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4年制大学に入ると「将来の年金額が少なくなる」って本当なの?

日本の年金には、国民年金と厚生年金の2種類があり、さらに国民年金には3つの種類があるのをご存知でしょうか。ややこしく見える年金のお話を毎回詳しく解説している無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』は今回、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが「給与も加入期間も同じなのに貰う年金が少ないのはなぜ?」という、気になる疑問に答えています。

あの人と給与も加入期間も同じなのに年金が少ない(ように見える)のはなぜなのか?

現代は多くの人が4年制大学に通うのですが、この事をもって将来の年金額が少なくなるという人が多いです。国民年金は20歳になると強制加入となり、その月の保険料は翌月末までに納めなければなりません。学生だから保険料は納めなくていいよというわけではないんですね。

ところが学生はそんなに保険料(令和3年度は毎月16,610円)を納めるのはなかなか負担が大きいので、多くの人は保険料を免除しています。学生は本人の前年所得が概ね118万円未満であれば、保険料を全額免除する事ができます。

ちなみに保険料を免除する時は本人の所得だけでなく、世帯主や配偶者の所得も確認されますが、学生は本人の所得だけを基準とするので免除されやすいです。余程の事が無い限り免除される。

学生時代に多くの人が保険料を免除するという事は、将来に年金を貰う時に年金額が下がってしまう事態を招くという事でもある。

なお、免除した期間は過去10年以内なら遡って保険料を納める事が出来るので、年金の低下を防ぐ事が出来る。もし遡って保険料を支払わないのであれば将来の老齢基礎年金には一切反映しない。

普段よく使われている免除期間は年金額の2分の1に反映したりしますが、学生期間の免除は年金額には全く反映しないという大きな違いがある(年金には全く反映しないんじゃ何のメリットがあるの?という感じがしますが、メリットは過去の記事にて)。

※ まぐまぐニュース(年金保険料の免除が最も力を発揮する時)
年金保険料の支払いが困難でも「未納」より「免除」申請の方が得をする

これは、社会人になったら免除してた期間は納付するだろうという期待が込められているからというのもある。まあ、奨学金とかも社会人になったら返済してねとなりますしね^^

さて学生期間にこのように保険料を支払わなくても、その後は何年何十年と保険料を支払う期間があるので支払わなかった分は十分カバーできると安心してる人もいます。サラリーマンの人は厚生年金なので、最大70歳までは加入できるからですね。

ところがいざ年金を貰う時に、20歳から60歳までにキチンと保険料を納めた人と、大卒後に22歳から70歳まで加入した人と比べるとそりゃあ後者の人が年金額は多いと思いますよね。もちろん同じ給与条件だったなら年金総額としては後者の人が多いですが、内訳としては前者の方が明らかに多い部分がある。簡潔にその点を比較して考えてみましょう。

まず20歳から60歳までの480ヶ月間抜け目なく被保険者期間があれば、国民年金からは満額780,900円が支給される事を念頭に置いておきましょう。

1.昭和31年4月1日生まれのA夫さん(今は65歳)

(令和3年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!

絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方

20歳になる昭和51年3月から昭和53年3月までの25ヶ月間は昼間4年制大学に通っていたが、この当時は昼間学生は国民年金に加入する必要は無かったが任意加入はできた。任意で加入しないのであればカラ期間にはなる(この人は1日生まれだから、前日に年齢到達の原則に従うと3月31日が20歳到達日となるから3月が誕生月。3月分から保険料を支払う事になる)。

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※ 注意

学生が強制加入となったのは平成3年4月から。強制加入により学生の免除もこの平成3年から始まった。

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昭和53年4月から62歳前月の平成30年3月までの480ヶ月間は厚生年金に加入。

なお、平成15年3月までの300ヶ月間の平均給与は35万円とし、平成15年4月から平成30年3月までの180ヶ月の平均給与は50万円とします。

60歳前月の平成28年2月までの455ヶ月が国民年金同時加入期間(60歳到達が3月なので、到達月の前月までが国民年金強制加入)。

この人の生年月日から見ると62歳から年金が貰える人ですが、65歳からの年金総額を見てみましょう。まず厚生年金から。

・老齢厚生年金(報酬比例部分)→35万円×7.125÷1,000×300ヶ月+50万円×5.481÷1,000×180ヶ月=748,125円+493,290円=1,241,415円

・老齢厚生年金(差額加算)→1,628円(令和3年度定額単価)×480ヶ月-780,900円÷480ヶ月×455ヶ月=781,440円-740,228円=41,212円

・老齢基礎年金→780,900円(令和3年度満額)÷480ヶ月×455ヶ月=740,228円

よって年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分1,241,415円+差額加算41,212円)+老齢基礎年金740,228円=2,022,855円

これをよく見ると、480ヶ月間(40年)も厚生年金に加入してますが、国民年金から支払われる老齢基礎年金は満額の780,900円からは約4万円も足りないですよね。

よく受給者の方は40年間の期間があれば満額の老齢基礎年金が貰えると知っていらっしゃるのですが、全然満額になってないから「この数字はおかしいんじゃないの!?」って訝しく思われる事もちょくちょくあります^^;

ココで考えてもらいたいのは老齢基礎年金は国民年金強制加入中である20歳から60歳までの期間で計算するという事です。だから、国民年金に同時加入ではない60歳以降の厚年期間は老齢基礎年金には含まない。

