トライセラ和田唱ロングインタビュー。初の絵本、音楽、家族、そして「今一番言いたいこと」

2022.05.30
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

新曲「オレンジ色のやすらぎ」と、亡き父・和田誠への想い

──今回の絵本『ばぁばがくれたもの』は、CD付きバージョンも同時に発売されるということで、そのために書き下ろした歌「オレンジ色のやすらぎ」のCDが付くわけですが、この曲についても教えていただけますでしょうか。とても温かみのあるアコースティックサウンドで、まさに「オレンジ色のやすらぎ」に包み込まれるような、心安らぐ曲ですね。この歌は、絵本のお話をそのまま歌詞にしたものではないんですよね?

和田:そうなんです、必ずしも「おばあちゃんとの別れ」ではなくて、恋人との別れかもしれないし、親との別れかもしれない。つまり「別れ」と言ってもいろいろな形があって、誰にでも当てはまるようにはしましたね。恋愛の別れとしてもギリギリ通じるかなという世界観にはしました。

──曲を聴かせていただいて、「きみ」という言葉が誰にでも当てはまるよう意図的に設定したのかなと感じました。

和田:まさにおっしゃる通りです、だからあえて「きみ」にしたんです。聴いた人が、対象を主人公やおばあちゃんに限定しないためにそうしました。最近は、詞を書く上で対象を限定しない書き方をするのが好きで、広く解釈できる歌詞を書くようにしてるんです。昔はもっと直接的だったし、それしかできなかったんですけど、僕もいろいろな経験を積んで、年を重ねることでそういう曲が書けるようになってきたのかなって思いますね。

──和田唱さんにとって今回が初の絵本ということですが、お父様の和田誠さんはたくさんの絵本を手掛けられていましたよね。この本を天国にいるお父様の「たましい」に向かってお届けするとしたら、どうご報告しますか?

和田:考えてなかったなぁ(笑)。そうですね、「こんなん書いたよ」くらいですかね(笑)。うちの親父も「好きなことやればいいよ」って言うでしょうし「最後に曲を付けたよ」って言ったら、「それはいいアイディアだ」って言うでしょうね。それって僕ならではじゃないですか、楽器を演奏して歌を歌うっていう。うちの親父はマルチで、かなりいろいろなことができる人だったから、絵本は絵も描いて話も書いてレイアウトも装丁もするっていう。でも、自分で楽器を演奏して歌を歌うことはできなかったので、そこは「勝ったぞ」と言いたいですね(笑)。

──たしかに(笑)。お母様(平野レミさん)にはすでに絵本をお見せしましたか?

和田:これから持っていきます。意外と恥ずかしいんですよね、こういうの。自分のバンドやソロのアルバムもそうですけど、「こういうの出したから聴いて」って普段からあんまりしてないですもん。それに母は言わなくても勝手に買いますし(笑)。だから「必ず届けなきゃ」っていう義務はあんまり感じないですね。実家に帰ると「なんだ、もう置いてあるじゃん」っていう。

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ソロデビューで気づいた、自分の「新たな一面」

──それにしても、今年は絵本の出版と、バンド「TRICERATOPS」のデビュー25周年、そして7年4ヶ月ぶりのニューアルバム発売&全国ツアーと、イベントやアニバーサリーが重なりましたよね。そこで4月20日発売のトライセラのニューアルバム『Unite / Divide』やソロ活動などについてお聞きしたいと思います。ここ数年でソロデビューもあり、ニューアルバムあり、絵本ありと多忙ですよね。

和田:いろいろ出せて嬉しいですね。もともとモノづくりが好きなんですけど、ここ数年は特により好きになっていて。たくさん残したいなっていう、まるでもうすぐ死んじゃうみたいですけど(笑)。たくさん残せたらいいなぁっていうモードなんですよね。

──2018年に『地球 東京 僕の部屋』で初めてソロデビューされたわけですが、わずか4年前なんですよね。

和田:そう、まさに『地球 東京 僕の部屋』からですよ、僕のモノづくりモードに火が着いたのは。それまでは、基本的にバンドで一枚のアルバムができ上がると、もうネタ切れというか。よく人から「ストック何曲くらいあるんですか?」とか聞かれるんですけど、「ストックなんてゼロだよ!」みたいな(笑)。何か一つ作品を発表すると、もうもうスッカラカンの状態だったんですよ。ところがここ数年は違うんです、何か作品が出るタイミングで、もう次の用意があるという。『地球 東京 僕の部屋』のときから、意外とその状態が続いていて。だからこの絵本も含めて、いま何かを生み出したいっていうモードなんですよね。絵本も「また書きたい!」って思ってますし、もう第二弾の絵本もすでに頭の中で描いていますね。こんな話だったらいいんじゃないかなって、まだザックリですけど。

