理化学研究所の労働組合は、研究系職員約600人が2023年の3月末で雇い止めになるとして、理研に対し撤回を求めるよう文部科学大臣と厚生労働大臣宛てに要請書を提出したと報じられています。日本からの頭脳流出が取り沙汰されるなか、このニュースの背景について質問を受けたのは、メルマガ『週刊 Life is beautiful』著者で「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さん。正社員への転換ルールを定めた改正労働契約法によりかえって契約社員が職を失う現状について、日本の場合、正社員にしてしまうと解雇できなくなることが「本当の悪法」と指摘しています。
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質問コーナー:理研600人リストラの背景がわかりません。
Question
質問というかお願いなのですが、「理研600人リストラ」の記事を読みましたが、なぜそのようなことをするのかがわかりませんでした。この件の背景も含めて説明して頂きたいです。
中島さんからの回答
この質問を読んでから調べたところ「理研600名リストラ危機が示す研究現場の疲弊」という記事に、雇い止めの理由が書かれていました。
この記事によると、2013年に労働契約法が改正され、契約社員はある一定の期間以上契約関係が続いた場合、(解雇のできない)正社員への転換を申し出る権利が生じることになったそうです。
正社員への移行をうながそうという意図で作られた法律ですが、逆にその期限が来る前に雇用者側が「雇い止め」をするという慣習が出来てしまった「悪法」です。
その期間というのが、当初は5年間だったのですが、そのままでは(契約社員の多い)日本の研究機関に壊滅的なダメージを与えると、研究職に限っては10年間に伸ばすという条項(通称「10年ルール」)が2016年に追加されたそうです。
その10年ルールは、2013年に遡って適用されるため、2023年にはその10年ルールにより、数多くの研究者が「雇い止め」されることになり、その対象は理化学研究所だけでも600人に登るそうです。
10年ルールの適用対象になるからと言って、必ずしも雇い止めをする必要はないのですが、日本の場合、一度正社員にしてしまうと解雇できなくなってしまうという問題があるので(こちらこそが、本当の悪法です)、このままでは重要な研究が続けられなくなってしまい、頭脳が海外に流出してしまうと言われているのです。
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image by:show999/Shutterstock.com