長年仕えた安倍元首相が防衛力強化の財源としてかねてから「国債」を挙げていたこともあり、萩生田氏もまた個人的には増税に反対の立場であることは間違いない。なのに賛否両論あるこの問題であえて、とりまとめ役を買って出たのはなぜなのか。
今月19日に開かれた特命委員会の初会合で萩生田氏はこう述べた。
「2項対立ではない。自民党の中で何かこれを巡って対立しているのではなくて、しっかりと建設的な議論をして、有権者の方々に、自民党、そして政府の考え方をしっかりと説明できるように、特命委員会でこれから議論を進めていこう」
つまり、増税か増税反対かという2項対立はやめて建設的な議論をしようというのである。この姿勢には、統一教会の疑惑にまみれた自分を政調会長に起用してくれた岸田首相への気遣いが感じられる。
しかし一方で萩生田氏の動きは、岸田首相に緊張感を強いている。防衛増税を許容するのか、強硬に反対して場合によっては政局につなげるのか。それは特命委員会を束ねる萩生田氏の胸三寸にかかっていると言っても過言ではない。
萩生田氏は今のところ、岸田首相と菅前首相のいずれにつくということもなく、等距離で接しているといえよう。下世話な言い方をするなら、これからの権力闘争にそなえ、二股をかけているのである。
すなわち、岸田政権が長続きするとみれば、このまま政権中枢で重きをなし、幹事長ポストを狙う。幹事長になれば、総理への道も切り開けよう。逆に岸田政権の崩壊が近いとみれば、安倍政権時代に官房長官、官房副長官としてともに仕事をした菅氏との連携をはかるだろう。
以上みてきたように、目下の権力争いは、岸田増税路線をめぐる対立が導火線となって本格化しつつある。来年秋の自民党総裁選を無事切り抜けて長期政権につなげたい岸田首相としては、菅前首相になびかぬよう萩生田氏の機嫌をとっていきたいところだが、重用すればするほど萩生田氏の権勢は強まり、その分、よけいに謀反を心配しなくてはならなくなるだろう。
統一教会と自民党の癒着関係は、保守政治の根幹を揺るがす深刻な問題だ。その重要人物の一人である萩生田氏がしっかりした説明責任を果たすこともなく、いまだ権力闘争のど真ん中で、総理の首根っこを押さえるかのごとく振る舞っているのだ。安倍派に忖度した岸田首相が党幹部人事で自ら招いたといえるが、なんとも皮肉な状況である。
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