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北朝鮮食堂で働く女性5人が連続脱北。彼女たちを掻き立てたものは何か?

日本の上空を弾道ミサイルが通過した4日朝、5年ぶりの「Jアラート」が発動し、日本は北朝鮮のミサイルに関する報道で溢れました。そして先日、北朝鮮のMZ世代の女性5人が連続脱北をしたニュースが韓国を賑わせたのをご存知でしょうか。その脱北の準備を手助けした男性が語った支援の方法と、この集団脱北事件が影響する今後について、韓国在住歴30年を超える日本人著者が発行するメルマガ『 キムチパワー 』が紹介しています。

北女性5人、連続脱北

中央アジアウズベキスタンの首都タシケントの北朝鮮食堂の女性従業員5人全員が5月から4か月間、3回にわたって食堂を脱出して韓国に入ってきたことが9月30日分かった。彼女らはいずれも20代前半のMZ世代(1980~2000年代生まれ)であることが分かった。

今回の連続脱北の扉を開いた女性従業員A氏は、現地の韓国人と異性交際をして脱北決心をしたという。彼女がまず脱北すると、残りの4人も後について亡命の途についたという。海外の北朝鮮食堂職員の集団脱北は2016年4月、中国寧波の「柳京食堂」脱出以後、約6年ぶりだ。この5年間、新型コロナウイルス感染症の拡散と文在寅政府の北朝鮮のご機嫌伺い、脱北漁民強制送還事件などで脱北者が急減する中、集団脱北事件が再び発生した格好だ。

ウズベキスタン現地の消息筋や情報当局などによると、タシケント市内にある北朝鮮レストラン「ネ・コヒャン(私の故郷)」の従業員5人は、今年5月に1人、6月に1人、8月に3人の計3回にわたって脱北した。彼女らは現地の韓国大使館を訪れ、亡命の意思を明らかにしたという。

北朝鮮食堂「私の故郷」は2019年9月頃にオープンした。現地人だけでなく、韓国人や旅行客もよく訪れる場所だったという。韓国国内の有名YouTuberたちもこの食堂を訪ねて紹介したりもした。ところでこれら従業員全員が脱北して韓国に来たのだ。現在、この食堂は廃業状態だという。

今回の脱北行列は従業員A氏が5月に初めて亡命してから連鎖的に起きたという。20代前半のA氏は、現地の韓国同胞B氏と相当期間異性交際をし、この過程で脱北を決心したという。B氏は年のいった大学生で、タシュケントに長く居住していたという。現地消息筋はこの日、本紙(朝鮮日報)との通話で「2人がラブレターをやりとりするなど真剣に交際してきたと聞いている」とし「A氏が脱北を決心すると、B氏がA氏が働く食堂から韓国大使館に行く略図を書いた手紙を伝えるなど積極的に支援した」と話した。彼らの脱北のニュースは、客が多かった北朝鮮食堂「私の故郷」が突然廃業し、現地同胞社会に広がったという。

 

朝鮮日報が入手した手紙を見れば、韓国僑民B氏はA氏に「オッパ(お兄さんの意でここでは僑民B氏をさす)は○○(A氏=北朝鮮女性)が自由なところできれいに最高の女性として生活してほしい」「堂々とした大韓民国の女性として他人の視線を気にせずに手を握って歩きながらおいしい食べ物も食べて街を闊歩したい」「愛している」と書いた。

彼はまた「故郷に帰って一生の困難と監視・統制の中で生きるよりは、韓国生活は基本だけちゃんとやって生きても自由と人権、人の権利、すべてが保障される社会だ。君が少しでも努力すれば、いくらでも自由に暮らせる」と話した。

その一方で、B氏は韓国定着が容易ではないという点に言及した。彼は「最初から韓国生活がパラダイスのように楽で簡単ではないけれど、少し大変な時期さえ過ぎれば適応し、本当によく来たなという気がするだろう」と話した。また「多少のお金を送るから、靴の下敷きの下に左右両側に分散して入れておきなさい」「大使館に到着したらテレグラムを使って私に連絡しなさい」のような説明もした。

彼はコンピューターで作成して出力したA4用紙2枚分量の手紙にこのような内容を盛り込んで、手紙下段の空白にはボールペンで大使館略図を直接描いた。手紙の文には韓国語の正書法に合わない部分がいくつかあった(僑民として生きているため韓国語の厳密な正書法に精通していないといった意味か。韓国語は、まともに書こうとするとかなり難しい)。

以後、A氏は5月にこっそり食堂を抜け出して韓国大使館に逃げ込み亡命意思を明らかにしたという。その1か月後の6月、他の従業員1人も同じ方法で脱北したのに続き、8月には残りの職員3人が一緒に亡命の途についた。

現地同胞によると、A氏に続き他の従業員1人が「行方不明」になった時、北朝鮮保衛部が急派され調査を行った。この過程で、残りの女性従業員3人は強制帰国措置を受けた後、極刑に処されかねないという恐怖を感じ、脱北を決心したという。情報当局によると、これら5人全員が無事入国し、合同調査を受け、韓国に安全に滞在しているという。

 

今回の集団脱北事件は、この5年間、脱北者数が急減する中で発生し、注目される。統一部によると、入国脱北者数は2012年1,502人を皮切りに2013年から2019年まで1,000~1,500人程度を維持した。しかし、文在寅政府に入って「(文在寅は)金正恩報道官」だという話が出回り、コロナ事態で中朝国境が封鎖され、脱北者数は急減した。特に2019年、北朝鮮漁民2人が脱北して韓国に来たが、強制送還された事件が北朝鮮内部に知らされ、亡命はさらに減っていった。2020年229人だった入国脱北者数は、昨年63人にまで落ちた。

対北朝鮮消息筋は「コロナ危機が終われば北朝鮮MZ世代の脱北行列が増える恐れがある」と話した。統一部の資料によると、2012年の金正恩(キム・ジョンウン)政権後10年間に脱北した1万701人のうち、20代が3,194人(30%)で最も大きな割合を占めた。30代も24%に達した。いわゆるMZ世代が脱北者全体の半分以上を占めることになる。2019年に強制送還された脱北漁民2人も90年代生まれのMZ世代だった。

情報当局の関係者は、「北朝鮮のMZ世代は、金氏政権に盲目的な忠誠心を見せる既成世代とは違って、忠誠に対する補償を望む心理が強い」とし、「北朝鮮がMZ世代を守るために政策変化を与えているが、食糧不足など経済悪化でMZ民心をつかむことは極めて困難になっている」と話した。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年10月1日号)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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