総数や輸送力の問題が生じるほど進んでいる新型コロナワクチン接種。ワクチンの輸送に欠かせない運搬用冷凍庫を1万台受注し、通常の10倍のペースで生産し納期を守った新潟県燕市の「ツインバード工業」が注目されています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、朝日新聞が過去に紹介したツインバード製品を確認。ニッチな要求に応えてきた経験が大手にはできない製品を生み出す原動力と分析しています。
ワクチン運搬用の冷凍庫で浮上した企業「ツインバード工業」の底力
きょうは《朝日》から。ツインバードという会社に注目が集まりそうな勢いです。当メルマガとしては1企業を宣伝する意図は全くありませんが、記事にはこの会社がワクチン運搬用の冷凍庫を開発した経緯などが書かれていて、製品開発と公衆衛生との関わりから何か見えてくるものがあるような気がしました。
ということで、異例ですが、きょうは「ツインバード」で検索を掛けました。《朝日》のサイト内に21件、1年以内の紙面掲載記事では12件にヒットしました。サイト内の方を見ていきたいと思います。
今回は個々の記事の紹介というよりは、ツインバードという会社が開発した商品を、まずは並べて見ることになるかもしれません。最初に《朝日》6面経済面記事の見出しから。
ワクチン用冷凍庫
「お荷物事業」会社も国も助けた
以下、記事の概要。新潟県燕市に本社を置く家電メーカー「ツインバード工業」の野水社長は、「コロナワクチンを運ぶ冷凍庫を5千台製造できませんか」と厚労省の担当者に言われ、反対する役員の意見があったにも関わらず、引き受ける。
厚労省から声が掛かったのは、ツインバードがヘリウムガスを膨張・圧縮して冷却する技術を持っていたからだったようだ。その技術は20年前、シャープで液晶開発を手掛けた故佐々木正氏の助言と指導があってのこと。2002年には量産に漕ぎ着け、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に置く冷凍庫2台受注などもあり、2014年に黒字化したものの低空飛行が続き、まさに「お荷物事業」だった。
今回のワクチン運搬用の冷凍庫は、持ち運びできる点が重要で、厚労省5千台、武田薬品工業5千台を受注。協力企業の応援も得て通常の10倍の生産ペースで納期を守ったという。
【サーチ&リサーチ】
*ツインバードは実に多種多様な製品を作っている会社のようだ。ホームページを見ると「調理機器」から「照明機器」「生活家電」「AV機器」まで、6分野にわたる商品群が紹介されている。
*記事で紹介された商品は、以下の12点ほど。
- コンパクトなベッドライト
- コンパクトなスリム型掃除機
- スマホ充電用に使えるライト
- ヘッドスパ業界権威の指の動きを再現したヘアケア家電
- 低糖質パンが焼けるホームベーカリー
- フローズンスイーツメーカー
- ポータブル電子保冷保温ボックス
- スチーマー(枝豆と一緒に売る)
- 微風が可能な扇風機
- 全自動コーヒーメーカー
- 眼鏡の超音波洗浄器(家庭用)
- センサー付きフラット電子レンジ
●uttiiの眼
この会社、普通の白物家電、洗濯機や冷凍冷蔵庫(据え置き型)も作っているが、やはり目立っているのは「スキマ需要」「ニッチ需要」に応えようという商品。しかし、ニッチな要求に応えるのには突破しなければならない技術的課題がそれぞれにあり、その延長線上に巨大な公的需要さえ控えていたというのが、今回のワクチン運搬冷凍庫を巡る出来事。
コロナ禍で「うちご飯」への流れが強まったこの1年半の傾向は、強まりこそすれ、弱まることはないだろう。すると、パンを家で焼いたり、豆から挽いた珈琲を飲むようになったりするなど、ポータブル冷凍庫以外のニッチ家電の需要も次第に高まっていくことが考えられる。
【あとがき】
以上、いかがでしたでしょうか。ワクチンを運ぶ冷凍庫を作ったのが、パナソニックでも東芝でもなく、シャープでもなかったというのは、よく考えなければならないことだと思います。
量販店などに行くと、あまり名の知られていないメーカーの商品がかなりたくさん並んでいて、以前とは様変わりしたなと思ってはいましたが、どこか「技術的に大丈夫だろうか?」と少し不安になることも多かったのです。でも、製品の完成度を高める技術を含めた総合的な技術力という点で、意外に大メーカーと比べて遜色ないものを出しているのかもしれません。
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