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ほとんどの経営者がたどり着けぬ、松下幸之助「人使い」の真意

経営を学ぶ上で必ず一度は聞くと言われるドラッカーの言葉のなかに、『「われわれの事業は何か」と問うことこそ、トップマネジメントの責任である』というものがあります。メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』の著者、浅井良一さんは、日本屈指のカリスマ経営者だった松下幸之助氏の言動から、このドラッカーの問いかけの答えにたどり着く道筋を探っています。

われわれの事業は何か 顧客からスタート

ドラッカーは、こんなことを言っています。「自らの事業は何かを知ることほど、簡単でわかりきったことはないかと思われるかもしれない。しかし実際には『われわれの事業は何か』との問いは、ほとんどの場合、難しい問題である。わかりきった答えが正しいことはほとんどない」と、ふしぎな物言いで。

そして「『われわれの事業は何か』を問うことこそ、トップマネジメントの責任である」と言うのです。

続けて「企業の目的として事業が十分に検討されていないことが、企業の挫折や失敗の最大の原因である。逆に、成功を収めている企業の成功は『われわれの事業は何か』を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによってもたらされている」と言っています。さてですが、ここで言っている意味を理解していただけるでしょうか。

松下幸之助さんに、そこのところの答えを求めたいのでさぐります。松下幸之助さんは「松下電器は何をつくるところかと尋ねられたら、松下電器は人をつくるところです。あわせて電気器具もつくっております。こうお答えしなさい」と創業間もないころ、ことあるごとに従業員にそう訓示されていたということです。

ここで、ドラッカーの言うことに戻ります。「企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。“顧客”である。顧客によって事業は定義される。顧客が財やサービスを購入することにより満足させようとする欲求によって定義される。『顧客を満足させること』こそ、企業の“使命であり目的”である」と。

したがって「『われわれの事業は何か』との問いは、企業の外部すなわち顧客と市場の観点から見て、はじめて答えることができる。」となり、「顧客の関心は、彼らにとっての価値、欲求、現実である。この事実からして『われわれの事業は何か』との問いに答えるには、顧客からスタートしなければならない」としているのです。

では先の松下さんの「人をつくる』」はどうなるのか。「“事業は人なり”という。人間として成長しない人をもつ事業は成功するものではない。事業にはまず人材の育成が肝要だ」とあります。「社会に貢献するという“会社の使命”を自覚し、自主性と責任感旺盛な人材を育成すること」からスタートしなければならないとするのです。

ここでの核心は「顧客の価値、欲求、現実からからスタートする“会社の使命”を自覚して、自主性と責任感旺盛に活動する人材をつくる」ということに導かれて行くことになるでしょう。“成功する”には『顧客を満足させる』が唯一の目標で、経営者が行わなければならないのは「人をつくる」ということになるでしょう。

それでこそ、自身の企業の事業は何かと問われて「松下電器は『人をつくる』ところです。あわせて電気器具もつくっております」となり、このことは、トヨタにおいても同じであり、押しなべて優良企業の成功をもたらせしめている基本的な認識要件であるようです。「人材つくり」を“事業”としないでは「よい製品はつくれない」。

トヨタの中興の祖の石田退三さんの言っていることを再確認します。「事業は人にある。いかなる事業でも、それをいっそう大きく伸ばして築き上げて行くためには、なによりも先、いわゆる『人づくり』が基本となって行かねばならぬものだ」と述べ、さらに、人づくりのやりかたおよびねらいについては、「トヨタでは“シシの子教育”という手を使って社員をきたえている。現場にせよ、事務仕事にせよ、若くて有望なのがいたら、本人がネをあげるほどつぎからつぎへと問題を与える。どこまでやれるか可能性をはかってみる。ちょうどシシがわが子を谷底に落とすのと同じで、そこからはいあがる根性を養うのがねらいである。しぜん、自分なりの信念をもつ社員が多くなる」と続けています。

このように“成果を実現し存続・成長する”ために求められる問い、つまり「われわれの事業は何か」ということに共通する定義は、あるべき「よりよく顧客に貢献できる“われわれ使命”」を見つけ、そしてその指針のもとに考え、実行、実現させる「人づくり」を行うということに尽きるのではないかと思うのです。

ここまで話をすすめてきて、一応「われわれの事業は何か」についての回答と、その構造基盤が理解できそうだと思うのですが。それでは、具体的に示せとなるのでしょうが、何しろドラッカーが「企業の成功は、その問いに対する答えを考え、明確にすることによってもたらされている」と言っているのですから。

