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日本人が忘れてはならない、ウクライナ人父娘と日本国憲法の関わり

ロシアがウクライナへの侵略を始めたことで、例えば輸入されるタバコの葉の9割以上がウクライナ産であることなど、これまであまり知られていなかった両国の関わりがメディアに取り上げられることが増えています。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、評論家の佐高信さんが、毎日新聞に掲載されたウクライナ生まれのピアニスト、レオ・シロタに関するコラムに絡み、彼の娘ベアテ・シロタ・ゴードンが日本国憲法の草案に携わり、女性の権利の明記に尽力したことを紹介。父娘2代にわたり恩を受けた父娘のルーツであるウクライナに報いるため、日本人が為すべきことを記しています。

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ウクライナと日本国憲法

3月18日付『毎日新聞』の「金言」というコラムに論説委員の小倉孝保が「日本人の受けた恩」と題して、1885年にロシア帝国下のウクライナで生まれたピアニスト、レオ・シロタのことを書いている。1923年にウィーンで生まれたベアテ・シロタ・ゴードンの父親である。

ヨーロッパで公演活動を続けていたレオは1928年に初めて来日し、翌年、ベアテを含む家族と一緒に再来日して、東京音楽学校教授となった。

日米関係が悪化した1941年にアメリカでリサイタルを開き、そのまま残るようにすすめられたが、「日本には私を待っている生徒がいる」と言って帰って来る。待っていたのは生徒だけでなく、筆舌に尽くし難い苦労に満ちた生活だった。

「ひもじさを日本人と共有したシロタは終戦時、哀れなほど痩せていた。長女ベアテの住む米国に渡ったのは1946年である」と小倉は書いている。還暦を過ぎてアメリカへの移住を決めた師を見て、教え子の1人の藤田晴子は「日本人は恩知らずな国民なのでしょうか」と嘆いたという。娘のベアテが日本国憲法の女性の権利の明記に尽力したことはよく知られている。

2008年5月8日に来日したベアテを招いて「憲法行脚の会」はシンポジウムを開催した。土井たか子や落合恵子と共に私も参加したが、テーマは憲法の14条と24条。法の下の平等と家族生活における個人の尊厳と両性の平等を謳ったこの2条は、当時22歳だったベアテが起草した。そんな若い女性がと、よけいな反発を招くことを避けるために、彼女の携わったことは秘密にされたという。

『週刊金曜日』の1998年6月5日号で、ベアテは落合と対談している。そこで落合は、ベアテが書いた草案の中で、3割ぐらいしか憲法の条文に反映されなかったとして、通らなかった主な条項の3つを次のように要約している。

1つは「妊娠と乳児の保育にあたっている母親は、既婚、未婚を問わず、国から守られる」、2つ目は「嫡出でない子ども(非嫡出子)は法的に差別を受けない」、3つ目は「すべての幼児や児童には、眼科、歯科、耳鼻科の治療は無料とする」。ベアテがこうした考え方を持つことができたのは、やはり、「リストの再来」といわれながら日本にとどまった父親の影響が大きい。

5歳で日本に来たベアテは、日本の女性たちが家長の意のままに結婚させられたり、客が来ても同席せずに台所で働くばかりなのを目の当たりにし、これではダメだと思った。凶作の時、身売りされる農村の娘の話にも衝撃を受けた。

もちろん、アメリカでも完全に男女平等は実現していたわけではなく、大学を出て勤めた『タイム』にも女性記者は1人もいなくて、ベアテも補助的な仕事をさせられた。

戦火の最中にあるウクライナと日本はベアテ父娘を通じて強烈につながる。彼らの恩に報いるには憲法を護り続けることしかないのである。

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image by:image_vulture/Shutterstock.com

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