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安倍氏と統一教会は「ズブズブ」だったのか?元信者が自ら明かす“実態”

安倍元首相銃撃犯がその犯行動機として挙げている、旧統一教会への強い恨み。事件以降、安倍氏を含む複数の国会議員と統一教会との関係や、同団体の「実態」がスキャンダラスに報じられていますが、その真相はいかなるものなのでしょうか。今回、「元信者」として旧統一教会の真実を記しているのは、金沢大学法学類教授の仲正昌樹さん。仲正さんは東京大学在学中に入信し1992年に脱会する11年の間に知り得た、嘘偽りのない旧統一教会の内実を白日の下に晒すとともに、真実に基づかない誹謗中傷を問題視しています。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

統一教会問題を通して露わになる「反カルト」というカルトの問題

既に承知の人は多いと思うが、私は30年前に統一教会を脱会した。そのため、このたびの安倍首相殺害事件に関連して、いくつかのメディアで発言を求められた。統一教会に入信した経緯と辞めた経緯については、拙著『統一教会と私』(論創社)で詳しく述べたので、ここでは省略する。

統一教会に限らず、「脱会者」は、その組織での負の側面を(自分が直接経験していないことも含めて)誇張し、全否定するのが相場である。そうしないと、本当に“改心”したと認めてもらえないと不安になるからだ。私はそういう負の信仰告白のようなことが嫌なので、自分が経験したことをできるだけ正確に伝えるのを基本的スタンスにしている。そのせいでこれまでもしばしば、反トーイツを生きがいにしている連中から、「仲正はまだ洗脳が抜けてない(笑)」、などというような、根拠のない誹謗中傷を受けることがしばしばあった。

『羽鳥慎一モーニングショー』に出た時の、一部のツイッタラーたちの反応はかなり低レベルであった。「このしゃべり方はなんだ。洗脳解けてない(笑)」「この顔はまだ洗脳されている顔だ。俺には分かる」、などというのさえあった。この連中は、こういうのが統一教会批判になると思っているのだろうか。この反トーイツ・クラスターの連中の一連のツイートを見ると、どうも前日の放送で、自民党と統一教会の関係についてこれから詳しく伝えていく、と予告されたため、“アベとトーイツのおぞましい癒着の実体”が明らかにされていくと勝手に期待していたところ、元信者である私が、それと直接関係ない証言を中立的な感じて語り続けたので、八つ当たりしたくなったようだ。

この手の連中は、自分たちが思っているシナリオ通りに私が話さないと、すぐにヒステリックにわめき立てるので、何も言っても無駄だろうが、この際、多くの人が旧統一教会について抱いている誤解を解いておきたい。実体とかけ離れた“批判”は、ただの悪口である。

安倍氏と統一教会がズブズブの関係にあり、母親の入信のことで統一教会に恨みを抱いた容疑者が、安倍氏に怒りの矛先を向けたことをもって、安倍氏が統一教会とズブズブの関係にあるという人たちがいる。しかし、ズブズブとはどういうことなのか?

統一教会批判をしたがる左派系の人たちは、統一教会が主催・後援している反共的な政治活動に関わっている政治家、財界人、言論人などを、統一教会の信仰を持っているかのように言いたがる。本気でそう思っているとしたら、誇大妄想か、宗教について全く何も分かっていないかのいずれかだ。旧統一教会は、文鮮明という韓国人を再臨のメシアとして信奉する、韓国生まれの宗教団体だ。教義上、文教祖は霊界で、天皇より遥かに高いところに位置している。それどころか、天皇もアダムとエバの子孫である罪人であり、再臨のメシアによって祝福を受け、新生しない限り、地獄に行くしかない哀れな存在だ。そんな教義を右翼天皇主義者が受け入れるだろうか。クリスチャンにとっても、文教祖をイエスを超える存在と位置付ける教義は、反キリストの許しがたい教えだろう。

自民党など保守系の政治家の一部が、統一教会に好意的だったのは、もっぱら対共産主義で大同団結していたからだ。選挙など人手が必要な際に、勝共連合・統一教会の力を借りていた議員は少なくない――勝共連合は、統一教会が中心になって創設された政治団体で、事務局員のほとんどは統一教会の信者だが、一般会員は統一教会の教義とは関係のない保守系の人たちである。

自民党を支持する宗教団体はいくつかあり、それらは統一教会よりも遥かに信者数が多い。しかし大きい教団であるほど、自民党の言いなりになってくれないだろう。統一教会の信者数は多く見積もっても10万人程度で、さほど票数にはならないが、長期間にわたって献身的に働いてくれる若い信者を貸してくれるので、使い勝手はよかったのではないか。特に、清和会(安倍派)や旧中曽根派などのタカ派が多い派閥は、後援会に対する反共啓蒙活動に熱心に取り組む若者をほぼ注文通りに派遣してくれる統一教会は、ありがたかったろう。そのため、お付き合いで、統一教会の教義に関する講義を聴講した議員もごく少数いたようだ。その逆に、中選挙区時代に清和会とライバル関係にあった、宏池会などハト派の議員には、反統一教会的なスタンスを取る人が多かったようである。

