カルロス・ゴーンは被害者だ。日産「ぼったくり」100億円賠償請求の真相

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楽器ケースの中に忍び込み母国レバノンへと逃れた日産のカルロス・ゴーン元会長ですが、その古巣・日産から100億円という損害賠償訴訟を起こされています。ここまで巨額な訴訟を起こした日産の目的とは何なのでしょうか?そのゴーン氏からの要請に応じて被告代理人を受任した、元検事で弁護士の郷原信郎さんは自身のメルマガ『権力と戦う弁護士・郷原信郎の“長いものには巻かれない生き方”』の中で、ゴーン氏が日産から起こされた訴訟の「ぼったくり具合」を暴露。その背景と理由について明かしています。

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プロフィール:郷原信郎(ごうはら・のぶお)1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。鉱山会社に地質技術者として就職後、1年半で退職、独学で司法試験受験、25歳で合格。1983年検事任官。2005年桐蔭横浜大学に派遣され法科大学院教授、この頃から、組織のコンプライアンス論、企業不祥事の研究に取り組む。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2017年横浜市コンプライアンス顧問。コンプライアンス関係、検察関係の著書多数。

日産VSゴーン氏の100億円損害賠償請求訴訟

日産は、ゴーン氏がレバノンに逃亡した2か月後の今年2月12日、監査委員会委員長の永井素夫氏が会社を代表して、ゴーン氏に対する100億円の損害賠償請求訴訟を起こしました。

なぜ、この時期に、日産が、ゴーン氏に対する民事訴訟を起こしたのか、そこには、日産が、検察との間で二人三脚のような形で進めてきた、ゴーン氏とケリー氏の刑事事件が影響しているのではないかと考えられます。

2018年11月19日に、ゴーン氏が、日産のプライベートジェットで羽田空港到着直後に、検察に逮捕された容疑事実は、未払いの退任後の役員報酬に関する有価証券報告書虚偽記載の事実でした。

(中略)日産自動車は、翌2019年2月12日に発表した2018年第3四半期決算で、有価証券報告書に未記載の約92億円をゴーン氏への報酬として一括計上する一方、

「ゴーン氏の報酬過少申告の事件をめぐる司法判断や、日産が検討しているゴーン被告への損害賠償請求をにらみ、実際の支給は見送る」

としました。

つまり、ゴーン氏に対して、92億円の支払義務があることを認めて、「未払金」を計上した上で、ゴーン氏に対して損害賠償請求を予定していることを理由に、その「未払金」の支払いを行わないことにしたのです。

日産の民事訴訟提起の背景事情

日産のゴーン氏に対する100億円の損害賠償請求訴訟の提起は、上記のように「未払金」処理をする一方、ゴーン氏に対して、役員報酬を支払わないことを正当化することが目的だと思われます。

ゴーン氏は、2019年4月8日の臨時株主総会で、取締役を解任され、それによって日産役員の身分から完全に離れることになりました。

退任後の役員報酬が「確定」していたのであれば、「未払金」として計上していたゴーン氏の「退任後の報酬」を支払わなければならないことになります。

刑事事件での検察の主張を支えるためには、「合計92億円のゴーン氏の退任後の役員報酬が確定している」との前提での会計処理を維持せざるを得ない。

そうなると、退任したゴーン氏にその「確定報酬」を支払わなければならない(ゴーン氏は、「退任後の報酬は確定していない」と主張しているので報酬を請求しなくても、日産側は支払の提供をする必要がある)。

しかし、日産経営陣が、ゴーン氏を追放した経緯からは、ゴーン氏に対して未払報酬を支払うことは、株主にも、世の中にも全く理解されない、ということで、日産は、92億円を超える金額の損害賠償請求訴訟を起こして、「未払報酬」との相殺を主張せざるを得なかったものと考えられます。

日産の100億円損害賠償請求に根拠はあるのか

問題は、日産のゴーン氏に対する損害賠償請求訴訟が、十分な根拠に基づくものなのか、

本当に、日産が計上しているゴーン氏への役員報酬の未払金との相殺が主張できるものなのかです。

ちょうど、日産が、訴訟提起をした頃、私は、ゴーン氏の事件に関する著書のためのゴーン氏インタビューが最終局面を迎えており、レバノンのゴーン氏とは、テレビ電話で話をする機会がありました。

2020年3月に入り、ゴーン氏から、日産が起こしてきた損害賠償請求訴訟への応訴のために、日本の弁護士に訴訟代理人を委任することについて相談がありました。

ゴーン氏は、海外で日産との間での訴訟が係属中で、その関係で、日産が日本で起こした損害賠償請求の訴状も入手したとのことで、私も、その訴状の内容を把握しました。

日産の訴状は、驚きの内容でした。

訴状は、ゴーン氏の不法行為によって日産が損害を受けたとして、100億円の損害賠償を請求するものですが、その「不法行為」というのは、大部分が、ゴーン氏の役員報酬についての有価証券報告書虚偽記載と、新生銀行とのスワップ契約に関連するサウジアラビアの実業家のハリド・ジュファリ氏に対するCEOリザーブの支出など、検察がゴーン氏の刑事事件で立件したもの。

それによって発生したとされている日産の損害の大部分は、ゴーン氏の不正に関して行ったとする日産の社内調査のための弁護士事務所費用約10億円、会計事務所費用約15億円、ゴーン氏の不正によって被ったとする信用棄損の損害10億円などです。

まさに「ぼったくりバーの請求書」のようなものでした――

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1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。鉱山会社に地質技術者として就職後、1年半で退職、独学で司法試験受験、25歳で合格。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事として独禁法運用強化の枠組み作りに取り組む。東京地検特捜部、長崎地検次席検事等を通して、独自の手法による政治、経済犯罪の検察捜査に取組む、法務省法務総合研究所研究官として企業犯罪の研究。2005年桐蔭横浜大学に派遣され法科大学院教授、この頃から、組織のコンプライアンス論、企業不祥事の研究に取り組む。同大学コンプライアンス研究センターを創設。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2017年横浜市コンプライアンス顧問。コンプライアンス関係、検察関係の著書多数。

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