頑なに敗北を認めないトランプ大統領ですが、バイデン氏の勝利がほぼ確実となったアメリカ大統領選。日本でもマスコミやネット論壇で大きな盛り上がりを見せましたが、「米国在住の日本人」にはどのように映ったのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で作家の冷泉彰彦さんが、日本国内にトランプを支持する声が増加したことに対して「理解できない」として、その理由を列挙。さらに「アメリカの選挙制度は杜撰ゆえ、トランプが主張する不正も起こりうる」といった言論が許される情報番組を「FOXニュース以下」と切り捨てています。

理解に苦しむ日本でのトランプ応援現象

今回の大統領選挙報道に関わっていて驚いたのは、意外なことに日本国内にトランプ応援団が増えたという事実です。例えば、前回の2016年に「予想を当ててしまった」という経緯のある木村太郎氏などは、まあ一種の必然があるのかもしれません。ですが、それ以外にも保守ポピュリスト的な人が、かなりの数、トランプ支持に回っていたのはどうにも解せません。

百歩譲って政治的な立場として支持する、例えば「福祉反対、移民反対、減税、非介入主義、保護主義」という特殊なパッケージを評価しているのであれば、まあ分からないではありません。ですが、一部には「リバタリアン」を自称している人がトランプ支持者だったりという、全く意味不明な現象があったりしたわけです。

それはともかく、ネット論壇を見渡して、トランプ応援の声が大きい理由を見てみると、その中身として「中国に対して強硬だから」とか「アンチ・エリートの姿勢に共感できる」といった気軽なものが多いのは気になります。

まず、トランプのアジア政策に関してですが、日本と強固な同盟を維持して、中国とのパワーバランスを保って、日本の「安全を保障」してくれる、そんな政策とは正反対です。まず、中国との通商交渉では思いつきの「ディール」に走る可能性が大であり、日本は無視されたり、切られたりする危険があります。また、2015年から公約として掲げている「米軍駐留費を全額払え、嫌なら出ていくが、その場合は核武装を許す」という「日韓へのメッセージ」は今でも有効で、これは日本の国家としての存立を危険に導く悪魔の政策といっても過言ではありません。

またトランプの「アンチ・エリート」の態度に共感している向きも多いようですが、アメリカの場合は「本当に努力をして、世界観も獲得し、人類を幸福にするために世界を変えてしまう」ようなグローバルなエリートがゴロゴロいるわけです。その成功が巨大であり、結果的に格差を伴うことから負け犬はどうしても屈折する、そこをトランプは巧妙なマーケティングとバラマキですくって行ったわけです。

ですが、日本の格差というのは、高い教育を受けても、生まれた年が「氷河期」だとか、偶然上司が「メンヘラ転じてモラハラ大魔王」だったりして、挫折に追い込まれた層だとか、素晴らしい発想と能力があっても「既得権益」に弾かれた層など本人の責任ではない場合があるわけです。いや、その方が多いかもしれません。また、欧米や中国に拝跪(はいき)をして膨張してきただけの東京圏と、その東京圏に人材も資金も吸い取られて危篤状態の地方があるわけで、この構造に関しては現在その被害者である一人ひとりには責任はありません。

ですから、問題は「エリート」とか「エスタブリッシュメント」あるいは「東京」、さらに言えば「上の世代」の側にあるわけで、だからこそ屈折するのではなく正々堂々と戦って社会を変革することへの大義もあるわけです。簡単に言えば、日本の格差は機会の不平等など不正の結果であり、それ自体が悪であるのですから、格差に反対する人がダークサイドに行く必要は絶無なのです。そこを勘違いして、怠惰で無学無能なアメリカの負け犬に感情移入するというのは、全くもって「ワケワカラン」としか言いようがありません。

トランプの政策に話を戻しますと、そもそも実際にトランプ政権が対日政策として取ってきたのは、例えば日本の自動車メーカーに対して米国内に工場を作れと強引に迫ったり、その自動車に関する通商交渉で強硬姿勢を取るなど、決して親日的ではなかったわけです。

例えば、安倍前総理がトランプ氏と個人的な信頼関係を維持してきたという問題があるわけです。そうした現象面だけ見れば、安倍ファンはトランプのファンになるのかもしれませんが、それはいくら何でも安倍前総理に失礼というものでしょう。

安倍前総理が、当選直後にトランプに会いに行ったり、ゴルフや会食を繰り返していたのは、何もトランプ政治に共感したからではありません。そうではなくて、トランプの対日姿勢に「危険なもの」を直感し、外務省や官邸がしっかり支える中でトランプ流の交渉術に負けないようにして国益を防衛するためだったわけです。そうしたことを考えると、日本でのトランプ応援団増加というのには困惑というか、めまいというか、とにかく頭がクラクラしてしまうのです。

反対に、日本におけるアンチ・トランプの言論も妙なものが多く見られます。例えば、トランプ氏の獲得票数の分、つまり7,200万のアメリカ人は人種差別的だという決めつけが見られるわけです。確かにトランプは、「取り残された白人層」の負け犬意識を意識下のマーケティングで拾ってきており、その手段として「排外」とか「人種差別」など禁じ手をガンガン使っているのは間違いありません。

ですが、トランプに投票した層はそれだけではないわけで、杓子定規なロックダウンをやっては地方経済が「死んでしまう」という危機感、財政規律より減税で経済を殺さないなど、あるいはトランプという「不真面目なキャラ」は嫌いだが、保守的なイデオロギーから冷めた支持をしている層など様々なのです。7,200万の人種差別主義者がいるという見方は、そうしたアメリカの保守票が持っている奥行きと多様性を無視した乱暴な議論であり、極めて残念です。

まして、アメリカの選挙制度について「日本と比較してズサンだから、トランプの言うように不正があるんだろう」という種類の議論は、事実誤認も甚だしいと思います。とにかく地上波などの情報番組でも、その手の言論が許されるのでは、FOXニュース以下と言わねばなりません。

アメリカの選挙については、各州ごとの公職選挙法によって執行されるので、全国でバラバラです。また住民票制度がなく、選挙人登録を各州ごとにやっているので、有権者の把握の制度はユルいです。それは事実です。ですが、選挙の場、例えば投票所や開票会場には「各陣営の代表、二大政党の各代表、行政当局の代表」が監視をするシステムになっています。

例えば「監視に来たのに入れてもらえなかった」ので「不正だ」とわめいている人が良くTVに出てきますが、あれはそうした監視人でも何でもない人ですから、入れないのが当然だし、そうした人が排除されたから不正があるというのは、フェイクニュースとして、ツイッターならウォーニングが出るレベルです。

バイデン政権が理想的な選択かというと、色々な問題点があるのは事実です。ですが、少なくともオバマ時代に戻って、日米安保とサプライチェーンの再起動をするというのは、100%日本の国益になるわけです。だからこそ、菅政権はサッサとバイデン当選を認めて祝意を述べたわけです。いずれにしても、日本におけるトランプ応援については、エンタメにもシャレにもならないと思うのですが、どうでしょうか?

image by: NumenaStudios / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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