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中国はゲームにすら嫉妬する。台湾発『還願 Devotion』検閲、再販中止の裏で何が起こっているか

台湾で昨年2月に配信されると同時に大人気となるも、習近平中国国家主席が絡むあるトラブルのため販売停止となった1本のホラーゲーム。今月16日には再販決定の発表がなされますが、そのわずか数時間後に中止が決まるという異常事態に各所から批判の声が上がっています。今回もその裏に中国の圧力があることを確実視するのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、習近平国家主席が絶対に自分への批判を容認できない理由を記すとともに、コロナ禍以降、中国の焦りとジレンマがより明確になっている事実を紹介。その上で、「中国が強気でいられる期間も長くはない」と記しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年12月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄こう・ぶんゆう
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【台湾】ゲームまで検閲、トップへの批判を容認できない中国の限界

配信停止の「還願」、再販決定もすぐ中止に 台湾発ゲーム、中国から猛抗議

台湾で大ヒットした後、アジアだけでなく世界でも話題となったホラーゲーム「返校」は、その後、映画もヒットし、日本での上映も決まりました。ストーリーは、学校を舞台にしながら、1960年代、戒厳令下の台湾社会の暗部を描いたものです。その「返校」を手掛けたのは、2015年に発足した開発集団「赤燭遊戲 Red Candle games」です。彼らの第一作が「返校」でした。

第一作の大ヒットを受け、波に乗った彼らは第二作目のゲームを発表しました。「還願(Devotion)」です。ストーリーは、「1980年代台湾のアパートを舞台にした一人称視点の心霊ホラーゲーム。台湾の文化と宗教を取り入れ、探索と謎解きを融合した没入型のゲーム体験を特色としています」とのことです。

台湾ホラー『還願』がGOG.comにて再販決定を発表するも、5時間後に中止を決定【UPDATE】

「還願(Devotion)」は、2019年2月に配信されると、たちまち高い評価を受けましたが、配信直後に販売停止となりました。このことは、以前このメルマガでも取り上げたことがあります。

販売停止になった理由は、ゲーム内に出てくる部屋に貼ってあった小さな黄色い呪符。そこには、「くまのプーさん 習近平(習近平小熊維尼)」という言葉に加え、「間抜け」という意味のスラングと同じ発音の文字も並べていました。これに異常に反応した中国人ユーザーたちが、クレームをつけまくり、ゲーム販売プラットフォームのSteamは配信停止を決定せざるを得なくなったというわけでした。

開発元の「赤燭遊戲 Red Candle games」は、これに対して、「本来削除すべきデータアセットを削除し忘れた」と釈明し、謝罪しました。さらに、問題の言葉もすぐに削除しましたが、中国人からのクレームは収まらなかったというわけです。

配信停止のホラーゲーム「還願」は、もはや二重の文脈から逃れられない:ゲームレヴュー

それから約1年が経った今、「赤燭遊戲 Red Candle games」は、当初のゲーム販売プラットフォームSteamから、GOG.comというプラットフォームに乗り換えての再出発を図り、「還願(Devotion)」の再版決定を発表しましたが、再び中国人からの大量抗議を受け、発表から5時間後には再版中止を発表することになりました。

配信停止の「還願」、再販決定もすぐ中止に 台湾発ゲーム、中国から猛抗議

「赤燭遊戲 Red Candle games」は、これに対してフェイスブックで以下のようなコメントを出しました。

大家好,我們是赤燭

 

GOG 平台已在官方 twitter 上表達:『由於收到許多來自玩家的訊息,因此決定取消《 還願-Devotion 》的上架。』我們感到無比遺憾,但也願意理解、並尊重他們的決定。對於原本預定支持還願的玩家們,團隊感到由衷的抱歉這是一個難以克服的困境,但我們仍會繼續努力

 

赤燭遊戲

赤燭遊戲 - Red Candle Games

簡単に訳せば、「今回の決定はとても残念ですが、その理由を理解しファンの皆様のためにもこの逆境を乗り越えるべく引き続き努力していく次第です」となります。

ある報道によれば、再版決定後のユーザーの反応は好意的なものがほとんどで、批判的なものは見られなかった。それなのに、GOG.com側は、「多くのゲーマーたちからメッセージを受け取った結果、このゲームをストアで販売しないことを決定した」とツイートしたそうです。