しかし、私の知る限り、少なくとも統一教会の幹部クラスの人たちは、自民党の議員たちを本当のところ信用していなかった。都合が悪くなったらいつ切り捨てられるか分からないと怯えていた。統一教会の支援を受けていた議員の側も、下手に切ると、支援を得られなくなるだけでなく、それまでの関係を暴露されるかもしれないので、厄介な連中だと思っていたろう。

安倍氏自身はさほど選挙の心配はなかったろうが、祖父の岸信介元首相が、勝共連合の創設に協力して以来の付き合いがあったので、深く考えず、統一教会系の新たな政治団体である、天宙平和連合(UPF)に応援メッセージを送ってしまっただけのことだろう。「天宙」という統一教会用語を冠した政治団体に、応援メッセージを送るというのは、元信者である私から見ても軽率だが、それをもって、安倍氏が統一教会の隠れ信者であるかのように言うのは飛躍である。宗教団体と深く関係のある政治団体に応援メッセージを送ったら、その宗教の“信者”になるのであれば、自民党議員の多くは、仏教系・神道系の複数の宗教団体の信者をかけ持ちしていることになる。ましてや、統一教会が安倍氏などを背後から操っているかのように言うのは、妄想による陰謀論だ。

アメリカ大統領選やウクライナ危機をめぐる陰謀論がそうであるように、巧妙な陰謀論には若干の事実が混じっている。当事者も認めている事実を、確認されていない“真実”と面白おかしく結び付けて、大げさな話に仕立て上げる。旧統一教会の“指令”によって、自民党が、重要法案を旧統一教会に都合のいいように作り変えたことを示す具体的な証拠などない。千歩くらい譲って、(私がいた頃よりもずっと勢力が小さくなった)旧統一教会に自民党を動かす力があったとして、創価学会や、日本会議などの神道系の政治団体がそれを黙認するだろうか。

次に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会本体)と、UPFや勝共連合、原理研究会(CARP)、ハッピーワールド(商社)、世界日報、世界平和教授アカデミーなど関連組織との関係だが、少なくとも私がいた1992年頃までは、組織相互の関係がぎくしゃくし、これが同じ宗教を信じる人たちかと思うくらい仲が悪かった。世界日報が他の組織と決定的に仲違いして、訣別しようとする事件さえあった。

もともと、荒っぽくて激しい活動が好きな人が信者になる傾向があるところに、文教祖が、それぞれの組織を率いる幹部たちの間の競争を煽っていたふしがある。彼らは、自分こそ一番信仰心があることを、お父様(文教祖)に認めてもらおうと張り合う。日韓関係について、世界日報+勝共連合とCARPが真っ向から対立したこともある。どこかの組織が渉外活動で、政界や財界の有力者と良好な関係を築いても、他の組織には口出しさせなかった。そういうこともあって、互いのやっていることを詳しく知らなかった。世界平和統一家庭連合が、UPFと安倍氏の関係をよく知らないというのはあながち嘘ではないかもしれない。

山上容疑者の母親がどれくらい献金し、それで破産してしまったという事実を、家庭連合の本部が把握していなかった、というのも本当のような気がする。組織間で仲が悪いだけでなく、統一教会本体の中でも、布教や物販のやり方について統一性がなく、各地区の教会が独自のやり方で実績を上げようとしていた。責任者たちが実績をあげて自分の信仰を証明しようと競い合う。中には暴走して、他の信者から見ても明らかに詐欺と思えるようなこと――例えば、霊界から突如啓示を受けた(教会とは関係のない)霊能者を装うなど――をする者も出てくる。

文教祖は、〇〇のプロジェクト――ワシントン・タイムズの買収や北朝鮮への投資など――を進めるために▼▼億円くらい必要だと、日本の幹部たちに伝えるだけで、誰がどういう方法で稼いだかについてはほとんど関心を持っていないようだった。そのくせ霊感商法問題のようなことが起こると幹部たちを叱りつける。幹部たちはかなり追い込まれていて、下の者たちがどうやって金を作っているかあまり把握していなかったし、多額の壺や多宝塔を買った人の状況を細かく記録し、本部に報告するようなシステムはなかった。当時よりも組織がかなり弱体化しているであろう現在、情報管理だけはきちんと整備されるようになったとは考えにくい。山上容疑者の母親に直接事情を聴けば、把握できそうだが、そういう当たり前のこともすぐにはできない、いい加減な団体なのである。

