第46代合衆国大統領の座に就くことが確実となったバイデン氏ですが、数々の「証拠」から反日親中思想を持った人物とされ、日米関係の悪化を心配する声が随所で上がっています。果たしてその懸念は現実のものとなってしまうのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、「バイデンは間違いなく反日親中」とした上で、それでも日本は困らずかつ米中覇権戦争が終わらない理由を解説しています。
反日親中バイデン政権誕生でも日本が困らない理由
日本では、「反日親中のバイデンが大統領になって大変なことになる!」といわれています。私は、全然そう思いません。なぜでしょうか?
バイデンは、間違いなく反日親中
まず、バイデンは本当に「反日親中なのか?」について。これは、間違いないでしょう。「親中」については、彼の次男ハンター・バイデンが、中国から大金を受け取っていた。これ、「陰謀論」「トンデモ」ではありません。日本の一般メディアも報じている事実です。FNNプライムオンライン 2019年5月20日から。
バイデン候補二男と中国の怪しい関係
シュワイツアー氏によると、ジョー・バイデン氏が現職の副大統領時代の2013年12月に中国を公式訪問した際、ハンター氏も同行した。
その後2週間もたたないうちに、ハンター氏が経営に関わるヘッジファンドのローズモント・セネカ・パートナーズ社に中国銀行から10億ドル(現在の為替換算で約1,100億円)の出資金が振り込まれ、それは後に15億ドル(同約1,650億円)に増額されたという。
この時バイデン副大統領は、中国が尖閣列島など東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設けると発表したことについて「絶対に認められない」と語っていたものの、習近平主席との会談では「深い懸念」を伝えるにとどまり(CNN)日本などの期待を裏切った。
次に「反日」について。これについては、2つの有名なエピソードがあります。バイデンは2013年12月、安倍総理に「靖国参拝をやめるよう」要求していた。安倍氏が、これを無視して参拝を強行したので、激怒したと伝えられている。また彼は、2016年8月15日、「日本国憲法を私たちが書いた」と発言している。
バイデン米副大統領は15日、ペンシルベニア州で演説し、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏を批判する文脈の中で「(日本が)核保有国になり得ないとする日本国憲法を、私たちが書いたことを彼(トランプ氏)は知らないのか」と発言した。
(産経新聞2016年8月16日)
アメリカが、事実上「日本国憲法を書いた」のは真実ですが、そのことを公言するアメリカの政治家はあまりいません。
親中バイデンでも、「米中覇権戦争」は終わらない
というわけで、バイデンは間違いなく親中反日。ですが、米中覇権戦争は終わらないでしょう。なぜでしょうか?一般的に、「民主党は親中」といわれます。そして、「クリントンもオバマも親中だった」と。
「バイデンは、親中オバマ政権の副大統領だった」
こういうロジックで、「バイデンが大統領になって米中覇権戦争は終わる」と思える。しかし、「オバマが親中だった」というのは、完全な真実とはいえません。オバマは、2015年3月以降、完璧な反中になったからです。どういうことでしょうか?
2015年3月、「AIIB事件」が起こりました。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国など、親米諸国群が、中国主導の「AIIB」に入ってしまった。アメリカが「入るなよ!」と要求していたにも関わらずです。
これで世界は、「アメリカの覇権は終わりつつある」こと、「中国は覇権にものすごく近い」ことを悟った。そして、アメリカは、「中国を打倒しなければならない!」と決意したのです。この時、大統領はオバマ、副大統領はバイデンでした。
もう忘れていると思いますが、2015年、米中関係は悪化して、両国の「軍事衝突」が懸念されるようになっていました。夕刊フジ2015年5月28日。
米中激突なら1週間で米軍が制圧中国艦隊は魚雷の餌食緊迫の南シナ海
南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺の領有権をめぐり、米中両国間で緊張が走っている。軍事力を背景に覇権拡大を進める習近平国家主席率いる中国を牽制するべく、米国のオバマ政権が同海域への米軍派遣を示唆したが、中国側は対抗措置も辞さない構えで偶発的な軍事衝突も排除できない状況だ。
2015年9月22日、習近平は、国連総会に出席するためアメリカにむかいました。彼を待っていたのは、予想以上の冷遇でした。まず、メディアが彼の訪中を報じない。当時一番の主役は、ローマ法王フランシスコの訪米。次は、インドのモディ首相の訪米でした。夕刊フジ2015年9月28日。
一方、目立ったのは、米国内の習氏への冷ややかな反応だ。米テレビは、22日から米国を訪問しているローマ法王フランシスコの話題で持ちきりとなっており、習氏のニュースはかすんでいる。中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「習氏にとって一番の期待外れは、全く歓迎されなかったことだろう」といい、続けた。「ローマ法王はもちろん、米国を訪問中のインドのモディ首相に対する熱烈歓迎はすごい。習主席は23日にIT企業と会談したが、モディ首相もシリコンバレーを訪れ、7万人規模の集会を行う。米国に冷たくあしらわれた習氏の失望感は強いだろう。中国の国際社会での四面楚歌(そか)ぶりが顕著になった」
この2つのできごと、「親中」と呼ばれるオバマ、バイデン政権で起こっていた。というわけで、「米中覇権戦争」、実をいうとスタートしたのは、オバマ、バイデン政権です。トランプは、オバマ、バイデン路線を引き継ぎ、覇権戦争をエスカレートさせた。
バイデンは、確かにかなりの親中でした。しかし、2015年以降、アメリカと中国の関係は、根本的に変化した。バイデンが内心どう思っていても、アメリカの覇権を維持するために、中国と戦う羽目になるでしょう。
バイデン新大統領でも日本は困らない
日本はどうでしょうか?米中覇権戦争の帰趨は、「他の大国の動向」で決まります。他の大国とは、
- GDP世界3位の日本
- GDP規模で、世界2位の欧州(地域で見た場合)
- 未来の超大国インド
- アメリカに匹敵する核大国、エネルギー大国ロシア
です。だから、バイデンは、日本を無下にすることはできません。日本が中国についたら、アメリカ存亡の危機です。
アメリカは、ナチスドイツに勝つために、スターリンのソ連と組みました。日本、ナチスドイツに勝った後は、ソ連とケンカになった。するとアメリカは、かつての敵日本、ドイツ(西ドイツ)と組んだ。
アメリカは、「親〇」とか「反〇」とかあまり関係なく、「戦略的に必要な国と組む」」という特徴があります。そして、アメリカは今、戦略的に日本を必要としている。だからバイデン新大統領でも日米関係は安泰なのです。
ですが、日本には、日米関係をぶち壊そうとする「親中派」がいるので、むしろこちらの方が要注意です。
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