発禁ホラーゲーム『還願 DEVOTION』GOGで再発発表も直後に販売ページ消滅

つまり、表面には出てこないなんらかの圧力がかかって、再販中止となったとしか考えられません。それにしても、反応が早すぎると思いませんか。再版決定を発表してから数時間後には中止を決定させる圧力をかける。しかも、ユーザーからの声は好意的なものが多かったにもかかわらず、「ゲーマーたちからのメッセージ」によって中止すると言わせてしまう。

そもそも、開発に多大な時間を労力が費やされて出来上がったこのゲームがお蔵入りさせられたのは、たった少しの落書きが原因だというのもバカバカしい話です。ほんの少しの落書きにも徹底的に圧力をかけて世に出させない不寛容。中国は、政権批判は絶対にできず、発言の自由も民意もありません。批判は外に向けるだけ。このバカバカしさが、身体だけ大きくて肝の小さい中国の本質を物語っています。

民主主義の国では、トランプ大統領も安倍元首相も、さんざん批判され、「アホ」だの「死ね」だの言いたい放題言われました。しかし、さまざまな批判や悪罵をも容認するのが民主主義国の首領です。それは、自分を首領に選んだのもまた民意だからです。

しかし、独裁国家の首領は、絶対に自分への批判を容認できません。民意を得た首領ではないからです。民意によって選ばれたわけではないので、権力を維持するには言論統制や恐怖政治しかないというわけです。だからどんな小さな批判でも容認できないのです。中国では民意など弾圧の対象でしかないのです。

そのため、こそこそとスパイ活動に熱心にならざるをえない。これも中国の特徴です。「還願(Devotion)」の再版中止が決まったとのニュースと同時期に、以下のニュースも流れてきました。

中国のプロパガンダ疑惑の絵本 文化部、業者に説明要求へ/台湾

以下、報道内容を一部引用います。

台湾各地の公立図書館に所蔵されている児童向け絵本に、中国の政治的宣伝とみられる内容が盛り込まれていた問題で、文化部(文化省)は30日、同書が台湾で出版される際、必要な申請がなされていなかったことを明らかにした。同部は業者に説明を求める方針を示した。

 

問題の絵本は、「等回家」(仮訳:お父さんの帰りを待ちながら)。今年5月に簡体字から繁体字に変えて台湾で出版された。一緒に旧正月休みを過ごすと子どもに約束していた医師が、突然町を襲った新型コロナウイルスから人々を守るために奮闘する物語で、中国のコロナ対策を称賛しているほか、「中国加油」(中国頑張れ)、「武漢加油」(武漢頑張れ)などの表現も含まれている。

中国のプロパガンダ疑惑の絵本 文化部、業者に説明要求へ/台湾

中国共産党のプロパガンダ絵本を、こそこそと台湾に持ち込んで台湾各地に配布する一方で、気に入らないゲームは徹底的に潰すわけです。中国の本性がここにあります。

中国の焦りとジレンマは、コロナ禍以後いっそう明確になりました。例えば、インドやベトナムとの強硬な国境紛争、オーストラリアの牛肉の輸入禁止や大麦の輸入関税増額などもその一つです。

しかし、現在の中国は世界でも最大の通商国家になっており、エネルギー資源だけでなく、食糧資源なども輸入に頼らざるを得なくなっている状態です。そうした状況を鑑みれば、中国が強気でいられる期間も長くはないでしょう。中国の最大の弱味は資源問題、特に水問題です。

世界の潮流はますます変わってきています。中国がこれまで強気でいられたのは、数と量に頼ってきたからです。しかし。今の時代は都市国家が人気となり、人類の文化・文明の大勢から遠ざかっていく趨勢にあります。

2025年にはインドのGDPが世界一になり、アメリカも中国もインドに追い越されると予想されます。しかし、GDPの数字が大きくなっても、魅力あるソフトパワーがなければ世界で必要とされる国にはなれません。大国は、領土の広さや人口の多さの上にあぐらをかいているだけでなく、これからの「国のかたち」について再考し、これまでの考えを変えなければならない時が来ています。


 

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image by: Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年12月23日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。

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