電通総研が今年8月から9月にかけて行った調査によると、50%を超える男性が「女性よりも生きづらい」との思いを抱いていることが判明、殊に若い世代ほど息苦しさを感じているという結果が各メディアで大きく報じられました。何が彼らをここまで追い詰めているのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、その背景を専門家の目線で分析し解説。浮かび上がってきたのは若者たちを拘束する「世間のまなざし」でした。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
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男も女も生きづらい国、ニッポン!
男性の方が生きづらい―――。
ジェンダー平等の遅れが指摘される日本で、こんな思いを抱えている男性が多いことが電通総研の調査で明らかになりました。
対象は18~70歳の男性3,000人で、「最近は男性のほうが女性よりも生きづらくなってきていると思う」と、18~30歳で50.9%、31~50歳で51.3%、51~70歳で51.9%と、すべての年代でほぼ半数が「イエス(そう思う・とてもそう思う)」と回答。「とてもそう思う」とする割合は、若い世代ほど多くなっていました。
また、「フェミニストが嫌い」かどうかを尋ねる質問に、「とてもそう思う」または「そう思う」と答えた人の割合は、18~30歳が42.8%ともっとも高く、31~50歳は39.1%、51~70歳は31.7%と、年齢が上がるほど低くなった。
女性差別と男性差別はコインの面と裏。日本は女性差別国であるとともに、「男性差別国」であることが示唆されたのです。
そもそもこの調査は、ジェンダー平等の実現に向けて男性を対象に世界各地で活動を行うNGOのプロムンドの「The Man Box(マン・ボックス)」調査の日本語版です。「マン・ボックス」とは、「男性はタフであるべきだ」「男性は一家の大黒柱であるべきだ」といった、社会で広く受け入れられている、性役割を意味しています。
件の調査で若い世代ほど生きづらさを感じているのは、「男社会」で長年生きてきた中高年が、「男だからこその恩恵」を受けることができた一方で、若者にはそれがない。ジェンダー平等が叫ばれる時代に生きる若い世代は、家では家事や育児も「やらなくてはいけない仕事」と受け入れはするものの、外に出れば「男らしさ」を求められ息苦しさを感じているのです。
「男は稼いで当たり前」「男は出世して当たり前」という世間のまなざしに多くの若者が拘束されているのです。「女らしさ」を求めるのはセクハラなのに、「男らしさ」を強要されるのはセクハラとは思われない。その理不尽への「もう勘弁してほしい」という心の叫び声が、件の調査結果に「数字」として反映されたのでしょう。
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しかしながら、男性の生きづらさは次の「数字」から分かる通り、かなり深刻です。
なぜ、非正規雇用で働く男性の未婚率が高いのか?なぜ、いまだに「女性が求める男性に望む年収」なるものが、メディアに取り上げられるのか?
こういった現実を考えれば、今回の調査結果の問題の深刻さがわかるはずです。
2015年に実施された大規模な社会調査SSP(階層と社会意識全国調査)で、最も幸福度(ポジティブ感情)が高いのは大卒の若い女性で、同じ大卒でも若い男性はあまり高くなく、もっとも幸福度が低いのは非大卒の中高年男性だったことが分かりました(吉川徹著『日本の分断』より)。
具体的には、幸福感は「階層帰属意識、生活満足度、幸福感、主観的自由」の4つの指標で構成し、得点化していています。
- 若年大卒女性 52.1
- 壮年大卒男性 51.8
- 壮年大卒女性 51.72
- 若年大卒男性 50.8
- 若年非大卒女性 49.9
- 若年非大卒男性 48.8
- 壮年非大卒女性 48.9
- 壮年非大卒男性 47.9
ご覧のとおり、大卒と非大卒で分断されていて、若年大卒女性の幸福度が最も高く、一方で、若年の非大卒男性は、壮年期の非大卒と同程度に幸福度が低くなっていたのです。
さて、これらの結果をどう読み解くか?みなさまのご意見、お聞かせください。
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