宗教団体のくせに、内部での張り合いが原因で法的問題を起こしたり、信者やその家族の生活をちゃんと把握できていないのは根本的におかしい、という批判なら当たっていると私も思うが、日本を支配する極秘作戦のために、システマティックな集金装置を構築しているというのはかいかぶりすぎだ。

また、統一教会がものすごい洗脳技術を持っていて、一度入信すると、完全に心が支配され、脱会すると、霊たちにせめられ地獄に落ちるという恐怖を植え付けられるので、脱会は極めて困難だ、というのも妄想だ。特別な技術などない。集団生活して、一緒に祈祷したり、説教を聴いたり、物売りや布教のきつい実践をしているだけである。それらだけでも、効果的に組み合わせれば、十分マインドコントロールできると主張する人もいるだろうが、効果的に組み合わせることのできる心理学のプロを統一教会が抱えているわけではない。行き当たりばったりにやっているだけである。現に、いつのまにか信者をやめていたという人は、私が信者だった間もかなりの数いた。ほんの少しだけ教会に通い、数万円献金したくらいであれば、黙ってフェードアウトする。

脱会しにくいのは、既に集団生活している人や多額の献金をして、生活が苦しくなっている人たちだ。そういう、なかなか脱会しにくい人たちを生み出してしまう仕組みが問題だというのであれば、その通りだが、それを全て「洗脳」とか「マインドコントロール」という言葉で片付けようとするのは、他人の人格を貶める卑劣な発言である。そもそも、統一教会が関わった人間を全てマインドコントロールできるほどのすごい技術を持っているとしたら、世の中に安倍元首相や統一教会を誹謗する悪口ツイートがこんなに出回っているはずがない。彼らは、悪口ツイートをしている自分自身が、マインドコントロールで操られて、実は“統一教会”の利益に貢献しているとは思わないのだろうか。

私が、洗脳が解けない状態で元信者としてメディアに出て統一教会を事実上擁護している、と言っている連中は、暇なツイッタラーに見破られる程度の雑な洗脳を私に施すことが、統一教会にとってどんなメリットになると思っているのだろう。それとも自分たちには、真実を見抜く目があるとでも思っているのだろうか。

統一教会にいた時代から思ってきたことだが、統一教会に固執する左翼の人たちは、自分たちが教団の組織力、政界支配、洗脳技術などを過大評価することで、統一教会を実際より遥かに大きな存在に見せ、自民党等に売り込んでやっていること、また、見当外れな認識に基づく批判をすることで、信者たちの結束を強めていることに本当に気付いていないのだろうか。彼らの中には、トーイツやアベの悪口を言わないと生きていけない、かわいそうな人たち、「負の入信」をしてしまっている人たちがいるのではないかと思う。

金沢に、たびたび私につきまとい、何かイベントをやりましょう、と持ち掛けてくる元左翼活動家の老人がいる。2~3度話をしただけなのだが、何故か、自分は仲正関係のイベントを仕切る権利があると思い込んでいるようである。相手にしても何のメリットもなさそうなので、ずっと無視していたのだが、私が『情報ライブミヤネ屋』にビデオ出演した14日の深夜、12時すぎにどうやって調べたのか、金沢大学の宿舎の私の部屋の前にやってきて、ブザーを何度も鳴らし、近所迷惑も顧みず、「どうしてインタビューを受けたんだ」、と大声でがなりたて、ドアを乱暴に叩く。面倒なのでドアをあけず、今立て込んでいると言ったら、いったん帰った。その2日後の16日の夕方、私がうっかりしてドアの内鍵を閉め忘れていたため、それをいいことにドアを開け、玄関先にまで入り込み、「センセー、センセー」、とまたもや近所に聞こえるようにわめくので、無言でドアの外に押し出し、建物の外にまで押していった――怒鳴りつけると、相手にしてほしがっているこの老人を喜ばせることになるので、一言も発しなかった。この老人は、私を大声で脅せばいうことを聞かせられる、ひ弱なインテリとでも思って甘くみていたのだろう――なめられたものである。痛い目に遭わせるのを恐れたのか、「やるのか!」と力なくすごみながら、帰っていった。

アベやトーイツの陰謀論を生きがいにしているのは、こういう奴らなんだろうと感じた。念のためにもう一度言っておくが、統一教会や安倍元首相を事実に基づいて批判するのは何の問題もない。むしろ、どんどんやるべきだと思う。そこに、批判と中傷誹謗の区別がつかない、アンチ・カルト依存症の輩が便乗してきて、混乱させ、真面目な批判をかき消すことが問題なのである。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

image by: Chengwei Tu / Shutterstock.com

仲正昌樹

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