バイデンが見誤れば核戦争に。中国が海空戦力を増強させ続ける訳

 

アーミテージの意外にまともな情勢認識

そうした微妙な状況で、バイデンは4月にリチャード・アーミテージ、ジェームズ・スタインバーグ両元国務副長官らの非公式代表団を台北に送り込んだ。私はこのような行動には反対で、何もこの時期に北京の顔を逆撫でするようなことをしなくてもいいじゃないかと思っていたけれども、そのアーミテージが5月3日付「読売新聞」のインタビューに下記のように答えているのを見て少し安心した。

アーミテージは、ワシントンのジョージタウン大学戦略国際研究センタ(CSIS)を拠点とする対日安保政策マフィアのボスで、米国が今後も盟主を努めて日本を目下の同盟者として使いこなしていくという旧時代の日米同盟イデオロギーの体現者であって、私は全く信用していないが、台湾に関しては極めて淡々とした、ワシントンの外交政策プロらしい冷静な判断を示していた。

▼蔡英文総統は独立宣言するつもりはなく、する必要はないと思っている。「事実上の独立」を実現し、多くの台湾市民は台湾に独自の地位があると分かっている。

▼中国の最近の動きは新しいものではない。……嫌がらせは続けるだろうが、軍事行動には出ないと思う。

▼現時点では、バイデン政権が「戦略的曖昧さ」を変更すると思っていない。……中国が注意深く行動しなければ、「戦略的曖昧さ」は終わりを迎えるだろう。

▼(米軍幹部が3月に議会で「中国の台湾侵攻は6年以内に起きる」と述べたことについて)「6年」などの数字は、何かに基づいたものではなく、予測だ。中国が何らかの行動を起こす能力を高めていると言ったのであって、時期に大きな意味はないだろう。

▼日本は……中国をわざと挑発する必要はないが、台湾の国際的な地位の確保に手を差しのべることも必要だ。日本外務省の高官が台湾側と会談することなどが考えられる……。

アーミテージが言うように、台湾は、民進党政権と言えども「独立を宣言するつもりはなく、する必要はないと思っている」。なぜなら、圧倒的多数の台湾人は、現在すでに台湾は事実上の独立状態にあり、わざわざ名目的な「独立」を宣言して北京が武力を発動せざるを得なくなるよう仕向けることには百害あって一利もない。

もちろん、北京による妨害によってほとんどの国と外交関係を結べず(現在15カ国のみ)WHOなど国際機関に加入できないのは不便だが、経済交流は中国との間をはじめ旺盛に行われている。何より興味深いことに、台湾の輸出相手先の1位は中国=27.9%で、香港=12.2%と合わせれば40.1%となり、第2位の米国=14.0%を大きく引き離している(2019年)。台湾の直接投資の相手先のダントツ・トップも中国で、2010年には総額の何と83.8%を占めていたが、その後は減少、特にここ数年はトランプ政権の対中姿勢の影響でさらに低減したものの、それでも全投資額の37.9%が中国である(2019年)。それに伴って80万人もの台湾人ビジネスマンとその家族が中国に定住し、その子弟が通う繁体字教育の学校も各地に設けられている。

中国にとっても台湾は輸入相手先として韓国、日本に次ぐ第3位で、その約半分は電子部品や情報通信機器である。こうした関係をブチ壊さなければならない理由は、中台双方に存在しない。だから戦争は起こらないと見て差し支えない。

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