何ひとつ説明せぬ菅政権の異常事態。日本の政治風土を破壊した真犯人

 

では、どうして政治がここまで「説明不足」に陥っているのでしょうか?

まず思うのは、メディアの伝える力が弱っているということです。政府の意向を汲んで適当な報道をすれば炎上する、かといって徹底して批判報道に撤すれば政府から弾圧が来る、一方で地上波ビジネスモデルは風前の灯といった中で、まずTVが弱体化しています。また新興のネットも感情論の点火と爆発は得意ですが、複雑さを抱えた問題を丁寧に議論するメディアには育っていません。

加えて、野党の問題があります。ここへ来てハッキリ分かったのは、鳩山=菅直人=野田の「民主党政権」がどうして潰れたのかという原因です。あれは、改革の運動でもなく、汚職撲滅のクリーンな運動でもなく、リーマンショックからの経済再建の運動でもなかったのです。

そうではなくて、あれは「感情論のお好み食堂」だったということです。何となく、八ッ場ダムはイヤ、辺野古の基地建設はイヤ、巨額の技術予算もイヤ、中道だけど右派から叩かれるのはイヤだから尖閣は国有化、当初は原発依存の環境政策だったのが震災で180度転換…など彼等のやろうとした「政策」のほとんどが、それこそ都知事選で泡沫候補が言いそうな「感情論」のオンパレードで、その羅列にはイデオロギー的にも、政策論的にも「こうした組み合わせパッケージ」にするという必然性はなかったわけです。

あの民主党時代が、日本の政治風土を大きく壊しました。更に、その後の安倍政権というのは、別の意味で日本の政治風土を弱めました。それは、「表面的には右派ポピュリスト」のフリをしながら実体としては「実行可能な、そして実施が必要とされる中道政策」を淡々と進めたということです。

財政はリベラル、韓国とは日韓合意、アメリカのオバマとは相互献花外交、更に原発再稼働には慎重、ということで、特に第2次安倍政権というのは中道というよりも、政策としては中道左派政権だったとも言えるわけです。ですが、「右派政権」だという看板はかけ続けたし、モメた時の安倍晋三のパフォーマンスだけを見ていると、ネトウヨは「左派をやっつけてくれて痛快」と思ってしまう、でも、実際の政策は中道左派というウルトラCを続けたのです。この長い長い安倍政権時代にも、政治と民意の「騙し合い」は悪化したと思います。

つまり、「感情論のお好み食堂」だった民主党政権、そして「看板は右派だが出てくる料理は中道左派」という安倍政権の手品、この2つがここ10年続いたことで、政治が民意に対して正直に「実行可能な、そして実行が必要な」政策を説明することができなくなっているのだと思います。

政治が「説明」できなくなっている、これは大変な問題です。まずは、メディアがもう少しまともな報道や議論を主導することから、政治も民意も学び直さなくてはなりません。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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