「シェール革命」で中東の重要度が低下
09年、オバマさんが大統領になりました。すると、アメリカで「思いもよらない事態」が起こります。そう、「シェール革命」です。この革命で、「2016年にアメリカ国内の油田は枯渇する」という前提が崩れました。そして、「アメリカの油田、ガス田が枯渇する心配はない」と状況が変化した。
それで何が起こったのか?そう、「資源がたっぷりある」中東の重要度が劇的に下がったのです。アメリカにとって中東は、「もはや重要ではない地域」になった。それで、オバマさんは2011年から「アジア・ピボット」といいはじめました。そして同じ2011年、オバマは「イラク戦争終結宣言」をし、同年12月、イラクから米軍を撤退させました。つまり10年前の段階で、「アメリカが中東から撤退する」方向性は出されていたのです。
その後のアメリカと中東
ところが、「中東からの撤退」は簡単には行きませんでした。まず、シリアで2011年から内戦がはじまります。アメリカは、反アサド派を支援。ロシアとイランは、アサド現大統領を支援し、米ロの代理戦争がはじまりました。
さらに、2014年には「イスラム国」(IS)が、シリアとイラクで台頭。アメリカと有志連合軍は2014年9月から、「IS空爆」を開始しました。撤退していた米軍は、再びイラクに戻ってきます。
2015年7月、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、イランは、いわゆる「イラン核合意」を成立させます。参加国は多いですが、オバマ政権が主導しました。このことは、イランの宿敵で、かつアメリカの同盟国であるサウジアラビアとイスラエルを激怒させました。しかし、アメリカにとって中東の重要度が下がっているので、オバマは、サウジやイスラエルとの関係悪化を気にしなかったのです。
2017年、トランプの時代が来ると、多少変化はありました。トランプさんは、ネタニヤフ首相の親友。そして、娘婿のクシュナーさんはユダヤ人。娘のイバンカさんは、ユダヤ教に改宗してユダヤ人になっている。孫娘もユダヤ人。それで、トランプさんは、「イラン核合意」から離脱。さらに、エルサレムを「イスラエルの首都」と認定し、イスラエル重視の姿勢を見せました。
しかし、「中東の重要度が下がっている」現実は変えられません。トランプは2019年、シリアから米軍を撤退させることを宣言。そして、今年になってバイデンさんが、アフガン、イラクからの撤退を決めたのです。
決定的に重要な「中国ファクター」
ちなみにアメリカが中東から引き上げる理由は、「シェール革命で、アメリカが世界一の産油国、産ガス国になったこと」だけではありません。もう1つ重要なのは、「中国ファクター」です。
2015年3月、いわゆる「AIIB事件」が起こりました。アメリカは、同盟国群に、「中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)に入るなよ!」と要求していました。
ところが、アメリカと「特別な関係」のはずのイギリスがまず裏切り、「AIIB」参加を決めた。「イギリスが裏切るのなら俺たちも!」と、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国など、いわゆる「親米諸国」が(日本以外)こぞって「AIIB」に参加したのです。
「親米諸国ですらアメリカではなく、中国のいうことを聞く…」
このことは、アメリカの支配者層に巨大な衝撃を与えました。2014年3月の「クリミア併合」後、アメリカは、「ロシアこそ最大の敵!」と思って戦ってきた。しかし、2015年3月の「AIIB事件」で支配者層の視点が変わります。つまり、「アメリカ最大の敵は、ロシアではなく中国だ!」と。
この後、アメリカは、ロシアと「プチ和解」。米ロ共同で、「ウクライナ内戦」「シリア内戦」を沈静化させました。さらに、米ロ共同で、「イラン核合意」を進めていきます。
一方でオバマは、中国に対する態度を激変させ、「南シナ海埋め立て問題」などで、中国を非難するようになっていきました。そう、2015年3月から、「米中覇権戦争の前哨戦」はスタートしたのです。
バイデンが大統領になった時、私は、「彼は親中だが、米中覇権戦争はつづく」と断言しました。バイデンは、オバマ時代に副大統領だった。そして、2015年から、彼は副大統領としてオバマと共に、中国と戦っていたからです。そして、予想どおりの展開になっています。
「中国ファクター」と「アメリカ軍の中東撤退」はどういう関係があるのでしょうか?
戦争に勝つためには、戦力の分散を防ぐ必要があります。第2次大戦中、ソ連は何を恐れていたか?そう、西からナチスドイツが、東から日本が同時に攻めてくる事態です。だから、スターリンは、「日ソ中立条約」を結んだのです。1941年4月に「日ソ中立条約」は締結され。その2ヶ月後の1941年6月に「独ソ戦」は始まっています。極悪人スターリンの判断は、見事でした。
アメリカが、「中国と戦いながら中東でも戦う」のは賢明ではありません。だから、アフガニスタン、イラク、シリアを見捨てるのです。









