世界中で問題となっている麻薬犯罪、それは韓国も例外ではありません。しかも、韓国では10代や20代といった若者たちの麻薬使用が急増しているといいます。そこで今回のメルマガ『キムチパワー』では、韓国在住歴30年を超える日本人著者が、 深刻化している韓国の麻薬事情について語っています。
意外に深刻な韓国の麻薬犯罪
「一度やってみる?気分がよくなるぞ。一度くらいは大丈夫さ。ダイエットにもなるぜ」。17歳のAさんは、知り合いの女性(20)Bさんの紹介で一緒に会った30代の男性から、この言葉を聞いて注射器を受け取った。
1週間経ったとき「注射を打たなければ耐えられない」という中毒症状が現れ、Bさんにずっと連絡して「打たせてほしい」と言ったという。
昨年警察に検挙されたAさんは「注射器に入っていたのがヒロポンだと知っていたらやらなかっただろう」と話したが、一歩遅れた後悔だった。
中央日報が取材した10代の麻薬共和国は、このように単純な好奇心の一回性で終わらなかった。10代が海外直送で麻薬を密輸し、ソーシャルネットワーク(SNS)メッセンジャーや秘密チャットアプリを通じて販売まで行っている。
暗号通貨で決済し、捜査機関の追跡をかわす。大韓民国が10代麻薬犯を量産する「麻薬共和国」に転落したのだ。
海外直接購入(電子商取引)だけで年1億個、通関検索を含め取り締まりは難しくなるが、10代のための麻薬予防教育はもちろん、治療・リハビリシステムさえ整っていない。
ごく少数の芸能人・留学生・中毒者だけが麻薬をやるという麻薬神話は7年前にすでに壊れてしまっている。
10代麻薬犯は2021年の全体麻薬犯(1万6,153人)のうち比重(2.8%)が小さく見えるが、専門家らは実際の発生件数は1万人を超えるものと推算している。
麻薬は殺人・強盗・強姦など他の凶悪犯罪とは異なり、捜査機関が認知できなかった事件がはるかに多い代表的な暗数犯罪であるためだ。麻薬犯罪の特性上、犯行が隠密で自主申告率はきわめて低い。
世明大学警察学科のパク・ソンス教授は「韓国の麻薬犯罪の平均暗数率(検挙対比実際の発生犯罪数を計算する割合)は28.57倍と算定されるが10代検挙事犯450人に28.57をかけた1万2,857人ほどが全体の10代麻薬事犯数と推算される」と分析した。
ある捜査機関の専門家は「10代麻薬犯は保護者が子供の未来がかかっていると考え、明らかにすることを敬遠するため暗数率が100倍に達するだろう」と話す。
麻薬犯の平均年齢帯が最近10年間で急速に若年齢化しているという点もこれを裏付ける。2012年、麻薬犯罪全体の38%を占めた40代は、2019年半分水準の21.7%に減り、代わりに30代(25.7%)が年齢別1位に上がった。
ところが、2年後の2021年には20代が5,077人(31.4%)検挙され、年齢別1位を占めた2011年、比重が8.2%に過ぎなかった20代が、10年ぶりに国内麻薬犯罪の主流になったのだ。
20代が麻薬犯罪の最多であることも、それだけ10代の青少年の時に麻薬に初めて接した人が多いという傍証だと専門家らは見ている。
「私はソウル江南(カンナム)に住んでいます。両親は平凡な会社員です。ヒロポン、合成大麻、ケタミン、エクスタシー全部やってみました。コロナ前は大人たちの住民登録証を借りてクラブに行ってやりました。コロナの時は友達とパーティールーム、ホテルを借りてしました。薬を売るおじさんから安くしてもらって友達に高く売って数千万ウォンを儲けたりもしました」(昨年19歳Bさんの検察陳述)
慶尚南道警察庁の金大圭(キム・デギュ)麻薬捜査隊長は、「最近摘発された10代投薬者は、たいてい芸能人志望者や高位層の子息ではなく、平凡な学生だ」と話す。
彼は「私たちの周辺でよく見られる平凡な子供が多い」として「学力水準が高くても低くても、家庭環境が良くても悪くても問わない」と警告する。
10代に広がっている麻薬類は、伝統的な大麻やヒロポン、新種麻薬類のエクスタシー(MDMA)など多様だ。2019年、10代に人気のヒップホップラッパーの間で流行し、社会問題になったアヘン(オピオイド)系合成麻薬であるフェンタニル鎮痛剤など麻薬性医薬品も広範囲に広がっている。
慶南警察庁は昨年5月から釜山・慶南でこのペンタニルを不法処方された後、投薬・所持したり転売したりした10代の高校生50人余りを摘発した。
今年6月には全国15市・道のうち蔚山・済州を除く13か所で10代100人ほどが麻薬性食欲抑制剤であるジエタミンを不法処方された後、投薬したなどの疑いで警察に摘発されたりもした。
ジエタミンも向精神薬であるペンタミン(アンフェタミン)が主成分としてヒロポン(メスアンフェタミン)と程度の差があるだけで、幻覚作用や中毒性は似ていると専門家たちは指摘する。
10代は麻薬類を手に入れる際、病院で違法処方を受けるのでなければ、主にSNSメッセンジャーの秘密チャットルームを活用するという。
決済手段は、たいていビットコインのような仮想通貨だ。銀行送金など記録を残さないためだ。仁川地検のイ・ジェイン検事は昨年11月、初めて10代を含むテレグラムメッセンジャー麻薬取引部屋組織に対し、犯罪団体の容疑を適用して裁判に回した。
同検事は今年3月の論文で「全体麻薬類事件の中で知人の借名口座を利用して代金を伝達する伝統的方式は約30%にとどまり、テレグラムなどを通じて互いに身元を知らない人同士が仮想通貨で代金を伝達するのは70%ほどに達する」と分析した。
緩いCIQ(出入国管理・税関検査・検疫]によって麻薬類が国内に流入し、病院など医療界管理不良で麻薬類に指定された医薬品が10代に不法処方・販売されるなど供給側面の問題も指摘されている。
検察と警察の捜査権調整以後、一線の混線で崩れた麻薬犯罪に対する共助捜査→処罰→リハビ矯正システムにも穴ができたという分析も出ている。
何よりも政府と国会が「麻薬清浄国」という誤った認識に陥り、治療・リハビリインフラをきちんと備えておらず、再犯を防ぐどころか煽っているという批判まで出ている。
食品医薬品安全処と関税庁などの関係省庁では、「十分な予算がなく専門人材を配置しなければならないのに、力不足」と訴えている。
国内に入ってくる麻薬類の流入量も急増している。昨年、検察と税関の麻薬類押収量は前年対比4倍以上増加した1,295.7キロで歴代最大値を記録した。
最高検察庁のホン・ワンヒ麻薬組織犯罪課長は「麻薬類は一度拡散すれば元に戻すことが非常に難しい」とし「急いで総合的な対策を立てなければ、いわゆる『麻薬先進国』のように政府が投薬者管理のために注射器を配る日が来る可能性がある」と強調した。(中央日報を一部削除編集)
(無料メルマガ『キムチパワー』2022年6月29日号)
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