元朝日新聞校閲センター長が教える、文章の書き出しが上手くなるコツ

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文章を書くにあたり何より難しく多くの人の頭を悩ませるのが、その書き出し。読みづらさを感じさせず、読む側の興味を喚起させるような書き出しを身につけるためには、どんな文章をお手本にし、どこに注意を払えばいいのでしょうか。今回のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』では著者で朝日新聞の元校閲センター長という経歴を持つ前田さんが、自身が舌を巻いたという2冊の「名作」を紹介しつつ、良い文章の書き出しとその習得法を考察しています。

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文章の書き出しはどうする?

文章の書き出しは難しい。いろいろと書こうと思っていることが邪魔をして、一歩を進めないという感じになってしまうことが、多いですね。

僕はそういう時に、参考にしている文章がいくつかあります。今回は、その文章の紹介をもとに書き出しについて、考えていきたいと思います。

春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこし明かりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。

『枕草子』(清少納言)の書き出しです。

高校時代、ひねくれてひん曲がった日々を送っていた僕は、哲学ということばに引き寄せられて、小難しい本を読んでいたのです。文字を追うばかりでまったく内容も頭に入らないし、理解もできない。ただ、それ風のものを読んでいる自分に満足していただけでした。

ところが、古典の教科書に載っていたこの短い文章を読んで、なんてかっこいいんだろうと、思ったのです。こんなに簡単なことばなのに、スーッと情景が思い浮かぶ。

『枕草子』の書き方を変えてみると…

最初の一文は「春はあけぼの、いとをかし」と続くところかもしれません。しかし、そこを「春はあけぼの」だけで止める。次に夜明けの様子をたたみかけていきます。次第にあたりが白くなって、山と空の境が少し明るくなる、紫がかった雲が細くたなびいている、と。

修飾を極力減らして、言い切る。そんな書き方ができるんだ、と僕は思ったのです。古語辞典を引き引き読んでいた古典が、非常に身近に感じたのです。しかも、ここに書かれた一連の主題ををポンと最初に置いたところが、潔いと感じたのです。

たとえば、これが

やうやう白くなりゆく、山ぎはすこし明かりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたるゆゑに、春はあけぼの。

のように「春はあけぼの」を最後に持ってきたら、さほど印象に残らなかったかもしれません(この古文が正しいかどうかは疑問なのですが…)。

重厚ならいいというものではない

当時の僕は、重厚でデコラティブな方が、説得力のある文章だという思いがあったのです。当時の西洋文学の翻訳も、すっと頭に入ってきませんでした。そういうものの方が、ありがたい文章だという刷り込みがあったのかもしれません。

夏目漱石や森鴎外の作品も、旧字体・旧仮名遣いで書かれていたものがまだまだ多く、活字も小さい。次第に現代仮名遣いのものが増えてきましたが、本を読むこと自体がものすごくエネルギーのいる作業だったように思います。

語彙もないのに、やたらと小難しいことばを使おうとしてつまずいていた自分の愚かさを思い知らされたのが『枕草子』だったのです。「身の丈で書けばいい」。それができてから、次のステップを踏むべきなのです。無理をして背伸びをしても、すぐに馬脚を現します。語彙が少ないなら、それをどう組み合わせてどう表現するかを工夫すればいい。四字熟語や難しい熟語を使っても、それに染みついた感覚が、却って文章の流れに不自然な渦をつくってしまいます。柔らかい木の造作にそこだけ金属を埋め込んだような違和感が出る場合もあります。計算されたものならば、そうした表現も斬新なものとなるかもしれません。しかし普通は、そこまで文章を突き詰めて考えることはしないので、どこか付け焼き刃のような不自然さが出てしまうのです。

いま、僕は一つの要素で一文を書いて、それを文脈を追って積み重ね、ミルフィーユのように文章を書いていこう、と心がけています。さらに、文においても文章においても、言いたいことはできるだけ前に出そうとも思っています。そうした考えの原点になったお手本の一つです。

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