それでは、経営者の責任である「『われわれの事業は何か』という問いに対する答えを考え、明確にする」についてですが、後戻り感があるのですが「顧客や時代の欲求からスタートする」以外にヒントはなくて、それは経営者自身の「独創、独裁」に委ねられます。経営者がこの責任に答えられたら、企業の成功が見えてくるのです。

その「独創、独裁」が“原理・原則”に沿うときに、大方において企業の成功が適えられるということになりそうです。

松下幸之助さんは「われわれの事業は何か」について、突き詰めてズバリ「人をつくる」ということを唱えていますが、付言として「この人をつくる」は、ほとんどの経営者においてその真意は理解されることが少なく、それゆえに“顧客満足”は満たされることなく“競争”から脱落して“限界的存在”となり消え去ります。

松下幸之助さんの人のつくり方 

では、どのように「人をつくる」のかを詳しく知る寄る辺として、達人であり、グルである松下幸之助さんの言を続けて拝聴します。

「好ましい人材の育成をはかろうと思えば、経営者自身にしっかりした社会観、事業観、人生観といったものがなくてはならないと思います。そういうものがあれば、それにもとづいた使命感が生れてくるでしょう。そうなれば、従業員に対しても『この会社はこういう使命感を持っている。この使命を達成していくところに、会社の意義もあるのだ。だから皆さんは、この使命を十分理解して、その達成のために大いに努力してもらいたい』ということがいえると思うのです。そういうことを聞けば、“なるほど、この会社はこういう使命をもっているのだな。自分が働くのは、その使命達成のためであって、自分のためだけでないのだ。これは大いにがんばろう”といったものが生まれてきやすいと思います。そうなれば、おのずと人は育ってくるのではないでしょうか」

では、松下さんは、どんなことを“使命”としたのでしょうか。

「産業人の使命は貧乏の克服である。そのためには、物資の生産に次ぐ生産をもって、富を増大しなければならない。水道の水は価(あたい)あるものであるが、通行人がこれを飲んでもとがめられない。それは量が多く、価格があまりにも安いからである。産業人の使命も、水道の水のごとく、物資を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価格で提供することにある。それによって、人生に幸福をもたらし、この世に楽土を建設することができるのである。松下電器の“真使命”もまたその点にある」

続いて「人使い」については、「自分では決してそんなつもりはないのですが」とことわりながら「なぜだろうと考えてみますと、一つ思い当たることがるとして」こんな感慨を述べられています。

「それは、私には部下が、みんな自分より偉く見えるということです」

「ずっと社長なり会長という職にありましたから、いろいろ注意したり、ときには『君あかんやないか』とボロクソにしかりつけたことも少なくありません。けれどそれは職責においてやっていることで、しかりとばしながらも、内心では“この人は自分より偉いな”と思っているわけです。そんな気持ちで接してきたから、人使いが上手いなどと言われるようになったのでないかと思うです」

「『自分の部下はいい人ばかりで、本当に喜んでいるのだ』というような方のところは、みな成績もあがり、商売もうまく行っています」

さらに「商売や経営をしていくにあったでは“一つの信念や確信”をもっていくことが必要ではないでしょうか」として、「必要なのは、謙虚の上で生まれてくる確信なのです。謙虚さを失った確信は慢心になってしまいます。現に、失敗した人々を見ると、往々にして謙虚さに欠き、自分の意見に固執するという傾向がみられるようです。それに対して、謙虚な心持ちの上に、だんだんと確信がでてくれば、それは立派な確信となって、だいたいは成功に導けるといっていいでしょう。」と言われています。

加えて「謙虚な気持ちでいれば、他人の偉さが分かります。そうすると、自分の部下はたいてい自分より偉いなという気持ちになります。部下がアカンなと思っているあいだは、謙虚であるとはいえません。もちろん、全部が全部といういうのではなく、自分より劣っている人もありましょう。が、謙虚であれば、そういう部下でもその長所が分かってくると思うのです。したがって、適当な提案に対しては、ただちに賛成できるから、意思決定も早く、仕事が水の流れるようにスムーズにやっていけることになりましょう」「謙虚さの上に確信というものを、お互いに養い高めていきたいと思うのです」と“経営の神様”が言っておられたのです。

ここまで拝聴して、ここで感じるのは「なんと難しいのか」で。けれど、あらためて思うのは、マネジメントは「あるべき原理・原則」により成り立つものであり、自分の都合とは関わりないのであり、“成果”は、そのことを知って「われわれの事業は何か」に対して答えを考え、明確にすることによって得られるものであります。

image by: Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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