ロシア軍は本当に劣勢か?“アメリカ脳”に支配された空想記事を「鵜呑み」する危険

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さまざまなメディアで、国際政治や軍事の専門家たちによる解説を交え報じられているウクライナ情勢。その多くがロシア軍の「思わぬ苦戦」を伝えていますが、果たしてそれは全面的な信用に値するものなのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、単純極まりないというウクライナ情勢の「事態の本筋」を記すとともに、散見される予断と偏見に満ちた記事やニュース報道を批判。さらに読者に対しては、それらに触れる際の注意点を提示しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年4月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

空想力だけで言葉遊びをする記事を見抜け/ウクライナ情勢を理解するための頭の体操

大前研一が「ウクライナ情勢は“アメリカ脳”と“ロシア脳”の両方を併せ持っていなければ、的確な判断はできない」と言い、その“ロシア脳”で考えるとプーチンは「最終的にウクライナを併合しようとしているわけではないと思う」と結論づけているのは、正しい。本稿が「対自化」と言ってきたのと同じことで、平たく言えば複眼的思考ということである。

ところが“アメリカ脳”しか持たない日本のマスコミは、プーチンはヒトラー同様の狂気の侵略者なのであるから、キエフを攻略し、ゼレンスキー政権を崩壊させ、ウクライナを占領してロシアに併合しようとしているに決まっているという思い込みから状況認識を出発させる。「本当にそうかな?」とチェックする“ロシア脳”が働かないから、単純素朴にそう信じ込み、自分が“アメリカ脳”の虜になってしまっていること自体に気がつくことがない。これが「即自化」の罠である。

キエフ制圧を諦めた?

最近の興味深い実例は、3月27日に日本のマスコミが一斉に報じた、ロシア軍がキエフ制圧に失敗して東部のドネツク地方の掌握に兵力を集中すべく戦略の転換を余儀なくされているという現地情勢の分析である。同日の日経の見出しで言うと「ロシア、焦りの戦略修正」「各地で苦戦、東部掌握を優先」「首都制圧の目標後退」で、“焦り”“修正”苦戦“後退”などロシア軍が劣勢にあることを印象付ける言葉が並んでいる。

この報道の発端は、ロシアのルドスコイ第1参謀次長が25日にモスクワで記者会見し、ウクライナ侵攻から1カ月が作戦の「第一段階」はほぼ完了し、今後は東部ドンバスの「完全解放」に注力していくと述べたことにある。これに対し米ペンタゴン高官は直ちに反応し、

▼ロシア軍がキエフ地上侵攻を少なくとも今は停止したように見える。

▼ロシア軍がいったん制圧した南部ヘルソンはウクライナ軍の奪還作戦によって再び係争中の地域となった。

と述べた。この記事を書いた日経の2人の記者はワルシャワ支局にいて、たぶんモスクワとワシントンで行われた記者会見には出ていないと思われるが、その分、“アメリカ脳”だけを思い切り膨らませて空想力を拡張した。

情勢分析に想像力は大いに駆使しなければならないが、空想力に逃れてはいけない。想像力には「地に足が着いている」が空想力には足がないからである。

日経の空想的な記事は言う。

▼▼キエフを早期に制圧し、親欧米派のゼレンスキー大統領を退陣させ、キエフを含む主要地域でかいらい政権の樹立を目指していた当初のシナリオの変更を迫られている可能性がある。

▼▼一部の部隊はキエフから後退を強いられている。

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