なぜ含まないのか。

国民年金の被保険者には3種類の人がいますよね。主に自営業者の人である国民年金第1号被保険者、サラリーマンなどの国民年金第2号被保険者、サラリーマンの配偶者の扶養に入ってる国民年金第3号被保険者の3通り。

この内、1号と3号は20歳から60歳までしか被保険者にはなれないですが、2号被保険者は上記の事例のように60歳以降も厚生年金に加入する事が出来ます。さらに20歳前からでも加入できる。

もし、2号被保険者は60歳以降も加入できるから、その期間も老齢基礎年金に含めよう!とすると、ちょっとした不公平が生じます。1号や3号の人は60歳までしか加入できないのに、2号だけは60歳以降も加入できて老齢基礎年金を増やす事が出来る…とすると、被保険者の間で加入期間の不公平が生じます。よって、あくまでも老齢基礎年金に含めるのは20歳から60歳までに統一しようという事です。

しかしながら厚生年金保険料は60歳前後で徴収する保険料率は変わらないのに、60歳までは厚生年金にも国民年金にも反映するけど、60歳以降は厚生年金だけにしか反映しないというのはそれも納得いかないですよね。じゃあどうするかというと、60歳以降の期間は老齢基礎年金には反映しないけど、せめて老齢基礎年金の差額として厚生年金から支給しようというものが差額加算です。

上記の差額加算の金額41,212円というのがありますよね。その金額と老齢基礎年金740,228円を足すと、781,440円となってほぼ老齢基礎年金の満額と同じ額になります。老齢基礎年金として使ったのが455ヶ月分でしたが、足りない25ヶ月分は老齢厚生年金の差額加算から支給したという事ですね。

まあ、基礎年金を計算したとすれば780,900円÷480ヶ月×25ヶ月=40,672円になって、ほぼ国民年金保険料を25ヶ月納めたのと同じ効果があります。

じゃあ、20歳から60歳まで厚年に加入した人と比べてみましょう。

2.昭和31年4月1日生まれのB助さん(同じく65歳)

20歳になる昭和51年3月から60歳前月の平成28年2月までの480ヶ月間厚生年金に加入。A夫さんと給与水準は同じで、報酬比例部分年金は同じ1,241,415円だったとします。

65歳からの年金として差額加算と老齢基礎年金を計算します。

・差額加算→1,628円×480ヶ月(上限)-780,900円÷480ヶ月×480ヶ月=81,440円-780,900円=540円

・老齢基礎年金→780,900円÷480ヶ月×480ヶ月=780,900円

年金総額は報酬比例部分1,241,415円+差額加算540円+老齢基礎年金780,900円=2,022,855円になりました。

A夫さんと厚年加入期間と給与水準も同じ条件でしたが、年金額の内訳は全く違いますよね。B助さんは20歳から60歳までバッチリ厚生年金の被保険者期間で埋め尽くされているので、老齢基礎年金も480ヶ月として満額支給されます。20歳から60歳をはみ出る差額の厚年期間が無いので差額加算が低くなったけど、老齢基礎年金がその分多くなりA夫さんと同じ額になりました。よって、給与水準も加入期間も同じであれば、内訳は変わる事はあるけども年金総額としては同じになる。とはいえ、年金には多くの制度があるので例外はよくある。

さて、62歳の時にA夫さんとしては老齢基礎年金が満額にならない事が、なんだか中途半端な感じがしたためどうしても満額にしたかった。気になる人は気になるようです^^;

どうしても老齢基礎年金を満額にしたかったので、62歳から65歳前月までの36ヶ月間の間に最大25ヶ月間は国民年金に任意加入して国民年金保険料を納める事が出来るので任意加入を利用した。そうすれば老齢基礎年金を満額にできる。ただし厚生年金加入中は任意加入はできないから誰でも任意加入できるわけじゃない。

逆にB助さんは60歳以降は国民年金に任意加入はできない。なぜならすでに老齢基礎年金満額貰うだけの480ヶ月間を満たしてるので、任意加入する事がそもそもできない。年金を増やしたい場合は厚生年金に加入する必要がある。

※ 追記

差額加算はなぜ存在しなければならないのか。

長くなるので簡単に述べますが、これは昭和61年4月に老齢基礎年金の前身である定額部分が廃止となり、後継者として老齢基礎年金が支給される事になった時に遡ります。

定額部分と老齢基礎年金の給付水準を合わせるために月単価を同じ水準にしたり、期間は最大でも480ヶ月にして公平にしたが、定額部分と老齢基礎年金の計算式の違いでどうしても差額が出てしまい、定額部分のほうが計算式としては高くなった。だから、B助さんのところでは同じ480ヶ月なのに540円の誤差が出たので支給した。

さらに定額部分は年齢に関係なく全ての厚年期間を使うが、老齢基礎年金はあくまで20歳から60歳までの厚年期間(2号期間)を使うのでそうなると大きな差が出てしまう。

本当に20歳から60歳までの期間でしか支給しないなら、定額部分より老齢基礎年金が金額は少ないに決まっている。従来の法律である定額部分より、新法である基礎年金が不利という状況になる。

昭和61年4月に定額部分から老齢基礎年金にバトンタッチしたからといって、定額部分より老齢基礎年金額が下がる事を防ぐためにどうしても生じる差額を今もなお差額加算として計算して支給している。

今回は以上。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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