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消えた4820万円。菅首相「総裁選に官房機密費を流用」説は真実か

1月末の衆院予算委員会で共産党の小池晃氏が追求した、菅首相が自身の総裁選勝利のため「官房機密費」を流用していたのではないかという疑惑。首相は即座に否定しましたが、総裁選のさなかに消えた5,000万円近くの機密費の使い道は明らかにされることはありません。この官房機密費の必要性に疑問を呈するのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、今回の疑惑やこれまでの機密費を巡る数々の問題を改めて振り返るとともに、もはやこの予算は官邸利権の温床でしかなくなっていると強く批判しています。

菅首相が総裁選に官房機密費を流用?

昨年9月の自民党総裁選に勝つため、菅首相が内閣官房機密費を流用したのではないかという疑惑が今国会で浮上している。1月28日の参院予算委員会で、共産党の小池晃議員が追及した。

内閣官房機密費。正式には内閣官房報償費といい、2020年度一般会計予算では12億3,021万円が計上されていた公金なのだが、何に使おうが官房長官しだい、領収書いらずで、会計検査院もノータッチ。まるで裏金のような性格を持つ。

なぜそのようなカネを税金でまかなわねばならないのか、国会で疑問や批判の声が上がるたびに、政府が繰り返してきたのが、以下の説明だ。

「国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費」

いつもながら、分かりにくい文言である。要するに、国家にとって重要な何ごとかをなすために、素早く効果的に対応できるよう用意しておくカネということなのだろう。

さて、小池議員は、昨秋の総裁選当時、官房長官だった菅氏がその地位を利用し、官房機密費という公金を、自分の選挙のために流用したのではないかと疑っているわけだが、なぜそんなことを言い出したのか。

小池議員が主張の根拠としたのは、しんぶん赤旗が情報公開請求で入手した「政策推進費」の受け払い簿だ。「政策推進費」は、官房長官自身が金庫から出し入れするカネで、官房機密費の大半を占める。

受け払い簿によると、昨年9月1日、金庫に納められていたのは9,020万円だった。菅官房長官はその翌日、総裁選への出馬を表明した。臨時国会で菅氏が総理大臣に指名された9月16日、金庫に残っていたのは4,200万円。半月の間に、4,820万円が使われたことになる。これについて、小池議員は1月28日の予算委で次のように菅首相の見解をただした。

「総裁選に全力を集中していた時に、あなたは官房機密費を何に使ったのか。それほど重要な政策があったのか。総裁選のために使ったといわれても仕方がないんじゃないか」

何に充てるのか知らないが、官房長官は毎月、1億円近い機密費を要求し、金庫にしまい込んだうえ、ほとんど使い切っている。節約の美徳などという観念はまるでない。

だから、半月に4,820万円というのは、毎度のことではある。しかし、小池議員が言うように、多忙極まる総裁選のさなか、それだけの金額を支払い、官房長官としてどんな仕事をしていたというのだろうか。

「総裁選に使ったのでは」という小池議員の質問に菅首相が「そのようなことはいっさいありません」と反論すると、小池氏は「じゃあ、何に使ったんですか」とたたみかけた。

菅首相はそれには答えない。しばしの沈黙。やがて、加藤官房長官が菅首相の耳元で何かを囁いたと思うと、なぜか答弁席に出てきた。加藤氏には関係がないはずである。小池氏が「ちょっと、関係ない人出さないでくださいよ」と叫んだのは当然のことだった。

加藤長官 「いや、ですから、総理が総裁選に出ていても、政府全体としてはその時の課題に対応しているわけでありますから、当然そういうことに対して使用されてきたということだと思います」

わけのわからないごまかし答弁。小池議員は、吐き捨てるように言った。

「こういうときくらい使うのやめたらどうですか。総裁選に使ったと思われても仕方ない。国民には自助を押しつけて自分には莫大な公助を受けてきたのではありませんか。既得権益を打破するんじゃなくて、どっぷりつかってきたのが総理じゃないですか」

今回、小池議員が具体的な数字をあげて官房機密費問題を取り上げることができたのは、2018年1月19日の最高裁判決があったからだ。

市民団体「政治資金オンブズマン」が第2次安倍内閣における約13億6,000万円の官房機密費支出などについて、関連する全文書の開示を求めていた裁判。最高裁は、関連文書のうち、「政策推進費」の受け払い簿の開示を認め、それまで「全面不開示」としていた国の処分を取り消した。

この最高裁判決が下るまで、国は官房機密費に関わるいっさいを秘密にしておくことができたのだが、「政策推進費」の受け払い簿の開示を最高裁に命じられたことにより、少なくとも官房長官のポケットに入った金額と時期を明らかにしなければならなくなった。

