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人は数字だけで「意思決定」できない。結局最後は“心”に行き着いてしまう理由

例えばビジネスの現場において何かを決定しなければいけないとなった時、「数字」を判断基準とすることが論理的だと判っていながらも迷いに迷ってしまったという経験、お持ちではないでしょうか。なぜ人は「数字」だけで意思を決定することができないのでしょうか。そんな疑問に答えてくださるのは、ビジネス数学教育家で大学でも教鞭を執る深沢真太郎さん。深沢さんはメルマガ『深沢真太郎の「稼ぐ力がつく! 数学的思考の授業」』で、意思決定するに当たり「数字」以外に必要なものとして「メンタリティ」を挙げ、その理由を論理的に解説しています。

確率思考:そもそもあなたは“決める”と決めているか?

前回に続き、テーマを「意思決定」としてお話をしてみたいと思います。その前回、最後にエクササイズを1つ預けました。覚えていらっしゃいますか。

エクササイズ

 

あなたが意思決定できずにいったん脇に置いてある「問題」はありますか。

 

なぜその「問題」は解決できないのでしょうか。

 

なぜ意思決定なさらないのでしょうか。

 

表面的な理由ではなく、本当の理由はなんだと思いますか。

「僕は自分の前にある問題はすべて解決しており、できないものなどない」という方はごめんなさい(笑)。でも、そんな人間はおそらくひとりもいないでしょう。誰だってなかなか意思決定できずいったん脇に置いている問題のひとつやふたつはあるはずです。

前回、この授業では意思決定に数字を活用したいと提案しました。なぜならはっきりと大小や優劣が示せる言語だから。物事を決めるにあたり、これほど便利な言語はありません。曖昧さを排除した世界でもっとも具体的ではっきりした言語ですから。

しかし私たちは実際にビジネスの最前線において数字で意思決定がなかなかできません。それは一体なぜでしょうか。その答えは「それ意外に必要なものがあるから」です。

そこで問いです。とてもシンプルな問いです。

Q.意思決定するにあたり、「数字」以外に何が必要でしょう。

私の答えは、メンタリティです。心的傾向や精神状態といっても良いでしょう。心理学のような難しいものではなくもっとカジュアルなものだと思ってください。実際に意思決定ができる人になるためにはどういう心構えが必要か、どんな精神でいるのか、そんなテーマです。

「おいおい精神論かい?」

というスタンスの方はここで離脱していただいて結構です。人間が理論やデータだけで意思決定できるのであれば、こんな簡単な話はありません。数値化して大きい(小さい)方を選びなさい、以上です。という話です。

しかし何度も申し上げますが、現実世界はそうはなっていません。机上の話だけがお好みの方は、この授業に参加されても得るものはないでしょう。

私はある簡単な実験をしてみました。100名程度いる会場で、次のような質問をしてみたのです。

Q1

あなたはいま預金が5万円しかありません。1万円もらえるか5万円失うか五分五分の機会にかけてみる?「YES」という方は挙手をお願いいたします。

会場で挙手した人はゼロでした。次の質問です。

Q2

あなたはいま預金が10億円あります。その金額が10億1万円になるか9億9995万円になるか五分五分の機会にかけてみる?「YES」という方は挙手をお願いいたします。

会場で挙手した人が数人いました。どちらのケースもポジティブシナリオなら1万円が増え、ネガティブシナリオなら5万円が減るという話です。しかも確率はどちらも同じ。にもかかわらず人間の反応は変わってきます。

確率50% +1万円  → 6万円
確率50% -5万円  → 0円

「YES」は絶対に選べない

確率50% +1万円  → 10億1万円
確率50% -5万円  → 9億9,995万円

「YES」を選べるかもしれない

同じ確率でも結論が変わることがある。それが人間です。ちなみにQ2では手を挙げていた方にその理由を尋ねたところ、以下のような説明がありました。

「まあ別にいいいかな」と思いまして。預金が10億円ありますし。でもQ1は「ちょっとその勇気はない」と感じました。さらにQ1で1万円もらう確率が80%だとしたらどうかなと考えてみたんですけど、やっぱり無理ですね。預金ゼロになるって恐怖です。これが先生のおっしゃるメンタリティってやつなのでしょうか。確かに心理的なものですよね。

例えばある人物が起業するかどうか悩んでいるとして、成功確率が3%という数字を目にしたとします。もしかしたらその確率を見て「やっぱりやめておこう」となるかもしれません。失敗は恐怖です。しかしもしこの人物が重い病気で手術しか生存の可能性がないとします。その手術の成功確率は3%だと医師に告げられます。その確率を聞いて「やっぱりやめておこう」とはおそらくなりません。誰だって生きたいですから。

