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心理学者が「禁欲ブーム」をバッサリ。快楽は悪ではないと断言するワケ

近ごろ、欲望や快楽を求める心を抑える「禁欲」が身体に良いとする言説がネット上などに出回っているようです。さまざまな快楽を求める「欲求」は人間の本能ですが、それを抑えることが本当に健康だと言えるのでしょうか? 今回のメルマガ『富田隆のお気楽心理学』では著者で心理学者の富田隆さんが、昨今の「禁欲ブーム」を一刀両断。「快楽そのものは悪くない」として、その「使い方」に問題があると指摘しています。

脳は変化を嫌う?

脱快楽中毒

最近、ネット上で「禁欲」が身体に良いとか、こんな効果がある、といった動画が増えているように感じます。

たとえば、「ポルノ断ち」の薦め。つまり、インターネット上のポルノと縁を切ることで人生が良い方向に変わる、といった主張です。

「なるほど」と納得させられるものも多いのですが、一時の「断捨離ブーム」の時のように、何となく表面的な「禁欲ブーム」の波に乗っているだけのものもあります。

こうしたトレンド?の原因ですが、ひとつには、「コロナごもり」が長く続くせいかもしれません。

私なんぞも「小人閑居して不善を為す」といった具合ですから、気を付けないと、何時間も「酒池肉林」の世界に溺れかねません。

手軽にアクセスできるインターネットの世界には、危険な罠が溢れています。

それに、コロナ禍でも頑張って営業しているコンビニなどには、素敵なスイーツなどが貴方に衝動買いされる機会を待ちわびています。

「巣ごもり需要」でアイスクリームやケーキの売れ行きは伸びています。

ネットショッピングでは、高級なお菓子の販売も好調だそうです。

つまり、性的な快楽であれ、美味しい食べ物やお酒であれ、さらにはもっと危険な薬物であれ、ギャンブルであれ、ゲームであれ、人は快楽にハマる危険があるわけです。

要するに、人間はあらゆるものに「依存」する可能性を抱えた動物なのです。

ですから、「いかに依存症から抜け出すか」あるいは「いかにして依存症にならないようにするか」という問題提起は大切で、中には、具体的な改善法を提案している建設的な動画なども少なくありません。

実際、世の中には、人々を快楽漬けの依存状態に落とし入れて、これを思うがままに支配しようとする「悪の組織」?も少なからずあって、油断はできません。

自由に生きるためには、確かに、こうした快楽による「操作」を上手くすり抜ける必要があります。

ただ、こうした忠告を表面的に捉え、「快楽は悪だ」とか「美味しいものとか気持ちの良いものは身体に悪いんだよねえ」などと誤った「一般化」を教訓にして、できもしない「快楽断ち」の流行に乗ってしまうのもまた愚かなことなのです。


快楽は、使い方を間違えば身を滅ぼす「劇薬」 だが…

快楽がなぜ存在するのか、と言えば、それが人間にとって必要なものだからです。

快楽には人を進化させ、人の潜在的な可能性を引き出す力があります。

ただし、快楽は「劇薬」のようなもので、使い方を間違えれば、その人を滅ぼしてしまいます。

依存症などを見て、その恐ろしさを知った人たちが「快楽は悪」と考えるのはこのためです。

「何とかとハサミは使いよう」と申しますが、「劇薬」のたとえが過激過ぎるとすれば、快楽を人生にとっての調味料のようなものと考えてみると分かりやすいかもしれません。

たとえば、和食の味付けに欠かせない醤油も、これをゴクゴクと大量に飲んでしまえば病気になります。

醤油を1リットル飲めば、人は高ナトリウム血症を起こし、嘔吐や下痢、めまい、頭痛、痙攣、などの症状が出て脳が腫れ、昏睡状態に陥り、呼吸が停止、死に至ることもあるのです。

これは、醤油が悪いのではなく、醤油の「使い方」が悪かったのです。

しかし一方で、お醤油の無い日本料理の世界なんて、考えてみただけでぞっとしますね。

そんな、不味(まず)い食事ばかり食べていると、人は凶暴になります。

イギリス人がアグレッシブに海賊稼業で世界の海に乗り出し、世界中を植民地化して支配したのも、自国の料理が不味かったからだ、という冗談があるくらいです(これ、英国ではうけませんが)。

同じように、無意味な「禁欲」は、人を欲求不満(フラストレーション)状態に追い込み、攻撃性を高め、不適応な行動に駆り立てることにもなりかねません。

無理な禁欲生活を実践している人が、気難しく不機嫌なのは、それが心身の健康に良くないからです。

これとは逆に、人は何かの折に、素晴らしく気持ちの良い幸せな心理状態を体験することがあります。それはたとえようもない快楽に満たされたひと時です。

その時の快楽は、性的なオルガズムに似ていますが、一時的なピークを迎えて終わる激しい快感とは異なり、もっと穏やかな恍惚としたエクスタシーの状態がしばらく持続します。

心理学ではこれを「至高体験(peak experience)」と呼んでいますが、マズロー(Abraham Maslow 1908~1970)によれば、社会的成功者や自己実現に成功している人たちほど、この種の快楽を多く体験しています。

つまり、人生の達人たちは、これまで上手に多くの快楽を体験してきた結果、こうした精神的な快楽を得る「能力」を身に付けたと考えることができるのです。

要は、快楽そのものが悪いのではなく、「快楽の使われ方」「快楽の得方」が悪いのです。(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』より一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

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