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蘇生した“安倍の舎弟”。統一教会疑惑の萩生田光一が党三役に就けた訳

旧統一教会疑惑で閣僚の座を追われた萩生田光一政調会長が、ここに来てにわかに存在感を高めています。一時は政治生命の危機すら囁かれた萩生田氏は、なぜここまで影響力を取り戻すことができたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、自民党内の複雑な権力構造を分析。その上で、党内にばかり向けられ国民を幸福に導くことのない岸田首相の「聞く力」に対して、懐疑的な視線を向けています。

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首相の無策に乗じ統一教会疑惑の萩生田氏がやりたい放題

この国はどんどん危険な方向に進んでいるような気がする。老朽化した原発の運転期間をこれまでの最長60年からさらに伸ばし、新増設も認める計画を示したと思えば、今度は2023年から5年間の防衛費を現行計画の1.5倍以上にあたる43兆円に膨らませると言い出した。

なんでも岸田首相は、バイデン米大統領との首脳会談でトマホークを最大500発購入すると約束しているそうである。

トマホークは、射程が1,250キロメートル以上で、GPSの位置情報を活用して目標をピンポイントで攻撃できる。米軍が1991年の湾岸戦争に投入して以降、数々の戦争で使用されてきた巡航ミサイルだ。

「反撃能力」を持つためだが、もはや自衛とか専守防衛とかいう範囲を飛び越えている。軍事的な緊張が高まり、戦争に巻き込まれる危険は格段に増すだろう。

しかも、この防衛力強化の財源を増税で賄おうという意見が政府の有識者会議で強まり、財界は財界で「法人税は困る、国民全体で負担を」と自分勝手なことを言って、予防線をはる始末だ。

防衛力強化にしても、原発推進策にしても、電力会社や原発関連企業、米軍産複合体などが喜ぶだけのことだが、安倍元首相は強力な旗振り役をつとめてきた。いまや党内最大派閥「清和会」(安倍派)の重要政策といってもいい。

安倍氏不在の穴を埋めるように、清和会銘柄の政策を推進する中心人物となったのが同派閥のメンバーでもある萩生田政調会長だ。

防衛費の増額では派閥に48兆円の要求を出させ、43兆円でまとめあげた。原発復活シナリオは経産相のころに自ら作成を進めた。統治能力に欠ける岸田首相の弱みをついて、思うがまま政策の舵取りをしているようにさえ見える。

清和会は後継会長選びで迷走しているが、政調会長である萩生田氏は、派閥の政策を実現させることによって安倍氏の遺志を継ぐ姿勢をアピールできるのだ。

12月11日の日台関係フォーラムに出席するため自民党三役としては19年ぶりに台湾を訪問し蔡英文総統らに会うのも、台湾を重視していた安倍氏の思いを遂げる意味合いがある。着々と後継者らしい実績の積み上げをはかっている。

統一教会とのズブズブの関係がばれて一時は政治生命の危機かと思われた萩生田氏だが、経産相から政調会長に移動させた岸田首相の人事によって命脈を保った。

それどころか、閣僚の“辞任ドミノ”報道が続く間に、その騒ぎの陰で息を吹き返したとみえ、同じ統一教会問題で経済再生担当大臣を辞任したばかりの山際大志郎氏を、萩生田氏のひと声で党の新型コロナウイルス等感染症対策本部長に就任させるという荒業までやってのけた。

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こういう経緯をながめて、気になってきたことがある。今年8月10日の内閣改造で萩生田経産相が閣外に出て党政調会長に就く直前の同7日、岸田首相と会談した中身だ。

同8日の記者会見でその会談について問われた萩生田氏はこう語っている。

「昨日こういう時期なので、人事を含めたいろいろな話、意見交換をしました。(中略)私自身のことは、最終的に任命権者である総理・総裁が決定するのだと思いますが、1年経済産業大臣を務めさせていただいて(中略)こんな大変なことを人が替わって大丈夫なのかという思いがありますので、当然継続してやっていくことが望ましいのではないかと思っていますし、一部報道で骨格は維持すると出ていて、俺は骨格ではなかったのかという、そんな思いもございます…」

もちろん前日の岸田首相との話し合いで、統一教会との癒着問題を国会で追及されるのを避けるために閣外に出ることが決まったはずだが、その時すでに自分を政調会長にしてもらう約束をとりつけていたと思われるのだ。その余裕があるからこそ、「こんな大変なことを人が替わって大丈夫なのか」と、いかにも経産相ポストに未練があるかのような“三味線”を弾いたのではないだろうか。

