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邦人退避2万人、沖縄は戦場に。台湾有事で懸念される最悪シナリオ

先日掲載の「北京五輪の終了後が危ない。中国の台湾侵攻に備える米国、無防備な日本」等の記事でもお伝えしているとおり、北京冬季オリンピック閉幕後の「台湾有事」の可能性を指摘するアメリカ。その台湾には2万人とも言われる日本人が在留していますが、彼らの退避については現時点でどのような対策が講じられているのでしょうか。今回、外務省や国連機関とも繋がりを持ち国際政治を熟知するアッズーリ氏は、事が起こった際の邦人退避シナリオを検証。その上で平時から構築しておくべき対策を考察しています。

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緊迫化する台湾情勢 邦人は安全に退避できるのか

今年、米国ではバイデン政権が誕生した。バイデン政権で対中姿勢が和らぐのではとの見方もあったが、蓋を開ければ基本的にはトランプ政権を継承したものと言えよう。バイデン大統領は欧州やオーストラリアとの結束を強化し、集団安全保障的に中国に対応する構図を実現した。特に、英国の動きは顕著で、9月に誕生した米英豪による安全保障協力「オーカス(AUKUS)」のように、英中関係も激しく悪化している。米英豪などは北京五輪の外交的ボイコットを実施する見込みで、中国を取り巻く情勢は来年さらに厳しくなるだろう。

そのような中、来年も見据え、我々日本人が真剣に考えるべきことに台湾有事がある。台湾情勢を巡っては、今年、米国や欧州の議員団などが相次いで台湾を訪問しては蔡英文政権と結束を強化するなど、中国はますます懸念を強めている。中国軍機による台湾の防空識別圏への進入が11月に159機に上り、9月から3か月連続で100機を超え、おそらく来年はもっと緊張が走る可能性が高い。

今年、トランプ政権で国家安全保障担当補佐官を務めたマクマスター氏は、北京五輪後に台湾情勢がエスカレートする恐れがあるとし、インド太平洋軍で司令官を務めたデービットソン氏も、今後6年以内に中国が台湾に侵攻する恐れがあると指摘するなど、国防幹部たちから驚かせる発言が相次いだ。台湾国防部も中国の軍拡について懸念を繰り返し発表しているが、習政権は台湾を核心的利益と位置づけており、日に日に台湾への言及は厳しさを増している。中国にとって、台湾併合は法的に問題がない。中国政府は2005年3月、「平和的統一の可能性が完全に失われた場合、非平和的措置および他の必要な措置をとる」と明記する反国家分裂法を採択している。中国がいつ反国家分裂法に基づいて行動を起こしてくるかも考えておく必要がある。

では、台湾有事なった場合、邦人はどのように退避することが考えられるのか。まず、台湾有事といっても、中国が台湾へ上陸し、島を占拠するというシナリオは最終局面となろう。最初に中国が行うのは電磁波攻撃やサイバー攻撃などで、社会インフラを不安定化させることで台湾から譲歩を引きだろうとする。また、台北など人々の居住地区への攻撃は国際的非難を浴びることから避け、最初の軍事攻撃は台湾国防部や政府庁舎、または空港や湾岸など米軍の支援を無能化する戦略を取ることが予想される。

しかし、いずれのシナリオになるにせよ、有事となった場合の邦人退避は困難を極めることになる。当然ながら、台湾から日本への退避で陸路はあり得ず、必然的に海路か空路になる。そして、上述したように、中国は台湾の空港や湾岸施設を攻撃してくる可能性が高く、実際問題、邦人退避先は台湾から海路で110キロしか離れていない沖縄県・与那国島になる。西表島や石垣島など比較的に大きな島も考えられる。

米軍の動き次第では沖縄本島が戦場に

しかし、有事の際に日本へ退避を試みるのは日本人だけでなく、台湾に住む外国人や台湾人も相当数が流れてくる可能性が高い。台湾からの退避を地理的に考えれば、南部の高雄からフィリピン・ルソン島などを目指す人々もいるかも知れないが、距離的も最も近く、友好関係やインフラ整備を考慮すると多くの人が日本を目指すことになろう。

よって、退避してくる規模は数百や数千という数字ではなく、数十万、数百万という数字を想定する方が現実的だ。だが、天気が良ければ台湾が見える与那国島の人口は2,000人にも満たず、島の面積を考えても受け入れ的に限界がある。ホテルや宿など観光施設を代用するといってもそれはすぐに埋まり、与那国島に避難できない人々は以東の西表島や石垣島などを目指すことになろうが、八重山諸島の限界も考える必要があろう。

一方、米軍が台湾有事に関与するとなれば、それによって沖縄本島が戦場になる恐れがある。嘉手納や普天間に駐留する米軍が台湾有事の際の最前線となれば、中国軍が在沖米軍を狙い、台湾有事は自然に日本有事となる。そうなれば、与那国島周辺で中国海軍、海警局の活動がいっそう活発化し、海上封鎖など八重山諸島への安全な退避ができなくなるだろう。

以上のように考えれば、台湾有事の際の邦人退避は困難を極める。重要なのは、官民を問わず情報を着実に収集・分析し、平時の時から退避できる体制を構築、強化することだ。しかし、2万人の日本人を平時の時に全員退避されるという目標は非現実的で、有事の際にその人数を最小化しておくという政策を強化することが重要となる。

台湾情勢で最も懸念されるシナリオは、中国軍と台湾軍の戦闘機が衝突するなど偶発的事態が生じ、それによって軍事的緊張が一気に高まり、衝突や攻撃の連鎖が生じることだ。短期間のうちにリスクが肥大化するという潜在的脅威がある以上、来年以降、台湾問題においては邦人退避という問題がいっそう議論されるべきだろう。

image by: 防衛省 海上自衛隊 - Home | Facebook

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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