今年でデビュー25周年を迎えたバンド「TRICERATOPS(トライセラトップス)」のボーカル・ギターで、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がけるミュージシャンの和田唱(しょう)さん(46)。2018年には初のソロデビューを果たし、アルバム2枚を発表してソロライブツアーも敢行するなど、ここ数年はトライセラ以外での活動も目立ってきました。また、TwitterやインスタなどのSNSでも積極的に自身の意見や日常を発信し、妻で女優の上野樹里さん(36)とともに、その投稿は常に世間の注目を集めています。そんな和田唱さんが、トライセラ7年4ヶ月ぶりのニューアルバム『Unite / Divide』発売からわずか1ヶ月後の5月20日、初の絵本(原作・文)『ばぁばがくれたもの』を発表。その絵本のために書き下ろした新曲「オレンジ色のやすらぎ」も配信が始まりました。バンドにソロにライブに、そして絵本にと大忙しの和田唱さんに、今回の絵本に懸ける思い、そして家族、音楽、さらに現在もっとも関心を寄せているという「目にみえないモノ」についてまで、いろいろとお話をおうかがいしました。(於:パールブックショップ&ギャラリー 渋谷区西原2-26-5)
いま、和田唱が絵本の原作を手がけた理由
──本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。この度はご自身初の絵本『ばぁばがくれたもの』(888ブックス)ご出版おめでとうございます。そして、今年はバンド「トライセラトップス」デビュー25周年のアニバーサリーイヤーでもあり、4月20日には7年4カ月ぶりのニューアルバム『Unite / Divide』も発売され、さらに6月からは全国ツアーも始まるということで、いろいろおめでたいことが重なる年になりましたね。まずは、おばあちゃんの死とそれを受け入れる孫の成長を描いた、和田さん初の絵本『ばぁばがくれたもの』を書くことになったキッカケを教えていただいてもよろしいでしょうか?
和田唱(以下、和田):こちらこそ、本日はありがとうございます。『ばぁばがくれたもの』を書くキッカケは、2020年に出した2枚目のソロアルバム『ALBUM.』に収録されている「さよならじゃなかった」という曲を書いたことですね。「この曲の世界観で何か出来ないかな」と思ったんです。
というのは、この曲のテーマが、「身近な人の死」を体験して悲しんでいる人、落ち込んでいる人に対して、少しでも気持ちを楽にさせてあげられるようなことが何か出来ないかなと思って書いた曲なんですね。そういう経験をする人を見てきたし、僕自身、
──キッカケはソロアルバムの収録曲だったんですね。和田さんご自身を含めて、「身近な人の死」で悲しんでいる人の気持ちを少しでも楽にさせてあげたいということを、絵本のコンセプトに出来ないかと着想されたということですね。
和田:そうなんです。だから、当初は曲と同じ「さよならじゃなかった」というタイトルの絵本にする予定でした。その曲の絵本バージョンみたいな感じですね。でも、その前に「さよならじゃなかった」というタイトルのビデオを作る予定だったんですよ。NHK「みんなのうた」のアニメみたいな感じで。そこから、徐々に「これ、絵本にしたいな」って思うようになって、紆余曲折を経て今回の形になりました。
「カズくんに頼めばいいかもしんない!」
──では、歌のコンセプトはそのままに、少しずつ絵本としての構想が固まっていったんですね。
和田:そうです、そのコンセプトをもとにストーリーを考えました。絵は、僕が通っていた文化学院という専門学校の同級生だった佐々木一聡(かずあき)くん、僕はカズくんて呼んでるんですけど、彼に「絵を描いてほしい」って頼んだんです。
──今回、同級生の佐々木一聡さんに絵を頼もうと思った理由は何ですか?
和田:カズくんが文化学院時代に描いていた絵をずっと覚えていて、彼の描く可愛らしい絵がピッタリだと思ったんですよ。当時、学校の授業で絵を描くんですけど、彼はいわゆる美術の授業ではそんなに優等生ではなくて(笑)、もっと「独自の絵」を描くような青年だったんです。だから「可愛い絵を描くなぁ」と昔から思っていて。卒業した後も、ちょっとした同窓会があると、パネルみたいなモノの上に描いた絵をみんなにプレゼントしてくれたりして。
──佐々木さんは、もとから絵本作家だったわけではないんですね。
和田:カズくんは普段「おもちゃ職人」というか、妖怪のソフビとかを作っている人なんですよ。絵本も何冊かは出し
──それは嬉しいですね、もちろん頼まれた佐々木さんも嬉しかったのではないでしょうか。その後は、LINEで具体的なストーリーや構成を送り合って制作を進めていったんですね。
和田:そうですそうです。ほぼほぼLINEでやり取りしました、これも時代ですね。下書きができたら送ってもらって、何かあれば「ココもうちょっと、こういう風にして」とか。実際に掲載されたもの以上に、絵はいっぱい描いてくれたんです。残念ながらカットになっちゃった絵もあるし。絵のセレクト、ページ数、表紙の絵をどれにするかとか、絵本を作る工程って思いのほか大変なんだなっていうことが今回の『ばぁばがくれたもの』を作ってわかりましたね。
モデルは「昭和のおばあちゃん」と「母の実家」
──印刷所で刷り上がった現物の絵本を見て、最初にどんな印象を受けましたか?
和田:嬉しかったですね、まさにイメージしていた通りのものができたので感慨深いものがありました。やっぱりモノとしてあがってくると、LINEでやり取りしていたときに見ていた絵とは全然違って見えましたね。今回の絵本は、最初から「昭和感」というものを出したかったんですよ。僕らが小学生のときに図書室で手に取っていたような、あの頃の絵本のタッチ、テイストを出したいなと。最初、現代風の本にしようか、昭和風の本にしようか迷ったんですよ。カズくんは現代風のタッチでも描けるんです、おそらく。でもここは「昭和風でいきたいよね」って、そこはお互いに共通してましたね。
──お話の中にも昭和テイストのモチーフがけっこうな頻度で登場しますよね。駄菓子屋とか、お祭りとか、家の様子とか。
和田:そうなんです。それに、最近の「ばぁば」ってもっと若々しくて、あんまりおばあちゃんっぽくないと思うんですよ(笑)。でも、やっぱり僕らのイメージするおばあちゃんって、いかにも「おばあちゃんおばあちゃん」したあの感じじゃないですか。だから、カズくんにも「昭和のおばあちゃんにしてほしい」って、そこはあえて頼んで描いてもらいました。
──絵のテイストも、少し絵の具が盛り上がったようなタッチで昭和感がありますよね。
和田:最初からパネルに石膏のようなものを塗ってから描くと、こういうデコボコしたタッチの絵になるらしく「こういう感じで描いていい?」って聞かれたので「もう好きなようにやっていいよ」ってお願いしました。
──和田さんが絵本のあとがきに、「今回のお話は実際のおじいちゃん、おばあちゃん(料理愛好家でタレントの母・平野レミさんの父母)との思い出をミックスして、一人のおばあちゃんの話にした」というようなことを書かれていましたが、このお話はどこまで実際の思い出と重なるのでしょうか?
和田:部分部分、本当のことだったりします。ちょうど二人の思い出がいい感じにミックスされた感じかな。プラス創作ですね(笑)。お話に登場する家のモデルは、母がずっと住んでいた実家です。千葉の松戸にあったんですけど、いつも電車で1時間くらいかけて、母と弟と行ってました。従兄姉