──ソロ一作目『地球 東京 僕の部屋』を聴かせていただきましたが、トライセラの時とはまったく違う世界観にも関わらず、私が同い年(1975年生まれ)ということもあるのかもしれませんが、何と言いますか、こう「わかった」んですよね。言葉で説明するのが難しいのですが、聴いただけで和田さんのやりたいことが「理解」できた、と自分では思っています。さらに、和田誠さんが勤めていた広告制作会社ライトパブリシティ時代の元後輩・篠山紀信さんが撮影したという、アルバムのジャケット写真を見たら「アッ!」となって……。

和田:あの覗いているやつ、知ってます?「ポピー くるくるてれび」(1979年に株式会社ポピーが発売した交換式の8mmフィルムカセットを再生して鑑賞する玩具。アニメや特撮の専用カセットが販売されていた。動画の長さは2~3分程度)っていうおもちゃなんですけど。我々の世代には懐かしいですよね。

ソロ一作目『地球 東京 僕の部屋』(2018)

暗いところだと真っ暗で見れなくて、太陽か照明に当てないといけないという。いやー、そこに気づいてもらってありがたいですね、さすが同世代(笑)。

──あのジャケを見ただけでも泣きそうになりましたが、「1975」やタイトル曲の詞も心に沁みましたね。2020年のソロ二枚目『ALBUM.』も聴かせていただきましたが、中身は一枚目とまったく違う楽曲にも関わらず、何か二枚とも通じるものを感じました。個人的には、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』へのオマージュのような「ドルフィン」という曲が大好きです。アルバムを聴いただけで「たぶん和田さんは頭の中に曲がどんどん湧いてきたんだろうなぁ」という楽しさのようなものが伝わってきましたね。

和田:ありがとうございます。そうですね、何気に40過ぎまでソロを出したことがなかったので新鮮だったんですよね。「前にこういうことやったからなぁ」というものがなくて、全部初めての経験だったので。演奏もストリングス以外は自分で演奏しましたし。だから割と曲を生み出しやすかったのかなとは思いますね。

──ソロ二枚目の『ALBUM.』から2年経って、今度はトライセラのニューアルバムが約8年ぶりに出たわけですから、ちょうど2年おきに出している感じですよね、ここ数年は。

和田:そうなんです、だから割といいペースで来ているんですよ。なんなら次はもっと短い間隔で出したいなって思っているくらいで。

──では、次は第二弾の絵本が来るのか、三枚目のソロアルバムが来るのか、トライセラのニューアルバムが来るのか、どれが先に出るのかといった感じですね(笑)。

和田:まずは音楽でしょうね、もうかなりストックが溜まっているので。今回、僕は絵本の世界観やストーリーを考えましたけど、絵を描くのって本当に大変だったと思うんですよね。だからカズくんは今回の絵本の一番の功労者ですよ。僕はストーリーと方向性は決めましたが、気がついたら出来てたっていう。みなさんのおかげですよ、本当に。

──私も、もともとは紙の本の編集者だったので分かるんですが、本一冊作るのって結構大変ですよね。

和田:本当にそうだと思います。でも僕は今回、自然の流れに任せていただけですから!

──ソロ2作も、今回の絵本『ばぁばがくれたもの』に付くCDの「オレンジ色のやすらぎ」もそうですが、全体的に温かみというか優しさというか、それこそ「オレンジ色のやすらぎのようなものに包まれている」印象を私は受けました。

和田:やっぱりバンドって、もうちょっとアグレッシブなものが加わるんでしょうね、ドラムがいるっていう時点で。人を高揚させる楽器じゃないですか、ドラムって。バンドという形になった時点で人を高揚させる音楽になるんですよね。それがソロになることで、僕が全部の楽器を演奏したので、もうちょっと穏やかなものにならざるを得ないんですよ。高揚させる音楽がやりたければ、バンドでやればいいんじゃないかなと思います。僕自身が年齢を重ねて、いわゆる人を興奮させるのではない、違うタイプの音楽をやりたかったんでしょうね。だから、そういうムードが出てきたんだと思います。これは絵本も含めてですが、2018年以降の自分はトライセラの時とは違う路線に興味が出てきていますよね、確実に。やっぱり若いときっていうのは、穏やかな曲というよりは「オラぁ!ロックだ!」っていうのあるじゃないですか(笑)。それが徐々に徐々に「優しい世界もいいなぁ」って思えるようになってきているんですよね。

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