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Hand writing some the word "Japanese" in Kana syllabary on a blackboard in a Japanese class. Some books and school materials.

無意識で使っているけど意外と難しい「とか」という日本語の正しい使い方

私たちが普段なにげなく使っている、「とか」という日本語。この言葉を真剣に考えてみると、意外とあいまいで難しいものなんだそうです。今回のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』では、朝日新聞の校閲センター長を長く務め、文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開する著者の前田さんが、「とか」の意味と役割について詳しく語っています。

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あいまいな言い方「とか」あるわけで…

「先輩、アイスとか食べます?」

と言ったときの「とか」って何だろう。

「とか」は、物事を並べて紹介するときに使う助詞です。しかしこの場合、列挙する具体的なものは明示されていません。

シチュエーションによっても解釈は違ってくるような気がします。たとえば、

A:食事の後のデザートを選ぶとき
B:仲間うちでアイスクリームの話をしていて、先輩に話を振ったとき

Aの場合なら、二つほど解釈の仕方がありそうです。

1)「先輩、アイスを食べますか?」
2)「先輩、何かアイスのような冷たいスイーツを食べますか?」

1のように断定的に言えばいいところを「アイスとか」という聞き方で、婉曲的に表現しているように見えます。先輩に気を使っているとも言えます。

「先輩、アイスなどはいかがですか」

という言い回しに近いかもしれません。

2は並列して伝えることを暗にぼやかしているように思えます。

冷たいスイーツの代表として「アイス」を言ったもので、それ以外の何かであってもいいのです。先輩が食べたいと思うものがあれば聞いておこうという姿勢です。

Bの状況だと1、2の解釈とは異なるかもしれません。

アイスクリーム談議に加わっている先輩に対して、

「アイスクリームなんて食べそうもないけれど」

という予想外の思いが「とか」に込められているようにも思えます。

もう少し、見ていきます。

断定をさける「とか」の役割

1)店先にはキャベツ・キュウリ・ナスが並んでいる。
2)店先にはキャベツとキュウリとナスが並んでいる。
3)店先にはキャベツやキュウリやナスが並んでいる。
4)店先にはキャベツとかキュウリとかナスが並んでいる。

1は中黒(・)でつないでいます。単純に野菜を並べたもので、ここには特に書き手の意図は見えません。ここに書かれている以外に、野菜が店先に並んでいるようには読めません。

2はむしろ、店頭に並んでいる野菜はこれだけです、というやや強めの主張があるように思えます。

3は、他にもいくつかの野菜が並んでいるが、キャベツやキュウリやナスがその代表として書かれているように理解できます。

4になると、2の「と」より断定的な印象が和らぎます。3に近い印象がありますが、4は店先に並んでいることに大きな関心がないようにも読めてしまいます。印象がグッと薄くなるのです。

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心理的要素の反映

もう一つ、「とか」の例を見てみましょう。

誕生日のお祝いに、花とか贈っておいてください。

こうすると、「取りあえず」といった感じが強くなりますね。並列表現のなかでも「とか」は、やや距離を置いた心理要素が強く反映しているようです。

改めて、「と」「とか」「や」の意味と用法を整理してみます。

「と」の意味と役割

並列の表現に使われる助詞の「と」は、同等な立場の関係です。そして、列挙された事例は、いま取り上げる事柄の全てで、一つのまとまりとなっていることがわかります。

ビールとコップとつまみを持ってきて。

とあれば、その三つをそろえて行くことで、どれを欠いても意味がありません。また、

月とすっぽん
見ると聞くとは大違い

のように、二つのことばを「と」でつなぐと対比の関係も表されます。

「とか」のの意味と役割

「と」で並べた事柄は、絶対のものです。ところが「とか」は、列挙された事柄は絶対ではなく断定の度合いが低いのです。

ビールとかコップとかつまみを持ってきて。

であれば、コップがジョッキでもいいでしょうし、つまみはご飯のおかずであってもかまいません。さすがにビールの代わりに日本酒を持っていったら、嫌みの一つでもいわれそうですが、なければしょうがないという感覚にもなります。かなり、裁量を委ねた形の表現になるのです。

そのため、心理的要素を含む表現にも利用されるのです。

「や」の意味と役割

物事をあれこれ並べて、その中のそれぞれを念頭に置いたうえで、その周辺にあるものを取り立てる意識が働きます。

ビールやコップやつまみを持ってきて。

というのは、このほかにも必要な皿や調味料なども含まれます。ビールとコップとつまみは、例示でしかないのです。

事例を並列していく表現に、助詞が大きく関わっていることが、日本語の大きな特徴だと言えます。心理的な機微を助詞で表すことがわかると、文章表現にも幅が生まれてきます。

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image by: Shutterstock.com

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未來交創株式会社代表取締役/文筆家 朝日新聞 元校閲センター長・用語幹事 早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了 十数年にわたり、漢字や日本語に関するコラム「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」を始め、時代を映すことばエッセイ「あのとき」を朝日新聞に連載。2019年に未來交創を立ち上げ、ビジネスの在り方を文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開。大学のキャリアセミナー、企業・自治体の広報研修に多数出講、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも登場している。 《著書》 『マジ文章書けないんだけど』(21年4月現在9.4万部、大和書房)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)、『漢字んな話』(三省堂)など多数。

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【著者】 前田安正 【月額】 ¥660/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 5日・15日・25日

 

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