起業の成功確率3% → NO
手術の成功確率3% → YES

同じ確率3%なのに、結論が変わりますね。

「まあ別にいいかな」「勇気」「恐怖」「生きたい」…。これらに共通するのは、人の心の表現であるということです。同じ確率でもその意味づけが変わったり、意思決定が変わったりする。つまり人間は確率だけで「はいわかりましたそっちに決めます」とはなりにくい生き物なのです。確率で意思決定するのではなく、その確率にどう意味づけするかで意思決定は決まる。そしてそれは、その人の心に大きく影響されるものだということです。

ここまでは「メンタリティがいかに意思決定に関与するか」を説明したに過ぎません。今日は最後に具体的なエッセンスをひとつご紹介しましょう。

唐突ですが、皆さんは衝動買いをするタイプでしょうか。私はあまりしないんです。例えば洋服。街をブラブラしてたまたま入ったお店でなんとなく気に入ったので即購入、なんてことはほとんどありません。ウィンドウショッピングするとしても、「今日はあくまで市場調査をする日」と決めてブラブラしています。たとえその日にとても魅力的なニットに出会ったとしても、なぜかその日は買えないんですね。

逆に服を購入する日は明確に「今日はブルーかグリーンの鮮やかなニットを購入する」と決めてから店に向かいます。面白いものでこういう日は必ず何かしら服(ブルーかグリーンの鮮やかなニットではないものでも)を購入して自宅に戻っています。

あくまで私個人の特性ですが、「今日は買う」と決めている日は買える。「今日は買う」と決めていない日は買えないのです。ここで申し上げたいのは「それをすると決めているからそれができる」という考え方もあるのではないかということです。もちろん買い物の仕方など個人の自由であることも付け加えておきます。

この話とほぼ同じ構造をしているのがビジネスにおける意思決定です。すなわち「そもそもあなたは“決める”と決めているか?」ということです。

例えばある事業の業績が芳しくなく、撤退すべきかを悩んでいる人がいたとします。まさに意思決定の場面です。おそらく「数字」はファクトとして手元にあります。数字だけで判断するなら、おそらく答えは出ているはずです。にもかかわらず、撤退すべきかを悩んでいる。なぜ悩む?さっさと決めればいいじゃないか。

そうです。この方に足りないのはまさにメンタリティ。決めなきゃと思いつつ、実は“決める”と決めていないのです。

「実はできればこのテーマで何かを決めるという行為をしたくない」
「できれば後回しにしておきたい」

私も会社員の経験がありますし、組織の中で意思決定することの難しさや心理的な抵抗感があることはとてもよくわかります。意思決定すれば責任が生じ、それが正解だったのか間違っていたのかを問われる。誰だって好んでそんな立場に自分を置きたくはないでしょう。しかし…。

言葉遊びのようですが、“決める”と決めていない人が決められるほど、ビジネスの意思決定は簡単なものではないでしょう。“決める”と決めてない人はどれだけ意思決定の理論を学んだところで、確率思考を理解したところで、実際にはそれを使えないのではないかと思います。

これが、意思決定を理解できれば意思決定ができるわけではないという私の主張の根拠です。だからけっきょくこのテーマは、どうしても最後は「心」の話になるのです。

あなたは、“決める”と決めていますか。

(メルマガ『深沢真太郎の「稼ぐ力がつく! 数学的思考の授業」』2021年4月27日号より一部抜粋)

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深沢真太郎この著者の記事一覧

日本大学大学院総合基礎科学研究科修了。理学修士(数学)。予備校講師から外資系企業の管理職などを経てビジネス研修講師として独立。大手企業・プロ野球球団・トップアスリートなどの教育研修を手がけ、一部企業とはアドバイザリー契約を締結し人材開発のサポートを行っている。さらにSMBC・三菱UFJ・みずほ・早稲田大学・産業能率大学などと提携し講座を提供。2018年には「ビジネス数学インストラクター制度」を立ち上げ、指導者育成にも従事している。
数学的なビジネスパーソンを育成する「ビジネス数学」を提唱し、述べ1万人以上を指導してきた教育の第一人者。世界中の学校と企業で「ビジネス数学」が学べる世の中にすることを使命としている。テレビ番組の監修やラジオ番組のニュースコメンテーターなどメディア出演も多数。著作は国内累計25万部超。実用書のほか作家として小説も発表しており、多くのビジネスパーソンに読まれている。BMコンサルティング株式会社 代表取締役 一般社団法人日本ビジネス数学協会 代表理事 国内初のビジネス数学検定1級AAA認定者 国内唯一のビジネス数学エグゼクティブインストラクター

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