日本や欧米社会では、公正な選挙に基づいた民主主義が最も優れた社会制度であるという考えが支配的に見えます。しかし、衆議院では世襲議員が4割にもなると言われ、政治に金が深く関係するようになった現代の日本においては、必ずしも優れているとは言えないと持論を述べるのは、中部大学元教授の武田邦彦さんです。今回の『武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』』では、民主主義誕生の背景を解説。日本の場合は、江戸時代のように支配層である武士と金が結びつかず、蓄財できない制度の方が優れていた可能性に言及しています。
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「民主主義が絶対」とも言えない社会制度の実態
「民主主義」といい「選挙」や「政党」というのは近代国家には当然必要で、それこそが「封建制度」や「絶対王朝」などと違う民主主義の根幹のように思われている。でも、本当にそうであろうか?
「議会制度」、「民主主義」というような社会制度はヨーロッパで発生しているが、ヨーロッパという社会は人種差別があり、階級制度であり、貧富の差が激しく、攻撃的で残虐性を持っていた。
だから、そのような社会では「悪習(人種差別、階級意識、貧富の差など)」を緩和する強力な社会システムが必要なので、その対策として議会制度や民主主義が誕生したとも考えられる。
イギリスでは階級制が厳しく貴族は億万長者であり労働者は貧民、それに王政によって社会は停滞していたので、それを打破するための議会という感じで民主主義が台頭した。
また、フランスはブルボン家の絶対王政の下にいたので、暴力的で激しいフランス革命でそれをひっくり返す必要があった。
仮にであるが、「支配層が道徳的に優れて国民を第一にし、自らはお金を求めない」という国があったとしたら、民主主義は誕生していただろうか?逆に、「選挙で選ばれた人がウソつきで、自分だけが豊かになればよい」という場合には、選挙はかえってその国をダメにするだろう。
今から10年ほど前だろうか、ある立派な政治家が本を書きたいというので私に出版社の紹介をしてくれと言ってこられた。
そこで、私がある大手の出版社の編集長に連絡したところ、「政治家の本は売れないのです。どうせウソが書いてあるからと読者が思うからです」と言われて断られた。
この話は思想的なものではなく、実際に政治家の本は売れず、その理由が「ウソが書いてあるから」ということなら、日本は選挙などして民主主義の体裁を取るよりも、江戸時代に「士農工商」という職業分類があって、士は政治力は持っているけれどお金に触れてはならず、所得はお米なので蓄財ができないという制度が優れていたかもしれない。
でも「士農工商」という制度は世襲なので、能力のある人が必ずしも上にいるわけではないので、適当ではないという反論があると思うが、現在の衆議院では世襲議員が4割もいると言われているので、ほぼそれに近いだろう。
世襲議員が多くて政治に金が深く関係し、かつ政治家はウソをつくということになると、選挙を伴う民主主義がかならずしも優れた社会制度とは言えないとも思う。
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(『武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』』2022年7月20日号より一部抜粋)
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