当初は、原子力規制委員会が定めた新しい安全基準に1点でも適合しない原発は、再稼働の申請がことごとく却下されました。しかし、2014年5月、安倍政権が「内閣人事局」を設立し、各省庁の官僚の人事権を握るようになると、原子力規制委員会の独立性や公平性にも疑問符が付くようになり始めたのです。原子力規制委員会のメンバーは官僚ではありませんが、官僚に支配された省庁の下部組織だからです。
安全基準を満たしていない原発でも、「いついつまでに基準を満たすようにする」という覚書だけで再稼働を容認する。現場の理解が得られていないのに放射能汚染水を「処理水」と言い換えて「海洋放出」を許可する。「内閣人事局」が発足した2014年5月以降、原子力規制委員会の判断は、明らかに首相官邸に常駐する経産省の高級官僚からの圧力が影響し始めましたように見えます。
そして今回、岸田首相から「原発の運転期間の延長」を指示された経産省は、まずは現在の「最長60年」と定めているルールを撤廃して、原発の運転期間を「青天井」にするというトンデモ案を検討しました。しかし、そもそも現在の「最長60年」というルールは、福島第1原発事故を受けて定められたものなのです。その福島第1原発が、事故から12年が経とうとしている今も収束の目途が立たない状況で、ここでの「青天井」など国民の理解が得られるわけがありません。
そこで経産省は、とんでもない悪知恵を働かせたのです。現在の「原則40年だが、最長20年延長できる」というルールは維持した上で、「原子力規制委員会の審査や司法判断などで原発が停止していた期間は累計年数から除外する」という補足条項を新設するように調整しているのです。たとえば、これまでに合計で10年間ほど停止していた原発なら、基本の40年と延長分の20年にプラスして、さらに10年も稼働できるという方式です。
原発は、別に稼働していなくても、高濃度の放射能によって各部が劣化し続けているため、これはあまりにも非科学的な屁理屈です。しかし、この経産省の悪知恵を原子力規制委員会はシレッと容認してしまいそうなのです。福島第1原発事故後、原子力規制委員会は「原則40年と定めた運転期間の上限は科学的根拠のない政治判断であり、規制委は意見を述べる立場にない」との見解を示したからです。
科学的根拠に基づく判断であれば原子力規制委員会としての意見を述べるが、科学を無視して政治が強引に決めたことについてはコメントできない、というわけです。そう言えば、新型コロナの専門家会議の尾身茂氏も、感染拡大中に安倍元首相が「GoToトラベル」を進めたり、行動制限を緩和した時に、「これは政治判断なので専門家会議としては意見を述べる立場にない」と繰り返していましたよね。ですから、同じく科学的根拠のない今回の原発延長案についても、原子力規制委員会は同じスタンスを取るものと思われ、結果的に原発推進派の言いなりに進んで行くと見られています。
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