判決の2か月後にようやく開示された2013年1~12月の「内閣官房報償費出納一覧」によると、菅官房長官が受け取った政策推進費は、最高が3月の1億4,090万円、最低が5月の7,080万円、月平均では9,377万円だった。

小池氏の質疑を聞いていて虚しいのは、受け払い簿には官房長官がカネを何に使ったかの記載がないため、追及しようにも自ずから限界があるということだ。

官房機密費を好き勝手に使えるのが、総理や官房長官のいわば“役得”のようになってしまっているわけだが、菅首相が官房長官だった7年8か月の間に、自らに支出した「政策推進費」は約86億8,000万円にものぼる。月平均9,434万円、一日あたり314万円も使っていた勘定だ。

毎月毎月、何でこんな大金が必要なのか。国家のインテリジェンスに関わることなら納得もできよう。しかし、つねに同じペースで支出されているのは、不自然きわまりない。さして重要ではないことに官房機密費を充てているがゆえに、そうなるのではないか。

内幕を知り尽くす男が、このカネの使途をごく一部ながらメディアに暴露し、世間を驚かせたことがある。小渕政権で官房長官をつとめた野中広務氏。民主党に政権交代して間もない2010年春のことだ。

野中氏は、官邸の金庫から毎月、首相に1,000万円、衆院国対委員長と参院幹事長にそれぞれ500万円、首相経験者には盆暮れに100万円ずつ渡していたという。

衆参の国対関係者に機密費を配っていたのは野党工作のためだろうが、首相経験者への高額な現ナマ贈答は、単なる分け前としか思えない。

野中氏は「世論操作のため複数の政治評論家にカネをばらまいた」とも証言した。

「前の官房長官から引き継いだノートに、政治評論家も含め、ここにはこれだけ持って行けと書いてあった。持って行って断られたのは、田原総一朗さんただ1人」

「政治家から評論家になった人が、『家を新築したから3,000万円、祝いをくれ』と小渕総理に電話してきたこともあった」

なぜ野中氏がそんなことを暴露したかというと、新米の民主党政権への牽制というか、嫌がらせのようなものも含まれていたのだろう。「国民の税金だから、政権交代を機に改めて議論し、官房機密費を無くしてもらいたい」と、新政権に注文をつけた。

それだけ旨みがあるということだ。官房長官からもらったカネで銀座のクラブに通おうが、キャバ嬢に貢ごうが、表沙汰にならない。まことにありがたいカネなのだ。

2009年、自民党が衆院選で敗北し、政権交代が決まった2日後に麻生内閣の河村官房長官が2億5,000万円を引き出したというので、「駆け込み支出」だと物議をかもしたことがある。河村氏から誰と誰にカネが配分されたかはもちろんわからない。選挙資金の穴埋めか、などと諸説が乱れ飛んだが、要するに、その立場にある間に、もらえるものはもらっておきたかったということだろう。

加藤勝信官房長官は1月29日の記者会見で、菅内閣が国庫から支出した官房機密費が、昨年9月の発足から4カ月半で5億円にのぼることを明らかにした。このうち、政策推進費は約3億6,000万円である。あいかわらずのペースで使っている。

過去の自民党政権は、そのうえに、外務省から外交機密費の上納までさせてきた。上納は佐藤政権時代から始まったといわれる。

官房機密費を使いすぎて足りなくなり、佐藤首相は予算の増額を望んだが、やりすぎると目立つので、その分外務省に予算をつけ、秘密裏に官邸が横取りして、マル秘資金をふくらませた。それが長年の慣習になっていたのだ。

森内閣のころだったか、当時55億円といわれた外交機密費のうち20億円をそれまで毎年、官邸に還流させていたことがわかり、国会で問題になったこともある。

外務省の額が多いのは、在外公館における要人接待、情報交換、情報収集などに使うという建て前があるからだ。ところが、こういう資金は機密性をもつだけ裏金に化けやすい。検察や警察の調査活動費の私的流用問題も同じたぐいだ。

官房機密費については「情報収集の対価として支払う」という言い方もされる。しかし、単なる会食も情報収集と言い訳できないこともない。国家的な機密を要するような情報収集の仕事が、毎月コンスタントに1億円を使わねばならないほどあるとは思えない。

邪推すればきりがないが、安倍前首相が「桜を見る会」前夜パーティーの費用を自分の預金から補てんしたというのも、実は官房機密費から出ていたかもしれないし、公選法違反事件を起こした河井克行、案里夫妻に渡された1億5,000万円のなかに、この手のカネが紛れ込んでいないとは限らない。

官房機密費が必要なのかどうかを今一度考えてみなければなるまい。実態が、あまりに建て前とかけ離れ、官邸利権の温床でしかなくなっている。

image by: 首相官邸

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