コロナ禍で苦しい日々を過ごしているエンタメ業界の人々。ガイドラインに従って如何に開催するか、工夫し準備を重ねてきたにも関わらず、4都府県では大型連休を前に「人流抑制」の言葉で切って捨てられ、不信と不満の声が大きくなっています。しかし、7月後半からの半月だけは中止や縮小を気にせず進めている業界関係者が多いのだとか。今回のメルマガ『8人ばなし』では、著者の山崎勝義さんがその理由を解き明かします。緊急事態宣言発出後も行政が期待する効果が出ない理由としても考えられる「皮肉な信用」が影響しているようです。
信用と不信のこと
仕事柄、私の知り合いにはエンタメ関係の人が多い。最近、その人たちから同じような話を聞くのである。それは7月の第3週末(7/16金)以降から各都市部でイベントラッシュが起こる、というものである。
言うまでもなくこの1年、飲食業、観光業と同様にエンタメ業界も煮え湯を飲まされ続けて来た。開催中止に伴うチケットの払い戻し、入場制限による収益の減少、これだけでもバックに大企業でもついていない限りは再起不能レベルの大損失である。それでも何とかしようと、昼・夜公演にしてみたり、慣れない有料LIVE配信を導入したり、さまざまな工夫をした。この1年、どんな形であれ我々が所謂「コンテンツ」というものに飢えることがなかったのはひとえにこの努力によるものである。
そうやって我慢に我慢を続けて来たエンタメ業界が今年の7月後半から堰を切ったようにイベントを再開させる、一体どういうことなのだろうか? コロナは大丈夫なのだろうか? もちろん業界もやみくもにスケジュールを組んでいる訳ではない。実は7月後半以降に関しては「間接的保証」が「政治的」に得られたも同然だからこうなったというのが実際のところである。
保証とは言うまでもなくオリンピックのことである。今年(強行)開催予定の東京オリンピックは7月21日(水)に先行競技が始まり、その2日後の7月23日(金)が開会式である。この御墨付きは大きい。というのも如何なビッグイベントも世界最大級の祭典であるオリンピックと比べればどれもミニイベントも同然であるし、オリンピッククラスのイベントがOKならたかだか通常レベルのイベントがNGとなる筈がない、といった解釈が容易に許されるからだ。
逆に言えば、通常のイベントができないならオリンピックなどおよそできよう筈もないという論理である。「オリンピック?やめれるもんならやめてみろ!」1年も苦しんできた業界関係者なら、そのくらいの気概はあっても不思議ではない。
ただこの業界心理はちょっとばかり面白い。その気概(つまりは自信)は政府への信頼からではなく、逆に不信から来ているものだからだ。「(感染の状況がどうであれ)何が何でもオリンピックはやる」これを裏打ちにして成り立っている自信なのである。
自民党の二階幹事長がオリンピックの中止に言及した途端にそれは「叱咤激励」ということになった。この一事をとっても傍証としては十分なのではないだろうか。「こんな無理筋解釈が許されるなら、今後出るかもしれないどんな否定的要素も確実に曲解されること請け合いだから7月後半は安心だ」この政府への不信から来る絶対の自信があるから業界関係者も大きく張れるのである。
それにしても一番信用できるのが政府への不信という「逆説的信用」とでも呼ぶほかないようなこのあり方は一体何なのか。現在発出中の「蔓延防止等重点措置」も「緊急事態宣言」も以前ほどの自発的抑制効果を有してはいないと言う。もしかしたら国民もこの「逆説」にとっくの昔に気付き、逆張りをすることに何となく決めてしまったのかもしれない。
image by: 首相官邸