先日掲載の「日本は侵略などされない。脅威を捏造し『防衛費倍増』する国民ダマシ」では、中国や北朝鮮が日本に上陸侵攻してくることなどあるはずがないことを論理的に解説した、ジャーナリストの高野孟さん。高野さんは今回もメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、岸田政権が防衛費倍増の根拠とする「日本が直面している脅威」が国や自衛隊により作り上げられたものであることを、後に防衛大臣となる森本敏氏との過去の対談記事等を引きながら証明しています。
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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年12月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
日本が直面している「脅威」とは?/「K半島事態対処計画」の信じられないほどの虚妄性
先週号の末尾で述べたように、冷戦の終わりを受けて日本でも、旧ソ連を筆頭に北朝鮮、中国の旧共産圏諸国(自衛隊の符牒でZ・Y・X)を仮想敵と設定しその“脅威”に日米韓(同A・B・C)の軍事同盟で立ち向かうというそれまでの安保の基本構想を抜本的に見直そうとする知的な試みが広がり始めたものの、折悪しく北朝鮮が核不拡散条約(NPT)を脱退して核・ミサイル開発に走ることを宣言、それに激怒した米クリントン大統領が一時は寧辺核施設を空爆で破壊し金正日を爆殺ないし斬首する作戦を決意する事態が生じ、たちまち旧ソ連に代わって北朝鮮が諸悪の根源であるかの時代の空気が出来上がった。その時期に自衛隊の統合幕僚会議が密かに練り上げたのが「K半島事態対処計画」である。
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空想力の産物
同計画の内容を詳しく紹介した半田滋『自衛隊vs北朝鮮』(新潮新書、03年刊)によると、当時の自衛隊が想定した北朝鮮の日本侵攻シナリオは
- 航空侵攻
- 弾道ミサイルによる攻撃、
- 正規軍の特殊部隊(ゲリラ・コマンドウ)による上陸攻撃
- 海上交通路妨害
の4つ。いずれも、空想力を精一杯拡張して「もしかしたらこんなことも起きるかもしれない」と並べてみたという体のもので、実際には、その時すでに米軍の核を含む攻撃に晒され米韓合同軍との地上戦も始まっているであろう危機の真っ最中に、直接の交戦国ではない(米軍基地を提供し自衛隊が後方支援を担当する間接の対米支援国ではあるが)日本に対し、1機の航空機はおろか1人の兵員さえ差し向ける必要などある訳がなく、また仮にあったとしてもそのゆとりがある訳がない。
約30年後の今日では、北のミサイル開発が進展し、総数700~1,000発のうち300~450発は日本に撃つのに丁度いいノドン級準中距離ミサイル(射程1,000~3,000kmに対し平壌~東京間は1,300km)と推定されるので、2.のミサイル攻撃が主な脅威シナリオとなるのだろうが、同計画策定の頃はほとんど重視されていなかった。それよりも、当時の自衛隊がそう信じ、また“脅威”の切迫感を世論に訴える手段としてメディアを通じて色々な形でバラ撒かれたのはむしろ3.で、それは「北朝鮮や韓国の一般の人々が難民となって大量に日本に雪崩れ込み、それに混じって武装したゲリラが上陸して騒乱を起こす」といったストーリー。新聞では読売と日経が特におどろおどろしい彩色を施してこれを繰り返し報道したと記憶する。
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