私は朝鮮半島上空を乱舞する“紙爆弾”こと風船ビラを3,000枚以上を収集している。
韓国の脱北者団体が6月に北朝鮮に向けて医薬品やマスクなどを風船で散布したが、脱北者団体が北朝鮮に風船ビラを散布する本来の目的は、金王朝独裁体制の崩壊と北朝鮮人民に真の北朝鮮の事実を知らせるためのものであり、北朝鮮の人民に塗炭の苦しみを与えるような医薬品やマスクなど「見慣れないもの」を送るだろうか。
防疫当局の調査結果によると、黄海南道南東部、金剛郡伊布里の山野などで見慣れないものに触れた軍人と幼稚園児に新型コロナの症状が見られ、抗体検査で陽性と判定されたとのこと。
防疫当局は、4月中旬にこの地域から平壌を訪れた数人を介して感染が全国に広がったと結論付け、脱北者団体に責任を転嫁したが、この報告は北朝鮮特有の“虚偽報告”である。北朝鮮では、現場の担当者が感染拡大の責任を逃れるために過少または、虚偽の報告する慣習があり、金正恩には、実際の感染状況は伝わらなかった。
しかし、金正恩は自らの指導力で感染拡大を阻止したと過信し、4月15日の故金日成主席の生誕110周年記念行事や4月25日の朝鮮人民軍創建90周年の軍事パレードなど、感染拡大のリスクの高い行事を連発した。
これら慶祝事を前にして「実は我が国でも新型コロナ感染者が発生していました…」とは言えないだろう。
金正恩は、新型コロナ感染症発生を認めた直後に開かれた非常協議会で内閣や保健医療部門の担当者、中央検察所長らを厳しく批判し叱責したというが、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、4月末以降の累計の発熱患者は約458万人で、このうち99.1%は完治し、治療中の患者は5,000人弱とのこと。
医療体制が脆弱(ぜいじゃく)で、ワクチン接種も進んでいない北朝鮮での新型コロナ感染者数と完治者数をどう判断するのか。
一方、「腸の感染症」の発生が伝えられた黄海南道には、医薬品や食料が続々と送りこまれ、金正恩が真っ先に自宅の常備薬を送ったが、常備薬をもらった住民が「愛の不死薬」に涙を流したとのこと。
北朝鮮のメディアは、金正恩と夫人の李雪主の2人が薬品を用意している姿を報じたが、あきれたプロパガンダである。
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宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄
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