米Appleが開発者向けのイベント「WWDC22」をオンラインで開催。M2チップ搭載の新型「MacBook Air」などが発表され話題となっているなか、「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんが注目したのは、次世代「CarPlay」でした。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で中島さんは、ソフトウェア開発を自社でしてこなかった日本の自動車メーカーの問題点を指摘。次世代「CarPlay」の参加メーカーとして日産とホンダの名前があるのも、「走るコンピュータ」となりつつあるTeslaのEV車に対抗するためには、唯一の選択肢だったのだろうと伝えています。
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先週、AppleのWWDC(World Wide Developer Conference)が開かれました。このイベントは、以前はサンフランシスコで開かれており、私も何度か参加しました。新型コロナの影響で、オンライン開催になり、逆に参加しやすくなった点は大きなプラスです。
色々なものが発表されましたが、私がこれまでやって来たことと最も関係があるのが、CarPlayです。
Appleは、CarPlayの将来像として、カーナビだけでなく、スピードメーターやタコメーターなどを含めた装置クラスター全てのインターフェイスをAppleが提供する計画を発表しました。
私が創業したUIEvolution(後にXevoと改名)は、まさにこんな用途のために開発したUIEngineというユーザーインターフェイスの記述言語とそのエンジン(UIEngine)を自動車メーカーに提供して大きくなった会社です。
トヨタ自動車に向けて、車載機と呼ばれるカーナビ上で動くアプリケーションを提供するところまでは実現しましたが、装置クラスターを任せられるところまでは到達出来ませんでした(社内では、プロトタイプを作っていました)。
その一番の理由は、日本の自動車が、数多くのベンダーから調達した部品を組み合わせて作る設計になっているため、ほとんどの場合、カーナビを提供するベンダーと、装置クラスターを提供するベンダーが異なり、その枠組みをまたいで統合的なUIを作るなど全く現実的ではなかったことにあります。
にも関わらず、日産やホンダまでもこのAppleの提案に乗ることになったのは、圧倒的なソフトウェア・エンジニア不足と、Teslaが猛烈な勢いで起こしているEVシフトのためです。
日本の自動車メーカーは、自らはソフトウェア・エンジニアを雇わず、仕様だけ決めてカーナビや装置クラスターのハードウェアをソフトウェア込みで(デンソーやパナソニックなどの)ハードウェア・ベンダーから調達する形で開発して来ました。
しかし、それらのハードウェア・メーカーも自らソフトウェア・エンジニアを雇わず、ソフトウェア開発は、さらに下の下請けに丸投げし、その下請け会社は、派遣会社から派遣社員を雇って人月工数で働かせる、という形で開発を進めて来ました。
そんな体制で長年自動車を開発して来たため、自動車会社にはソフトウェアが作れる人材がいないどころか、ソフトウェアのことが理解出来る経営陣すらいないのが現状です。
しかし、Teslaが台風の目となって、誰も予測しえなかったスピードでEV化が進み、自動車が「走るコンピュータ」に進化を遂げつつある中で、これまで通りの作り方では、戦えないことが明確になって来たのです。
AppleのCarPlayは、その自動車メーカーのニーズに応える見事なソリューションであり、多くの自動車メーカーにとっては唯一の選択肢となったのです。
ライバルとしては、GoogleのAndroid Autoがありますが、Googleのビジネスは、あくまで広告ビジネスであるため、所有者のプライバシーを守る面でも、ユーザー体験の面でも、Appleと比べると大きく見劣りするのです。(『週刊 Life is beautiful』2022年6月14日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)
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image by: Chinnapong / Shutterstock.com