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プーチンが習近平に激怒。二次的制裁を恐れ対ロシア輸出を絞る中国の狡猾

プーチン大統領のウクライナ侵攻により、欧州の平和が破られてから半年。これまでたびたび停戦の取り組みがなされてきましたが、いずれも実を結ぶことなく現在に至っています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、この戦争の現状と、和解を巡りウクライナとロシアとの間に大きな温度差がある理由を解説。さらに、プーチン大統領が習近平中国国家主席に対して激怒しているという情報を紹介しています。

ウクライナ戦争の現状と大局

ロシアがウクライナに侵攻して、もうすぐ半年になります。現状はどうなっているのでしょうか。

まず戦局を見てみましょう。

約半年が経過し、現状ロシア軍は、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州を支配しています。ただ、ドネツク州、ザポリージャ州は、州全域を支配できているわけではありません。

ウクライナ軍は現在、クリミアのすぐ北にあるヘルソン州を奪還しようとしています。そして、最近クリミアで、爆発が相次いでいます。これは、クリミア→ヘルソンの補給をたつためのウクライナ軍の攻撃と見られています。

プーチンは当初、FSB第5局からの情報を基に、「3日で首都キーウを落とせる」と考えていたそうです。しかし、現実は、かなり厳しいことがわかってきました。

停戦へのウクライナとロシアの立場 ←h3タイトル

停戦について、ウクライナとロシアは、現状どのような立場なのでしょうか?

ロシア側は、積極的に停戦交渉したいと考えています。ただ条件は、「ロシア軍が占領した土地は、ロシアのもの」。つまり、ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンは、ルガンスク、ドネツクのように独立するか、あるいは、ロシア領になる。

なぜ、こういう話になるのでしょうか?

ロシア国民は、ウクライナ侵攻前から、ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国は、「ロシアの属国」であることを理解していました。ですから、「ルガンスク、ドネツクの独立を勝ち取った」だけでは、数万人のロシア兵が死んだ意味がわかりません。だから、ザポリージャ、ヘルソンも必要なのです。

ただ、ロシアがザポリージャ、ヘルソンを編入すると、世界中のロシア擁護派が困ることになります。なぜでしょうか?ロシア擁護派は、「プーチンがウクライナに侵攻した理由は、ルガンスク、ドネツクのロシア系住民をジェノサイドから守りたいだけだ。プーチンに領土的野心はない!」などと主張していたからです。彼らは、ロシアがザポリージャ、ヘルソンを併合したら、今度はどうやってプーチンを擁護するのでしょうか?

一方、ウクライナは、停戦交渉を拒否しています。なぜでしょうか?

ゼレンスキーは、大統領として、

といったロシア側の条件を受け入れることは、決してできません。いえ、もしロシア軍が各地で圧勝していて、ウクライナ軍は手も足もでずボロボロであれば、受け入れるかもしれません。しかし、ウクライナ軍は、欧米からの軍事支援で、ロシア軍と互角に戦っている。「勝ち目がある。クリミアも取り戻すことができる!」と多くのウクライナ人が考えているので、停戦交渉の必要性を感じないのです。

ウクライナもロシアも、「勝ち目がある」と考えている。それで、ウクライナ戦争は長期化しています。

欧米の立場

ウクライナを支援する欧米ですが、大きく二つの陣営にわかれています。すなわち、「プーチンロシアを打倒せよ派!」と「停戦交渉派」です。

「プーチンロシアを打倒せよ派!」は、アメリカ、イギリス、ポーランド、バルト三国などです。アメリカ、イギリスは現在、ウクライナ戦争が原因のインフレで苦しんでいます。しかし、「ウクライナが勝つまで支援する」という立場は揺らがないでしょう。イギリスのボリス・ジョンソン首相はまもなく引退しますが、新首相が誰になっても変わらないはずです。

ポーランドとバルト三国は、なぜ強硬なのでしょうか?「ロシアがウクライナに勝てば、次はポーランド、バルト三国に攻めてくる」と恐れているからです。そして、その恐れは正当なものでしょう。

「停戦交渉派」は、ドイツ、フランス、イタリアです。彼らは、「ウクライナが領土の一部をロシアに譲ってもいいから、早く停戦してほしい」と願っています。理由は、エネルギー(特に天然ガス)のロシア依存度が高いからです。2020年時点で、ドイツは58%、イタリアは40%、フランスは20%でした。

ユーロ圏のインフレ率は7月、前年同月比で8.9%でした。それでも、バルト三国やポーランドのように、「ウクライナが負ければ次は俺たちだ」という危機感があれば、ロシアに対して強気を維持できるでしょう。

しかし、ドイツ、フランス、イタリアは、「ウクライナが負けても、ポーランドがある。ポーランドはNATO加盟国。ロシアでも、NATOを敵に回すようなことはしないだろう」と考えている。それで、ドイツ、フランス、イタリアは、ロシアに融和的なのです。

中国、インドは?

中国とインドは、しばしば「ロシアの味方」と報じられますが、「中立」といえるでしょう。

中国のロシア産原油輸入は5月、前年比で55%も増加しています。インドは、もっとすごいです。インド商工省によるとロシアからの原油輸入は2021年の日量9万バレル(輸入の2%)から、2022年4月には日量39万バレル(同8%)に増加しました。こちらは、4.3倍増です。

なぜ、中印はロシア産原油を買うかというと、安いからです。

平時であれば、中国の原油の輸入価格はロシア産もサウジ産も大きな差はない。だがロシアのウクライナ侵攻が始まって以降、両者の価格差は月を追うごとに拡大している。具体的には、中国が6月に輸入したロシア産原油の平均価格は1バレルあたり94.6ドル(約1万2,946円)と、サウジ産の同116.6ドル(約1万5,957円)より18.8%も安かった。
(東洋経済オンライン2022年8月9日)

一方、中国は、対ロシア輸出を減らしています。ロイター7月13日を見てみましょう。

中国の6月の対ロシア輸出は4カ月連続で減少した。ロシアからの輸入は高い伸びを維持した。中国税関総署が13日発表した統計を基にロイターが算出した。

6月の中国の対ロ輸出(ドル建て)は前年同月比17%減。5月は8.6%減だった。6月のロシアからの輸入は56%増。5月も80%増加していた。

輸入が高い伸びなのは、原油、天然ガスの輸入が増えているから。では、対ロ輸出は、なぜ減っているのでしょうか?

国際的な対ロシア制裁が響き、低い伸びにとどまった。
(同前)

そうなのです。中国は、欧米からの「二次的制裁」を恐れ、ロシアへの輸出を減らしているのです。要するに中国は、ロシア産原油は安いから買う。でも、二次的制裁のリスクがある製品は、ロシアに輸出しない、というのが基本的な立場です。中国は、ロシアを助けているのではなく、中国自身を助けているのでしょう。

元モスクワ国際関係大学教授ソロヴェイ氏によると、「プーチンは、習近平が助けてくれないので激怒している」そうです。

まとめ

ここまでをまとめてみましょう。

となります。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年8月20日号より一部抜粋)

image by: Free Wind 2014 / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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