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なぜコストコで買いたくなるのか?消費者の人間心理を巧みに操る“マジック”の秘密とは

今や大量買いの代名詞ともなった大型スーパー「コストコ」。日本にはまだ30店舗ほどしかないため、行ったことがないという人は多いかもしれません。しかし、一度足を踏み入れてしまえばまさにそこは買い物のワンダーランド。誰もがコストコの魅力にハマってしまうことでしょう。なぜコストコは多くの人をひきつけるのでしょうか。マーケティング&ブランディングコンサルタントとして活躍する橋本之克さんが“コストコマジック”について解説していきます。

買い物のワンダーランド「コストコ」

コストコの発祥は1976年、カリフォルニア州サンディエゴにある飛行機の格納庫を店舗に改造した倉庫店だそうです。日本上陸は1999年。2022年1月時点で30店舗です。巨大な倉庫のような店の構造、販売される商品の数やボリューム、価格の安さなどが特徴です。

SNS等で来店客の声を見ていくと、行くこと自体がイベントで楽しいという声も多く見られます。国内随一の個性をもつ、特別な商業施設と言えるでしょう。

こうした店の特徴付けだけでなく、顧客の購買意欲を高める点でも、コストコはさまざまな工夫をしていると考えられます。行動経済学の視点で店舗内を見ていくと、そこには人が行ってしまう不合理な選択や行動を、巧みに購買に向けて誘う仕組みが透けて見えます。それは、あたかも心を操るマジックのようです。

「コストコ」が繰り出す3つのマジック

特に目立つ、3つのマジックについて述べていきます。

会員制に秘められら心理的効果とは?

コストコ・マジックの一つ目は「会員制」です。店を利用する際に会員登録し、年会費を支払います。一般客は4,840円からです(2022年2月現在)。初めて売り場に足を踏み入れた時は、約5000円の“損をした状態”です。これが心理的な影響を及ぼします。

まずは「サンクコスト効果」です。サンクコストは、過去に失って取り戻せないコスト(時間、金、労力等)のことです。一度失ったコストは二度と戻らないので本来、その後は新たな気持ちで意思決定をすべきですが、人はサンクコストにこだわってしまいます。例えば、“商品が欲しいから買う”のでなく、“払った年会費のモトを取るために買う”といった行動をとってしまうのです。

とはいえ、何も買わずに帰るのは、“大量に安く買える”機会を失うことになります。そこで「損失回避」の心理が働きます。人は損失に強く反応し避けようとします。同じ金額の損と得があった時、損した時の不満や悲しみは得した時の満足や喜びの2倍以上であることが実験で確かめられています。この心理により人はコストコで“買わなければ損”と考えます。

さらに、欲しい商品を買う場合も意識が普段と違います。例えば、微妙にサイズが小さい洋服を普段なら買わずにあきらめる人でも、“着られるのだから買ってしまえ”と考えてしまう可能性が高まります。

これは「反転効果」の影響です。得している状況と損をしている状況では、同じ選択でも判断が逆転するのです。得していれば安全確実な得を目指し、損の状況では一か八かリスクある選択をします。ギャンブルの最終レースが良い例です。

一日の勝敗の通算で利益があがった状況では慎重に判断しますが、負けが続いた最終レースではリスクがあっても「反転効果」の影響により、挽回を目指して大穴を狙ってしまいます。

倉庫型店舗がもたらす消費行動

コストコ・マジックのニつ目は「倉庫型店舗」です。

飛行機でも格納できそうなほど広く、天井も高いスペースは、普段踏み入ることの無い巨大空間です。さまざまな商品が運送後のパレットに乗った状態で、天井近くまで陳列されています。

キャンプセットや家電などをはじめとして、通常の日本の店舗では見かけない巨大サイズの商品も数多く売られています。そこには非日常的な雰囲気があり、日本にいながら外国で買い物をしているかのような気分が味わえます。

そのような状況では「メンタルアカウンティング」が働きます。これは、心の中でお金を出所や使途で無意識に分け、使い方も変える傾向です。

例えば海外旅行に行った時は節約など考えずに、目についたものを買ってしまいがちです。これは普段の買い物をする(心の中の)財布とは別の(心の中の)旅行用財布からお金を払っているような状態です。近所のスーパーでは10円の違いでも気になる人でも、あまり考えずに高い買い物をしてしまうのです。

決してすべての商品が安いわけではない

コストコのマジック、三番目の特徴は「品揃えと値段設定」です。

店が広いこともあり、宝飾品、薬品、家電、生活雑貨、衣料品、食料品と幅広いジャンルの商品が売られています。しかしながら、メーカーやブランドは絞られ、色やサイズのバリエーションもさほど多くはありません。これには「決定麻痺」による買い控えを無くす効果があります。

これは人間が多すぎる選択肢に接した時、選択を先延ばしにしたり、 選択すること自体をやめてしまう心理です。コストコはこの状態が起きにくく、購入の意思決定をしやすい品揃えにしているのです。

必ずしも全ての商品が安いわけではありませんが、Godivaのチョコなど、誰もが知る高級品が割安で販売されています。これにより「ハロー効果」が働きます。

これは対象が持つ顕著な特徴に引きずられて、他の特徴の評価が歪められる現象です。目立つ商品が割引されていることにより、全ての商品が安いと思ってしまうのです。

さらに売られている商品の量が通常の店と異なります。例えば大型の懐中電灯が3個セットで売られていたり、高級ウィスキーが1.75リットル瓶で売られるなどです。こうなると、普段の買い物と比べて、得なのかどうか計算が難しくなります。普段の価格感覚が通用しないのです。

そうなると過去の経験から“大量なら安い”と判断しがちです。この時、思い出しやすい印象をもとに判断する「利用可能性ヒューリスティック」の影響を受けています。

マジックにかかるも、かからないも自分次第

コストコの店の作り方や売り方からは、「大量生産・大量消費」を体現している印象を受けます。大量に売るために、人間心理の不合理さを活用しているとも想定されます。

ただし、そのことが悪いわけではありません。店に行くかどうか、そこで買うかどうかは消費者の自由です。自分の心理に関して無自覚に買い物をしてしまうことが、その後の後悔につながるのです。

コストコが人間の心理を利用して誘導していくならば、買う側も自分の心理について理解して行動すればよいのです。何を買うか選ぶ行為は、大げさに言えば、自分の生活を形作るための選択です。

極端に言えば、コストコでの買い物で、自粛で溜まったストレスを吐き出し、精神的に楽になるなら、それはお金に代えられない価値です。

コストコのマジックにかかってしまうのではなく、この特徴ある店舗を自分の生活において、どう活かすべきか、考えてみてはいかがでしょうか。

引用:9 割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人 」
橋本之克秀 著/秀和システム

プロフィール:橋本之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディング ディレクター 兼 昭和女子大学 現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店勤務などを経て2019年に独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。

image by : Andy.LIU / shutterstock

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