岸田首相もまた、萩生田氏を政権中枢から外してしまえば、清和会をはじめとする党内保守勢力へのグリップが効かなくなることを恐れ、党三役の1人として残したのであろう。安倍氏の存在が果たしていた役どころを、萩生田氏の重用で補いたいとソロバンをはじいたのではなかったか。

この人事のあおりで、それまで政調会長だった高市早苗氏は内閣府特命担当大臣になった。組閣前夜に岸田総理から入閣要請の電話があったさい強く抵抗したものの受け入れられなかったという。総裁選出馬を後押ししてくれた安倍元首相も今はなく、清和会にも戻れずに孤立している高市氏が、岸田首相に軽んじられた格好である。

しかし一方で岸田首相には、安倍・菅政権を通じて長く続いてきた清和会支配の政治を終焉させたいという思いがなくはないだろう。その点からいえば、萩生田氏を政権中枢から放り出すことで清和会の勢力を削ぐという選択肢もあったはずである。

それができなかったということは、まだ安倍晋三という“信仰対象”が清和会のなかで生き続け、分裂の危機を脱して結束力を復活させるだけのエネルギー源として残っていると感じられたからに違いない。その“祭主”を捜すとすれば、萩生田氏に落ち着くと岸田首相はみたに違いない。

安倍元首相が凶弾に倒れた今年7月8日の午後1時過ぎ、経済産業大臣だった萩生田氏は、執務を中断し、衆議院第1議員会館12階の安倍事務所にかけつけた。その日のブログにこう書いている。

私を国政に導いていただいた恩人であり、かけがえのない同志であり、優しい兄貴でした。今は言葉になりません。

萩生田氏は明治大学在学中に八王子市議の私設秘書となり、青年会議所のメンバーとして拉致被害者の会の講演会に携わったことから安倍元首相と出会った。

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親分のためなら自ら泥をかぶることさえ厭わない。義理と人情を地で行くような男は、安倍氏の内懐に飛び込み、信頼を勝ち得ていったのだろう。2013年5月10日に萩生田氏が「GW最終日は青空のもと安倍総理とゴルフをご一緒した」「前日は夕方から河口湖の別荘にてBBQ」との説明とともに投稿したブログの写真には、加計学園疑惑の中心人物である安倍氏、加計孝太郎氏とともにビールを手に談笑する姿がおさめられていた。

こういう間柄だからこそ、暗殺事件当初は、犯人に対する怒りにふるえ、親分を失った悲嘆にくれていただろうが、政調会長になり、統一教会との関係についての追及が下火になるにつれ、安倍氏の第一の子分として、むくむくと野心が頭をもたげてきたに違いない。日に日に萩生田氏の言動は迫力を増していった。総合経済対策の規模を25兆円にしたい財務省官僚を一喝し、30兆円規模にさせた剛腕ぶりは、その一例である。

萩生田政調会長の活発な動きを苦々しく思っていたかもしれないのは、世耕参院幹事長だ。世耕氏をリーダーとする参院安倍派「清風会」(40人)は派内最大勢力であり、世耕氏もまた派閥の後継会長には自分こそがふさわしいと思っている一人に違いないからだ。

岸田首相が、寺田稔総務大臣を更迭するかどうか迷っていたおり、参院自民党の幹部に電話して相談していたという朝日新聞の記事があるが、その参院幹部とはおそらく世耕氏のことであろう。

岸田首相は、11月23日に公邸で茂木幹事長と面会、24日に麻生副総裁と会食した後、萩生田政調会長とは25日夜、世耕参院幹事長とは27日昼に会食している。むろん主要三派閥の離反を防ぐための涙ぐましい努力だろうが、こと安倍派に関しては、二人に話をしておかなければならないほど岸田首相は気を遣っているのだ。

ポスト岸田を狙う茂木氏と、キングメーカー麻生氏は、弱体化した岸田首相をいつ見限るかわからない。不安にさいなまれる岸田首相は、その無策無能に乗じて政策を実現しようとする萩生田氏の謀計に頼らざるを得ないパラドックスに陥っている。

統一教会疑惑を背負ったままの萩生田氏を更迭することなく党の重職に起用したばかりに、清和会支配の呪縛から逃れられない状況が続いているともいえるだろう。

全方位で「聞く力」を発揮すればするほど、出てくるのは国民の幸福とはほど遠い、既得権にまみれた政策ばかりのような気がしてならない。

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image by: はぎうだ 光一 - Home | Facebook

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