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国内外で孤立するプーチンにとって、ボタンを押さぬ理由がなくなった核兵器

プーチン大統領が「猫を噛む窮鼠」となってしまう日は、そう遠くない未来に訪れる可能性もあるようです。今回、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏は、これまでロシアに対して表立った批判を行ってこなかった中国とインドが姿勢を一転させたことにより、プーチン大統領を取り巻く環境が大きく変化したと分析。追い詰められたプーチン氏にとって、核兵器はもはや抑止のための道具だけではなくなっているとの見立てを記しています。

今後プーチン大統領が「大暴走」する背景

ロシアによるウクライナ侵攻から8ヶ月が経過するが、ロシアを取り巻く状況が変化している。これまでは欧米や日本などがロシア非難を強め、ロシアへ制裁を強化する一方、中国やインドなどは非難や制裁を回避し、経済的にはむしろ関係を強化し、多くの中小国はそれを傍観する・沈黙を貫くという構図だった。しかし、ここに来てその中国やインドもこれ以上はロシアに付き合えないという姿勢を示し始め、国内からは多くのロシア人が脱出を図るなど、プーチン大統領を取り巻く内外環境は極めて悪化している。今後、プーチン大統領による暴走に歯止めが掛からない恐れがある。

プーチン大統領は9月21日、軍隊経験者や予備役を招集するため部分的動員令を発令した。しかし、それによって沈静化していた反プーチンの声が国内各地に一気に広がり、今日までにカザフスタンやジョージア、フィンランドやエストニアなどを中心に20万人以上のロシア人が脱出した。中にはボートで海を渡り米国のアラスカに到達した亡命希望者も発見されたという。本来対象にならない国民にまで動員が拡大しており、プーチン政権は今回の力でこれをねじ伏せるだろうが、反プーチンの不満は高まるばかりだ。

また、プーチン大統領はドネツクとルハンシク、サボリージャとヘルソンの東部南部4州でロシア編入の是非を問う住民投票を行い、同4州をロシアへ併合する条約に署名した。今後、同4州ではロシア語を公用語とするなどいわゆる“ロシア化”をいっそう強化することになるだろうが、既にプーチン大統領からすれば同4州において“ロシア化”という言葉は存在しない。ロシアの一部であるのだから“ロシア化”は不適切で、欧米が勝手に解釈しているに過ぎないのである。

部分的動員と東部4州の併合は、明らかにロシアの劣勢、プーチン大統領の焦りを示すものだ。当然ながら、ロシア軍兵士の数が足りないことから兵士を新たに動員する必要性に迫られた。4州の併合は、現状ではこれ以上戦況で優勢に立てないことから、とりあえず現段階で最大限できることを実施し、そして政治的レガシーとしてそれを象徴化し、国民にアピールする狙いがあるのだろう。

だが、劣勢に伴うプーチン大統領の行動は、既に外からは暴走に捉えられている。プーチン大統領は後ろ盾だった中国やインドからも見放されようとしている。9月半ば、プーチン大統領と習国家主席がウズベキスタンで2月ぶりに対面した。両者は日露関係の重要性を改めて確認し合ったが、ウクライナ問題について習国家主席は終始無言で、プーチン大統領は「中国の懸念を理解している。中国の中立的な立場に感謝する」と発言した。

ウクライナ侵攻以降、中露の間で摩擦が表面化するのはおそらくこれが初めてだったが、プーチン大統領としては最大の後ろ盾だった中国の変化は極めて重いものになったはずだ。中国としても、欧米を中心に国際社会から“中国はいつまでもロシア”と仲間だと評価されることは避けたいのが本音だ。

プーチン氏にとって抑止の道具の範囲を超えた核兵器

そして、伝統的友好国であるインドは中国以上にロシアを明確に非難した。インドのモディ首相は9月はじめ、ロシア極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムの場でプーチン大統領と会談し、「今は戦争や紛争の時代ではない」と明確にロシアのウクライナ侵攻を批判した。

インドは日本・米国・オーストラリアとともに自由で開かれたインド太平洋の実現を目指すクアッドを構成しており、欧米陣営からロシアと距離を置くよう求める強いプレッシャーに晒されている。インドとロシアは武器供与などで伝統的友好関係にあり、モディ首相は難しい舵取りを余儀なくされてきた。しかし、侵攻が長期化する中でこれ以上はロシアを庇いきれないと判断し、上述の発言をプーチン大統領にすることとなった。

これらの直後、プーチン大統領は部分的動員と東部4州併合という行動に出た。既に国際社会ではウクライナ侵攻自体がプーチン大統領の暴走に値するが、部分的動員と東部4州併合というものは中国やインドにとっても暴走に捉えられていることだろう。中国やインドという存在を失うことは、プーチン大統領にとって極めて重いものだ。もう理解してくれるのは、欧州最後の独裁者といわれるベラルーシのルカチェンコ大統領しかいないかも知れない。

以上のように、プーチン大統領を取り巻く環境は内外双方で悪化している。今後はそれが悪化すればするほど、プーチン大統領がさらに暴走しないかが懸念される。そのような中、懸念されるのがウクライナのNATO加盟に関する動向だ。ゼレンスキー大統領は東部4州の併合に対抗し、NATOに加盟する意思を明らかにした。

既に、NATOに加盟する中・東欧9カ国の首脳も10月2日、ウクライナのNATO加盟を支持する方針を明らかにした。支持を表明したのはチェコやスロバキア、ポーランドやルーマニア、バルト3国などだが、プーチン大統領が長年NATOの東方拡大に対して強い不満を抱き、それがウクライナ侵攻の背景にあることから、こういったNATOによる動きはプーチン大統領をさらに挑発する恐れがある。

プーチン大統領にとれる選択肢は狭まってきている。よって、影響を一部の地域に制限できる小型戦術核などは具体的な選択肢になっている恐れがある。核兵器というと広島長崎を思い浮かべてしますが、もっと局地的な核使用は可能である。これまでのプーチン大統領の発言や行動からは、核は決して抑止のための道具だけではなくなっている。

image by: plavi011 / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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