国が作り上げたウソの脅威。元防衛相も認めた「島嶼防衛論」の無理筋

 

22万人の難民が日本へ?

半田前掲書によると、戦争勃発直後に北朝鮮の人口の1%に当たる23万人7,000人、また韓国では44万人が難民となり、そのうち北朝鮮難民の5万人と韓国難民の22万人が日本に押し寄せるというのが、同計画の想定である。しかしこれはまあ、机上の空論というか、ほとんど与太話で、一度は立ち消えになりかけるが、2003年に北が再びNPTを脱退し06年に地下核実験を強行するとまたゾンビのように蘇り、さらに2010年の尖閣諸島での中国漁船衝突事件をきっかけとした野田政権による同諸島“国有化”で日中関係が緊張する中、今度は「中国軍や、漁民に偽装した海上民兵が尖閣を獲りに来る」という“中国脅威論”のネタとして化粧し直された。さらにこれに米バイデン政権による「台湾有事切迫論」のデマゴギーが被って来て、とうとう岸田政権の防衛費倍増への猪突猛進にまで繋がってしまった。

この“脅威”の旧ソ連から北朝鮮へ、さらに中国への横滑りについては、本誌は何度も述べているが、最近ではNo.896=17年7月3日号の沖縄での講演記録で触れているので、その部分を再録して参考に供す。

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《INSIDER No.896の一部を再録》

誇大妄想の産物としての陸自「島嶼防衛論」

1つ嘘をつくと、それを取り繕おうとしてもっと大きな嘘をつくことになり、話があらぬ方向に転がって行ってしまうというのはよくあることで、例えば最近では安倍晋三首相の「獣医学部新設は今治市に限定する必要は全くない。速やかに全国展開をめざしたい」という6月24日の発言がその典型。お友だちの加計学園経営者から言われるままに獣医学部新設を認可させるべく官邸を通じて文科省に圧力をかけ、まさかお友だちに便宜を図るためとは言えないから、「国家戦略特区」という大袈裟な装置を持ち出して獣医師会という既得権益集団による岩盤規制に自らがドリルと化して穴を空けるという構図を描き出した。

ところが、今ではよく知られているように、実はこれは、岩盤規制でも何でもなかった。獣医師は総数が足りないことが問題なのではなく、防疫など公衆衛生に関わる国及び地方の公務員獣医師が待遇が悪く仕事もきついために敬遠されがちで、多くは簡単に儲かる都会でのペット病院開業に走るという就業先の“偏在”が主な問題で、これは獣医学部を新設して獣医師の数を増やすことによっては何も解決しない。だから獣医師会は新設に反対したのだが、安倍はそれを岩盤と錯覚してしまった。

それで、加計を特別扱いしたのはおかしいということで非難が集中すると「いや、加計のためだけにやったのではない」と弁解し、それに説得力を与えようとして「速やかに全国展開をめざす」ことになって、ますます問題の本質からかけ離れてしまう。獣医師会が「驚愕の発言」と声明したのは当然である。

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