日本のサラリーマンを揶揄する「社畜」という言葉がありますが、そこに熱はないようです。アメリカの調査会社によれば、「熱意溢れる社員」はたった6%で調査した139カ国中132位、70%が無気力という驚きの結果が出ています。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で、健康社会学者の河合薫さんは、90年代以降に「人」を大切にしてこなかったツケが出ていると主張。賃金が上がっていない国として問題視する声への反応がようやく見え始めてはいるものの、まだまだ「人への投資」が足りないと訴えています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
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「熱意あふれる社員」たった6%の衝撃。日本は「人」を大切にしなかった
2021年の日本の時間あたり労働生産性は49.9ドルで、経済協力開発機構(OECD)に加盟する38カ国中27位だったことがわかりました。20年の26位からさらに順位が後退し、米国(85.0ドル)の6割弱の水準にとどまり、エストニア(51.0ドル)やラトビア(48.6ドル)と同水準です。
また、日本の一人当たり労働生産性は、8万1510ドルで、OECD加盟国中29位。日本の“お家芸”だった製造業の労働生産性も、9万2993ドルとOECD加盟国中18位と低迷しています。
データを分析・検証した日本生産性本部は、今回の結果について「新型コロナウイルスからの経済活動の回復が遅れたのが一因」としていますが、コロナがなくても同様の結果が出たのでは?というのが私の見解です。
日本の生産性の低さはこれまでも度々指摘されてきました。「長時間労働」が原因とされたり、「無駄な作業が多い」と効率化の推進が叫ばれたり。しかし、至極シンプルに考えれば、生産性が低下し続けている原因は、付加価値が生まれる“現場”の衰退です。現場の弱体化こそが根本的な問題なのです。
いい現場は「人」を育てます。いい現場は、人生の質を高め、人生に意味を与えます。しかし、日本は「人」を大切にしなかった。現場はズシッと重たいものであり、「いい現場を残す」のが一番の成長戦略なのに。
1990年代以降の日本は、人への投資を惜しみ、「カネ」だけを追い続けました。流動化より大事なのは、その地域でじたばたやっている現場を残していくことなのに。「流動化、流動化」と、人を残すことより、動かす=切ることばかりに躍起になった。
リーマンショック以降、米国はグローバルではなくローカル、カネより人と、19世紀の古典的経済学に舵をきったのに、日本はグローバルにこだわり、カネばかりを追いかけた。その末路が、今の日本企業の生産性の低さであり、安い日本であり、やる気を失った会社員です。
アメリカギャラップが実施した従業員のエンゲージメント調査で、日本は「熱意溢れる社員」がたったの6%で、米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位という残念な結果もでています。しかも、この調査では「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」は70%と壊滅的だったこともわかりました。
最近は、やっと「人への投資」に力を入れる企業もでてきました。しかし、その動機になっているのは「世界の潮流」です。つまり、流行り(というには遅きに失した感ありありですが)を取り入れたところで、会社組織の隅々まで蜘蛛の巣をはるように、「人」へ投資を徹底しない限り、矛盾だらけの組織に成り下がります。
今こそ「経営の根幹は人」という当たり前に気づいて欲しいのですが、賃金上昇の動きの鈍さを見る限り…、日本の生産性が改善される見込みは…ほぼありません。みなさんはどのようにお考えですか?ご意見、お聞かせください。
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