学生時代に数学の授業で誰しも学んだ経験のある「確率」の問題。しかし、確率の「定義」をキチンと説明できる人は少ないのではないでしょうか。ビジネス数学者でメルマガ『深沢真太郎の「稼ぐ力がつく! 数学的思考の授業」』著者の深沢真太郎さんは、SNS上で「確立」という誤字で書かれてしまうほど「確率」というモノが正しく伝わっていない現実を紹介しながら、「そもそも確率って何?」という疑問について事例を使って分かりやすく解説しています。
Twitterが教えてくれた「確率」を正しく知らない人の存在
ある企業研修で私は参加者の皆様にこのような問いを投げかけたことがあります。
Q. 数学で学んだ「カクリツ」を漢字で書いてください
もちろん正解は「確率」です。
皆さんもおそらく同じ漢字を思い浮かべていたと思います。こんなの当たり前じゃないかと思うかもしれません。
でも、聞いてください。
例えばTwitterなどで私が見かける「カクリツ」、このような漢字で表現されていることがあります。
「確立」
もちろんこれは誤りであり、正しくは「確率」です。
しかし、明らかに大人の、そして一見すると知的でご立派な主張と思われる文章の中に登場する「カクリツ」の漢字が間違っているのです。
先述した研修の現場でも、同じように「確立」と書いている参加者がいました。
これは一度や二度ではなく、これまで私が何度も目にしてきた事実です。
Twitterといえば、思い出したことがあります。先日たまたまある投稿を見かけて面白いなと目にとまりました。
あるAさんとBさんの対話のような内容でした。
私の記憶も少し曖昧なのですが、要約するとこんな内容だったと思います。
Aさん
「いつも思うけど、何百万人のうちたった何人が死亡するから死亡する確率は低いしまったく気にしなくていいって考え方は間違っていると思う。本人にとってはそんな確率なんてなんの意味もない。生きるか死ぬかの2択だからさ。50%と50%って理解するべきだよね」
Bさん
「数学が死ぬほど苦手だった高校のころ、数学の先生に対してこんなことを言ったんです。物事はすべて「なる」か「ならぬ」の五分五分じゃないですか、と。そうしたら、俺はそういう雑な考え方で生きていかずに済むように確率の概念を教えるんだ、とその先生に言われたんです。確率は常に50:50というのはある種の思想か哲学としてならありだけど、数学的思考が要求される場面でそういうことを言っていると、自分は算数からできていませんと宣伝するようなもんだぞ」
いかがでしょう。
Aさんのおっしゃっていることも理解できるし、Bさんの主張に頷く方も多いでしょう。
このふたりの対話の何が面白いかというと、「そもそも確率ってなんだっけ?」という内容であることです。
裏を返せば、このような対話がこの世に存在する理由は、確率というものの定義や理解が人によってバラバラだということ。
実は曖昧なまま確率というものを理解したつもりになっている人がたくさんいるということです。
ちなみに私はこの二人はどちらも間違ったことは言っていないと思っています。
いくつかの事例を使いましたが、要するに私が言いたいことはこうです。
実は「確率」を正しく知らない人がたくさんいる。
ですからこの授業もまずは確率のそもそもからしっかり学ぼうと思うのです。
皆さんの中にはかつて確率をしっかり学んだ方もいるでしょう。
その方にとっては知っている知識の確認にしかならないかもしれませんが、もしかしたらある種の誤解や新たな発見があるかもしれません。
ぜひ楽しみながら参加してください。
さて、私たちは今から確率というものを定義することになります。数学において最初にすることは「定義」です。数学は定義をしないと始めることができない学問ですから。
例えば皆さんは直角三角形の性質を表す「三平方の定理」をご存知でしょうか。
私たちはこの定理を覚える(あるいは理解する)ことが数学だと思ってしまいがちですが、そうではありません。
そもそも直角三角形がどんな三角形なのかが明確に定められてないと、直角三角形の性質を研究することなどできません。つまり「三平方の定理」も誕生していません。
数学で最初にすることは、定義なのです。
そこである教科書に書かれている確率の定義を確認してみましょう。
いきなりこのような記述から始まっています。
重要なのは「いきなりこの記述から始まっている」ことです。
【同様に確からしい】
ある試行においてどの根元事象が起こることも同程度に期待できるとき、これらの根元事象は同様に確からしいという【事象Aの確率】
ある試行において各根元事象が同様に確からしいときについて、起こりうるすべての場合の数をN、事象Aの起こる場合の数をaとするとき、(a/N)を事象Aの確率といい、P(A)で表す。P(A)=(事象Aの起こる場合の数)÷(起こりうるすべての場合の数)=(a/N)
おそらくあなたも学生時代にこのような記述を読まされ、これを理解しようと務めたことでしょう。
ここで書かれている定義に間違いはありません。数学的には正しいことしか書かれていません。
しかし私はこの教科書の定義にはある大きな欠落があると思っています(作成者には申し訳ありませんが)。
それは、以下の2つが記述されていないことです。
- そもそもこれは何を目的にして始まった話なのかを説明していない
- P(A)が何を意味するのかが説明されていない
ああ、これでは数学から離れる子供や学生が増えるわけだと思ってしまいます。
数学を理解している私でも、いきなりこんな記述を読まされたら「へ? なんの話?」と思います。
私からきちんと(極めてシンプルに)説明しましょう。
例えば、昔も「賭け事」が存在しました。
いかに賢く賭け事を制するか。これは人々の関心を呼びます。
ある数学者がこのテーマで研究を始めました。
そこで必要になったのが、「その出来事はどれくらい起こりやすいか」を把握する方法です。
結論としては、P(A)という数値により「その出来事はどれくらい起こりやすいか」を表現する方法としました。
それが確率と呼ばれるものであり、P(A)が大きいほど「起こりやすい」と評価するようにしました。
いかがでしょう。
そもそも何の話からスタートしているのか。なぜ確率というものを定義するのか。その数値の意味は何なのか。あなたに伝わっていれば幸いです。
そういう意味では、(申し訳ありませんが)一般的な数学の教科書はストーリーが書かれていないなと思います。
人間はストーリーで理解する。
これはビジネスに限らず様々な分野で語られていることであり、私もその通りだと思います。
もっとストーリーを使った数学を学ぶ素材を作って欲しいものです。(メルマガ『深沢真太郎の「稼ぐ力がつく! 数学的思考の授業」』2021年2月9日号より一部抜粋)
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